月の王とかぐや姫   作:ホッシー@VTuber

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第65話 世紀の竹取合戦 三回戦:序盤Ⅱ

(くっ……すばしっこい!)

 

 速度強化が切れた乃依を倒すため、私たちは全力で彼へ攻撃を仕掛けているが軽々と回避される。そして、少しでも気を抜けば鋭い矢が飛んできて思わず足を止めてしまう。帝の強さもそうだが、相手はプロゲーマー。やはり、一筋縄ではいかない。

 

「ほらほら鬼さんこちら♡」

「鬼はてめーだろうが、よ!」

 

 くいくいと手招きされ、かぐやがそれに釣られてしまう。ブン、と振られたハンマーを回避してすかさず矢を一射。慌てて私が剣をその軌道上に置いて弾き飛ばした。

 

「かぐや、落ち着いて! 相手の思う壺だよ!」

「わかってるけど……わかってるけどぉ!」

「ザビ子があんなに頑張ってるのに俺一人倒せないなんてざーこざーこ♡」

「あぁ!? なんだとこのやろ!」

 

 乃依のメスガキムーブにブチ切れるかぐや。頼む、頼むから落ち着いてくれ。でも、彼の言うとおりだ。ザビ子は今、崖の下で帝と雷の相手をしている。私たちがここで乃依に負けるのだけはあり得ない。絶対に、負けられない!

 

(でも、どうする? このまま時間を稼がれてまた魔術(コードキャスト)を使われたら……)

 

 私が選んだ魔術(コードキャスト)回復(ヒール)。戦闘継続時間を伸ばせるように、と選んだがこの状況では役に立たない。そして、かぐやの魔術(コードキャスト)は筋力強化であり、攻撃が当たらない現状では使っても意味がなかった。いや、待て。やりようによってはいけるか?

 

「かぐや、作戦がある」

「え、何?」

 

 迷っている暇はない。乃依に聞かれないように通話をチームチャットに切り替えて声をかけた。そして、手短に作戦を伝えるとかぐやもニヤリと笑う。

 

「よっしゃー! こっからが本番だー! ドーン!」

 

 

 

 ――【gain_str(16);】

 

 

 

『ここでかぐや、魔術(コードキャスト)を切った! うん、当たり前のように筋力強化です!』

『多分、この配信を見ている全員が予想していたことでしょう! 期待を裏切らないキャラクター性! 正直、推せます!』

 

「うーん、でも、今の状況で使う意味ある? 当たらなければどうってことないって赤い人も言ってるし?」

「誰だその赤い奴!」

 

 筋力が強化されたかぐやがこれまで以上の勢いでハンマーを振るう。だが、それでも乃依には当たらない。そうだ、乃依は今、時間を稼いでいるだけ。本気で私たちに攻撃を当てるつもりはない。回避に専念しているのだから彼らほど上手くない私たちでは当てるのは至難の業。

 

(だから、隙を作る!)

 

「おっっっりゃああああああああ!!」

 

 何度もハンマーを振るって、振るって、振るい続けるかぐや。そして、乃依が避けるために後ろへ跳ぶと同時に振り上げたそれを全力で地面に叩きつけた。

 

「お?」

 

 その破壊力はまさに必殺技(ウルト)並み。かぐやが叩いた地面は粉々に砕け散り、乃依の周辺の地面を全て吹き飛ばした。

 

「シッ――」

 

 それに合わせて私は必殺技(ウルト)を切る。憎たらしいが私の必殺技(ウルト)も帝と同じ『超加速』。宙に浮いた瓦礫をピョンピョンと跳び回り、乃依へ一気に接近した。今の彼は宙にいる状態。超加速の速度に追いつけない。取った!

 

「んー、これは予想外……でも、最低限の仕事はするよ♡」

「え?」

 

 勝利を確信した直後、乃依も必殺技(ウルト)を使う。彼のそれは超強力な遠距離攻撃。しかし、その矢が向いているのは私ではなく――。

 

(しまっ……)

 

「それじゃあ、バイビー♡」

 

 私の剣が彼を貫くと同時に彼の矢が射出される。虹色に輝くそれは真っ直ぐ櫓へと向かい、牛鬼をワンパン。そして、続けざまに放たれた二射目の矢が盛大に鐘を鳴らした。その頃になってようやく私の剣が彼の体を貫き、いつもの余裕ぶった顔のまま、乃依は花びらと共に消えていく。

 

