月の王とかぐや姫 作:名無しのマスター
「やっぱ、桁違いだよ、ザビ子ちゃん」
そう言いながら帝が振るった剣をギリギリのところで回避。即座に
「崖下で俺と雷を相手に時間を稼いだ挙句、
「でも、雷もわざと私に撃破されたよね」
乃依が撃破され、彩葉とかぐやは敵陣の天守閣へ向かった。もちろん、乃依も二人を止めるために戦うだろう。しかし、プロゲーマーでも後衛が前衛二人相手に戦うのは圧倒的に不利だ。だから、雷が乃依を手助けするために自陣に死に戻った。後がなくなることも承知の上で。
もちろん、メリットはある。二対二にすることで彩葉とかぐやを撃破しやすくなることだ。特に彩葉は残機がない。落とされた時点で退場となり、そのままこちらの天守閣まで攻め込めば勝ちとなる。
つまり、両チーム共に櫓を占拠したことで戦況は五分に見えるが、実際は雷が自陣に戻り、乃依の方へ向かった時点でこちらが一気に不利となった。そうせざるを得ない状況を作らされたと言ってもいい。乃依が残機と
「へぇ、そこまでわかってんのに素直に見逃したんだ」
「あそこで相打ちに持ち込まれたらその時点で私たちのコールド負け。だから、最低でもトップレーンの櫓だけは何としてでも占拠するしかなかった」
「なるほどね、それで途中からHPを回復せずにMPを温存する方にシフトしたのか。でも、櫓を占拠したところまではよかったけど結構、無理したんだろ? だから、こうやって俺に追い詰められてる」
「……」
牛鬼を倒すのに
(どうする?)
ここではカメラを通して観客たちに戦っている姿が見られるため、鏡は使えない。ミニマップを見ればすでに雷が乃依と合流し、じわじわと彩葉とかぐやを後退させている。このままでは撃破されなくてもいずれ自陣の天守閣まで追い詰められてしまうだろう。
しかし、どうする? 崖下の攻防で帝のHPもそれなりに削ったが半分ほど残っているはず。それに対し、私は風前の灯火。牛鬼を倒すために自分にかけた筋力と速度強化、そして、念のためにかけた幸運強化のバフが残っているものの、MPは枯渇しており、
(何か使えるもの……)
周囲を見渡して――見つけた。上手くいけばいける。流れを逆算してこの後の動きを瞬時に算出。うん、上手くいくかわからないけど細かいところはアドリブで頑張ろう。
「まぁ、俺もリベンジしたかったし、最後まで付き合ってくれよ」
「それは勘弁」
そもそも、今にも死にそうな私とのんびりと話をしていたのは向こうも時間稼ぎをしたかったのだろう。その間に雷たちが彩葉たちを撃破すればほぼこちらの詰み。そこまでいかなくてもこちらの天守閣に近づいている現状、私と帝の戦いが長引けば長引くほど私たちが不利になる。
だから、帝の挑発的な笑みを見た私は彼に背中を向けて逃走。速度強化のおかげで帝との距離が一気に広がった。
「また逃げんのかよ!」
そう叫んで慌てて私のことを追いかけてくる帝。目指すのはただ一点。高速ライドが飛び立てる高台である。後ろにいる帝もそれに気づいたのか、私を止めようと走りながら銃を乱射。ここで足を止めたら終わりなので当たらないことを祈りながら高台を目指す。
「うぐっ」
しかし、高台に到着してライドを呼び出そうとしたところで左肩に被弾。不運にもアバターのバランスが崩れてその場に片膝を付いてしまった。HPは――レッドゾーン入っているがそれでも残っている。もう少し当たりどころが悪かったら今ので撃破されていただろう。
(念のために幸運強化もかけておいてよかった……)
幸運強化は乱数が関係する要素にテコ入れするバフ。牛鬼相手に運要素が絡む可能性が高いとかけておいて正解だった。
「鬼ごっこは終わりだ」
その声に振り返ると帝がどこか疲れた様子でこちらに剣の切っ先を突き付けている。絶体絶命の大ピンチ。後ろは崖。左右には逃げられない。
「じゃあ、天守閣で会おうぜ」
そう言って帝は静かに剣を私へ突き出した。おそらく、私が自陣に死に戻った後、天守閣で再び対峙すると考えているのだろう。また、可能な限り、予備動作を少なくして隙を見せないところはさすがプロゲーマー。でも、残念。使うなら銃であるべきだった。
――【shock(32);】
銃弾に被弾したことでギリギリMPが足りた。右手から
「なっ」
剣の軌道をずらされた帝は大きく目を見開いた。相手に影響を与える
そして、剣を突き出した際に伸ばされた彼の手を掴み、後転するように後ろへ倒れ込む。筋力強化された私の腕に引っ張られ、帝の体は前へ傾いた。
「お、いおいおいおい!」
その勢いで私たちの体は高台から空中へ投げ出される。もちろん、逃がさないために強化された筋力を盛大に活かして彼を抱きしめた。まさかの展開に耳元で帝の悲鳴のような声が響き渡る。先ほど私が落ちた崖よりも高い場所。HPが半分ほどしか残っていない帝は耐えられないはずだ。
「じゃあ、一緒に自分の天守閣に戻ろうね」
「ふざけんなっ! このっ!」
着ぐるみのせいで見えないが満面の笑みを浮かべると彼は必死に逃れようと腕の中で暴れる。だが、天下の帝様でも筋力強化された私の腕力には勝てず、私たちは仲良く地面に叩きつけられて落下ダメージによって死んだ。
『ザビ子、まさかの帝を道連れー! あの状況から相打ちに持ってくとかやばすぎぃ!!』
『この
ポコン、と桃から産まれた私は頭を振ってミニマップを見る。狙いどおり、帝も敵陣の天守閣に戻っていた。我ながら惚れ惚れするほどの心中。さて、ここから帝はどう動く?
