月の王とかぐや姫 作:名無しのマスター
『かぐや・いろPが帝を撃破ー! そのまま二人は天守閣へ向かうー!』
雷と乃依を相手に戦っていると不意にそんな実況の声が耳に届いた。それは向こうも同じらしく、戦う手を止めて小さく笑みを零す。
「えー、帝ちゃんやられちゃったのー?」
「なおさら負けられないな」
「……」
帝を撃破したとはいえ、まだ私の前に雷と乃依はいる。ここで私が倒された場合、帝が自陣の天守閣を守り、雷と乃依がこちらの天守閣を攻めてくるだろう。そして、そのままジリ貧となって負ける。
「すぅ……はぁ……」
呼吸を整え、重心を低くして構えた。これまでの戦いは彩葉とかぐやが帝を撃破するまでの時間稼ぎだったがここからは違う。今の私が出せる本気で彼らを倒す。
「……何かあった? 雰囲気変わったよね?」
「乃依、気を付けろ。何か来る」
「オッケー」
私の纏う雰囲気が変わったことを感じ取ったのか、雷と乃依は目を細めて構えた。こちらのHPとMPは共に三割。バフは筋力、速度強化のみ。ここで一つ、切り札を使う。そうすれば少なくとも乃依は倒せそうだ。
「――」
戦闘再開の合図は乃依の一射だった。私に向かって放たれたそれを紙一重で回避する。ヒットボックスの大きい着ぐるみアバターのせいでほんの僅かにHPは削れてしまったが気にせず、前進。そんな私の進路を塞ぐように雷が大盾を構えながら移動した。
「乃依の方へは行かせない」
「……」
彼の言葉に返答せずに挨拶代わりの右ストレート。強化されたその拳は雷であっても完璧に防げるわけではなかったようで少しだけ後ろに押された。しかし、私の動きが止まったところに乃依から遠慮のない狙撃。急いでその場で屈んでそれを回避した。
「ふんっ」
「っ……」
だが、本命は雷のスキル。彼が錫杖を一振りすると私の足元の地面が隆起して思いきり上へ投げ出された。空中にいる私は無防備。そんな私を狙う乃依の矢先が日差しを反射してキラリと輝く。
「ゲームオーバーってね」
パシュ、と乾いた音と共に放たれた矢は私の心臓部分を的確に貫く。HPがガリガリと削れていき――。
――こんなところで負けるそなたではなかろう! さぁ、奏者よ! 観客たちの度肝を抜いてやれ! 共に我が伝承を再現するのだ!
そうだ、彼女は死神に肩を叩かれてもなお、目を覚ました。その数は三回。もちろん、私にそんな偉業は真似できない。それでも、その真似事ぐらいならやってみせよう。そのためにこの
「
『
――全損するかと思われたHPバーは一ドットだけ残して不自然に止まった。
「何ッ!?」
「え?」
撃破されたと思われた私が空中で姿勢を整え、両手の人差し指を雷と乃依へ突き出す。その動きを見て目を見開いた二人だったがさすがプロゲーマー。雷はその体を大槌の後ろへ。乃依は狙われないように咄嗟に後ろへ下がった。
これから私は
――なに、難しい話ではないぞ、マスター。見えるということは
そんな私の不安を和らげるように彼の声が聞こえたような気がした。ああ、そうだ。彼はいつだってこの言葉を口にしていた。撃鉄を落とす魔法の言葉。私がこの言葉を零したところで意味はない。それでも、彼の大きな背中を思い浮かべながら口にすれば……きっと、意味を成す。だって、この言葉はそれだけの価値があるのだから。
「
『
――【release_mgi(a);】
――【release_mgi(a);】
その言葉を口にするとカチリ、と歯車が嚙み合ったように視界がクリアになり、指先を僅かに動かして修正。そして、ダメージこそないが
「くっ」
「この距離、当てるとかやばすぎー」
私が放った
地面に着地した私は雷の隣を通り過ぎ、乃依へ迫る。
「ゴッ」
避けることもできず、後ろへ吹き飛ばされた彼の後を追い、地面に倒れた直後、彼の上に乗った。可愛らしい彼のアバターの口元が引きつる。
「ごめんね」
時間がないため、短い謝罪の言葉の後、私は彼の顔に遠慮なく何度も拳を叩き込む。絵面は最悪だが、これが今の私が出せる最大ダメージだ。
「えーん、こんな終わり方なんてサイテー」
筋力強化+速度強化の連打には彼のHPは持たなかったようで花びらとなって散った。少し申し訳なくなったがこれも戦いだ。悪く思わないでほしい。
『あ、えっと……ザビ子、乃依を撃破! でも、何故、彼女は乃依の矢を受けて生き残れたのでしょう!?』
『……あ、
『え、あれって攻撃を受ける直前に