『ボトム櫓占拠ー!! 乃依、いろPに撃破されながらも仕事をこなしました!』

『うーん、これは鮮やか。かぐや・いろPの作戦も見事でしたが一枚上手でしたね』

 

「ぎゃああああ! やられたぁ!」

「くっ……」

 

 やらかした。やってしまった。乃依を倒すのに夢中になって櫓を占拠されてしまった。これでトップレーンの櫓を取られたらコールド負け。そして、そのトップレーンでザビ子が帝と雷相手に戦っている。彼女は魔術師(ウィザード)。圧倒的に不利な状況。彼女がやられた時点で私たちの――。

 

『こ、これはどういうことだ! トップレーンで戦っているザビ子たち。そう、まだザビ子は健在! HPはギリギリだが、それでも生きている!』

魔術師(ウィザード)ってサポ職では? どうして、前衛二人相手にまだ生き残っているんでしょう? ねぇ、見せて! その戦い、絶対に歴史に残るような名勝負だよ!』

 

 ――しかし、そんな実況の声に顔を上げる。帝と雷相手にまだザビ子は戦っていた。HPバーは全損一歩手前。MPも二割ほどしか残っておらず、まともな魔術(コードキャスト)は使えないはずだ。

 

『かぐや、いろP。そのまま天守閣に向かって。なんとか雷を落とした後、櫓を落とす』

「な、んで……」

『まだ勝負はついてない。私たちが負けるわけないよ。だって、私たちなんだから(・・・・・・・・)

「……」

 

 私たちなんだから。ザビ子はそう言った。言葉が足りな過ぎて意味がわからないはずなのに不思議と心の中へ染みこんでくる。まるで、その言葉は彼女からの――。

 

『じゃあ、後はよろしく』

 

 そこで通信が切れた。普通であれば無理だと反対するような提案。でも、不思議と彼女ならやってくれると信じることができた。

 

「かぐや、天守閣に向かうよ」

「ほーい」

 

 私はかぐやと一緒に敵チームの天守閣へ向かう。もちろん、このまますんなりと勝てるとは思っていない。相手は黒鬼、プロゲーマーチームだ。

 

(お兄ちゃん……)

 

 チラリを視界に表示されている帝の顔を見やる。今もなお、ザビ子と戦っているはずだ。私では全く歯が立たなかった相手。そういえば『キョーダイ会議』でもよく負けて煽られていた。

 

『ザビ子、雷を撃破! どうやら、隙を突き、毒を与えてHPを削り切ったようです!』

『そのままライドに乗って離脱! 毎度ながらライドに速度強化を施して逃走――いえ、櫓へ向かっています!』

『それから遅れて数秒後、帝もその後を追いかける。出遅れたことから攻撃(スタン)を受けていたのかもしれません!』

『因みに崖下の戦闘に関する映像はありませんか!? 絶対に見たいんですけど!』

 

 私たちが天守閣へ向かっている間にザビ子は仕事を終えたようだ。本当に、相変わらず出鱈目な人である。

 

「っと」

 

 天守閣までもう少し、というところで私を狙って矢が放たれて慌ててその場から離れた。

 

「やっほー、さっきぶり♡」

「やっぱ、そう上手くいかないか」

 

 少し離れた岩でできた高台に可愛らしい弓兵が片膝を付いていた。敵陣からここまで真っ直ぐ来て待ち構えていたのだろう。

 

(この後、ここに雷も来る。その前に乃依を倒さないと)

 

「じゃあ、楽しく踊ってね」

 

 

 

 ――【move_speed();】

 

 

 

「げっ、また!?」

「くっ」

 

 乃依が最後の速度強化を発動する。これでその効果が切れるまで私たちはここで逃げ惑うしかない。その間に雷が来てタッグ戦になり、倒すのが難しくなる。せっかくザビ子がくれたチャンスを無駄にしてしまう。

 

『ここでザビ子が後衛とは思えない速度で牛鬼を倒してトップの櫓を占拠! しかし、そこで帝に追いつかれて再び戦闘ー!』

『普通、サポ職は最初に潰されるはずなのに仕事しすぎです! てか、まだ生き残ってるぅ!』

 

「彩葉、どうする!?」

「……死なないことだけを考えて! 私たちがやられたらそれこそ終わり!」

「わ、わかった!」

 

 冷静になれ。今は乃依の猛撃をどうにかする方が先だ。私はHPが減っていたかぐやに回復(ヒール)魔術(コードキャスト)を投げて彼から放たれたマシンガンのような矢の嵐に向かって剣を振るった。






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