「……」
ミニマップの動きに注目していると彼は何故か乃依が占拠した櫓に飛ばず、トップレーンの櫓を目指していた。なるほど、そう来たか。それなら私は――。
『ザビ子にしてやられた帝、トップレーンへ向かいます!』
『それに対してザビ子はミドルへ! かぐや、いろPへの助太刀か!』
ヒポ君に乗ってミドルレーンを突っ切る。速度強化もきちんとかけてミリオンたちをスルー。そして、自陣の天守閣へじわじわと追い詰められている彩葉とかぐやを見つけ、
「おっと」
しかし、私の位置はミニマップに表示されているため、簡単に避けられてしまう。だが、攻撃の手は止んだ。その間に私は彩葉とかぐやに合流する。二人とも長時間の戦闘で疲れたのか肩で息をしていた。アバターを操作するだけなので肉体的疲労は少ないが、やはり撃破されないように集中していたのか、精神的に疲労が溜まっているのだろう。
「ここは私に任せて。二人は帝と決着をつけてきて」
「え、でも……ザビ子が帝と戦った方がいいんじゃ?」
後ろにいる彩葉が迷ったように言い淀む。確かに私は帝と何度も戦い、簡単には負けないだろう。だが、負けないけど勝てない可能性の方が高い。つまり、どうしても彼を突破するには時間がかかる。その間にかぐやと彩葉の方が崩れたら終わりだ。それなら私が雷と乃依と戦って足止めし、かぐやたちが帝を倒す方に賭けた方が勝率は高い。それに――。
「お兄ちゃんなんでしょ」
「え?」
一年前、今にも死にそうな彩葉から家族の話を聞いたことがある。
厳しいけどかっこいい憧れのお母さん。
いつも話を聞いてくれる優しいお父さん。
そして、意地悪だけど一緒にゲームをしてくれるお兄ちゃん。
彼女はそんな家族が大好きだった。大好きだったのに歯車が外れて何もかもがバラバラになってしまった。そのせいで彩葉はボロボロになりながらここまで逃げてきた。
「行ってきてよ。私、こんなに強くなったよって見せてきてよ。大丈夫、彩葉ならできる。この一年、ずっと傍で見てきた私が保障する」
「ッ……やっぱり、あなたは……」
「彩葉のアバターだってわかってたってことはずっと気にしてた証拠。自信を持って、彩葉。あなたは見捨てられたわけじゃない。一思いにぶっ飛ばしてきてよ。色々と言いたいこと、あるんでしょ?」
「……かぐや、ここはザビ子に任せよう」
「え、あ、うーん? わかった!」
私の言葉に彩葉は息を呑んだ後、かぐやを連れて静かに自陣へと向かう。帝は何故か櫓付近で立ち止まっていた。まるで、来たるべき人を待つように。
(それにこれは世紀の竹取合戦。やっぱり、かぐや姫と帝の直接対決に決着をつけるべきだよね)
私はあくまで助っ人。気持ちとしてはこの一か月、『はくのん』として一緒に活動してきたため、絶対に勝ちたいのだが、こればっかりは我慢するしかない。少なくとも今は、だが。
「やっぱ、こうなったかー。ま、俺たちもやられっぱなしは性に合わないし。ちょうどよかったかも」
「もう好きなようにはさせない」
もしかしたら彼らも私と同じ気持ちだったのかもしれない。雷と乃依は彩葉たちを見逃してくれた。彼らはプロのゲーマーだが、それと同時にファンたちを楽しませるライバー。この戦いの見せ場を作ろうとしているのだろう。
(さて、と……)
目の前に立つ彼らは
「……よし」
私は彩葉とかぐやを信じている。なら、私は私にできることをやる。それだけだ。
HPは満タン。MPの残量は七割。敵はタンクと遠距離型のプロゲーマー。相手として不足はない。じゃあ、やれるところまでやってみようか。
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