『そう、なりますね』
MCの二人が言葉を失くしている間に動けるようになった雷がこちらへ振り返る。これで残機を失った乃依は脱落。あとは雷との一騎打ちだ。
「
「効果を見て知り合いを思い出したから選んだだけ。意表を突けてよかった」
「ふっ……してやられた、ということか。だが、まだ俺がいる」
そう言いつつ、雷は重心を低くする。私は雷に対して相性がいい。乃依をタコ殴りにしたおかげでMPも
(……でも、なぁ)
乃依が倒されてしまったのに雷はどこか余裕がある。帝を信じている? いいや、違う。もっと確信めいた勝ち筋を知っているようだ。
「……」
ミニマップを見て彩葉たちに撃破された帝がこちらの天守閣に向かっているのを確認しながら鏡を手元に戻す。そして、再び雷に突貫。
「これ以上、長引かせて回復されるわけにはいかない。ここで一矢報いさせてもらう」
「ッ――」
バチリ、と雷の錫杖から紫電が弾ける。この兆候は――
再び、彼の大盾へ蹴りを放つ――フリをして盾を蹴って真上へ跳躍。そのまま、上を取った後、右手を真下に突き出す。
――【add_poison();】
彼の右肩に
「ふっ、さすがだな――だが、これで俺もリベンジ達成だ」
私が放った
『ザビ子、雷、相打ちー! だが、ザビ子には残機がある! しかし、戦線へ復帰するのは難しいか!?』
『かぐや・いろPが天守閣に到着! 帝も超加速の
暗転した視界がクリアになる。HPが全損して自陣に戻されたのだ。早速、行動開始。ヒポ君を呼び出して死に戻ったことで半分まで回復したMPを使い、速度強化を施す。
(間に合うか)
『おっと、かぐや! 勢いよく天守閣の前で立ちはだかるミニオンたちを吹き飛ばしていくぅ!』
『ハンマー職の突破力を活かした戦法。このまま、天守閣陥落となるか!?』
『しかし、帝も天守閣に到着! ハンマー職ではないのにどうして同じペースでミニオンを蹴散らせるのか!?』
実況の声を聞きながら天守閣へ向かう。自陣の天守閣は目と鼻の先。この不安が杞憂に終わればそれでいい。でも、あの雷の態度がどうしても気になった。
『ああああああああ! 達磨落としの前まで辿り着いたかぐや! しかーし、ここでまさかの爆発! 雷の地雷トラップだぁ!!』
「ッ!」
そうか、これか。雷がずっと狙っていたのは。だが、まだ負けていない。私がいる。
『帝、その隙に達磨落としへ接近! これは、まさか黒鬼の逆転勝ちか!?』
――【gain_con(32);】
帝が達磨落としへ金棒を突き出す寸前、ヒポ君から飛び降りた私が滑り込んで両腕を胸の前でクロスしてそれを受け止めた。咄嗟に耐久力を上げたが
『いや、この展開を予想していた軍師が一人! ザビ子! ザビ子です! 彼女がギリギリのところで帝の一撃を防ぎました!』
『かぐやは地雷によって撃破! 一人残されたいろPは天守閣へ向かいますが彼女の突破力では天守閣前に配置されたミニオンを攻略するまで多少時間がかかります!』
「やっぱ、邪魔してくるか。でも、どうやって気づいた? あの時点ではかぐやちゃんが達磨落としを天守閣に撃ち込めば終わり。ほぼ勝ち確の状態だった。完全に意表を突いたと思ったんだけど」
「嫌な予感がしたし……帝が自陣の天守閣を守るんじゃなくてこっちの天守閣を目指してたから天守閣を守る何かしらの仕掛けがあるのかなって」
「……はぁ。さすがにあからさま過ぎたか。だが、好都合。そろそろ決着、つけようぜ。俺はずっとザビ子ちゃんにリベンジしたくて仕方なかったんだからな」
そう言って彼は金棒を私に向ける。それに答える前に私は自分のHPバーを確認して半分ほど吹き飛んでいたため、
「待っててくれてありがと。じゃあ、やろうか」
「ああ、そうだな!」
私の準備も終わり、ほぼ同時に前へ駆け出す。私と帝の最後の戦いが始まった。
オリジナル
HPが0になるダメージを受ける直前に発動すれば1だけ残って耐えられるウルト。
タイミングがシビアであり、試合中、一度しか使えないため、不人気。
原作で出てきたウルトは帝が使った『超加速』と乃依が使った高火力の遠距離攻撃、かぐやのハンマースタンプ。また、ヤチヨの大きなシャボン玉もウルトっぽいですが、攻撃と機動力アップしかないのは不自然なので防御よりのウルトを考案。
最初は超回復でしたが、食いしばりの方が白野っぽいので後半とこの後の最終決戦部分全てを書き直したのは内緒。