月の王とかぐや姫 作:名無しのマスター
『かぐいろはくチームの天守閣前で始まった最終決戦、帝VSザビ子! お互いに最後の残機! 帝が勝てば黒鬼の勝ち、ザビ子が勝てばかぐいろはくチームの勝ちです!』
『かぐやは自陣の天守閣に戻りましたが雷の地雷トラップによってご自慢のハンマーを失っています! ん? いや、なんか取り出したぞ……あれは冷凍カジキマグロです! まさかここでネタ武器の一つ、冷凍カジキマグロ(槍)を手に取りました!』
『なんでそんなのしかないの!?』
『だって、彩葉から貰ったやつだったから嬉しくて? あ、かぐやもザビ子のところに行った方がいい?』
「念のため、いろPのところに向かって。こっちの戦いが長引くかもしれないからその時は遠慮なく天守閣に達磨落としを撃ち込んでいいよ」
『オッケー! あ、でも、ハンマーないからライドできないや』
『あーもう、私もそっちに戻るからボトムにジャンプして天守閣に向かって! 合流した後、もう一回天守閣に行くよ!』
『はーい』
騒がしい通信も終わり、私は顔を前に戻す。そこには私の脇に腕を挟まれて動けない帝がいた。いや、この態勢になった直後に通信が入ったので空気を読んで動きを止めてくれたのだ。
「作戦会議は終わった?」
「うん、待っててくれて助かった」
「じゃあ、再開だな」
そう言いながら彼は自由な方の手に持った金棒を私に振るう。即座に彼の腕を離して――前へ突っ込み、タックルして強制的に帝を後ろへ押しやる。このまま振るっても空ぶると踏んだ彼は素直にその勢いに乗って私と距離を取った。
――【add_poison();】
そこへ
「よくわかってんじゃん!」
やはり、隙あらば銃を使うつもりだったようで帝は頑なに距離を詰める私を見て獰猛な笑みを浮かべた。そして、彼は金棒を振るい、私はそれに向かって掌底を放って勢いを相殺する。
(でも、やっぱりジリ貧か)
筋力は強化されているがやはり素手で武器を止めれば僅かでもダメージを受けてしまう。このまま少しずつダメージが蓄積すれば私の負けだ。
「……そっちにも事情があんのはわかってんだよ。でも、そうやって手を抜かれるのは気に食わねぇ」
金棒を振り抜こうとする帝とそれを押さえる私。力が拮抗する中、彼はどこか不機嫌そうにそう呟いた。きっと、私が鏡を使わないことを言っているのだろう。本当であれば私も最後の戦いなので自分に持てる全ての力を使って戦いたい。だが、それ以上に大事なものがあるのだ。
「……駄目か。なら、遠慮なくいかせてもらうぜ! 後悔しても知らねぇぞ!」
「ッ……」
拮抗していたと思われていたがどうやら帝は私に力加減を合わせていたらしく、いきなり押し込まれてしまい、慌てて後ろに下がった。だが、その動きを読んでいたのか、彼は金棒の先端を引き抜き、銃口をこちらへ向ける。ずっと避けていた状況。私は咄嗟に礼装を切り替えた。
――【gain_con(32);】
「ぐっ」
無数の銃弾を体に受けてアバターが後ろへ吹き飛ぶ。そのままごろごろと天守閣前の床を転がされた。
『ザビ子、ピーンチ! しかし、まだ彼女は一度も武器を使っていません! いつ、彼女が武器を使うのか! まだ勝負はわかりません!』
「ほら、言われてんぞ」
「……」
フラフラと立ち上がって前を見れば帝はどこかつまらなさそうにこちらへ銃口を向けていた。HPはレッドゾーン。耐久強化が間に合っていなかったら今の銃撃で終わっていた。
「最後のチャンスだ。どうする?」
「……」
「……だんまりか。もう少しヒリヒリした戦いができると思ってたんだけどな。じゃあ、これで――」
『白野、お待たせ!! いいよ!』
「――なっ!?」
帝の言葉を遮るように耳に届いたのはずっと待ち望んでいたヤチヨからの合図だった。その直後、帝の足元の床を何かが突き破り、彼の顎へ掬い上げるようにクリーンヒット。それはずっと彼が出せと言っていた『
『か、鏡だー! 突如として帝の足元から木の床を破壊しながら登場した鏡が帝の顎へ叩き込まれたー!』
『これはクリティカルヒット! でも、あの鏡ってまさか!?』
「くぅ……やっと出したか! そんじゃ、ここからが本気ってことだろ!」
顎を打ち抜かれ、たたらを踏んでいた帝だが正気に戻った途端、歯茎が見えるほどの獰猛な笑みを浮かべ、こちらへ突貫してくる。私のHPはミリ。少しでも掠れば終わりだ。まずは態勢を立て直す。鏡を前に送って礼装を変更。MPは――足りない。
「はっ、こんなの!」
鏡は帝が振るった剣に弾かれてあらぬ方向へ飛ばされてしまう。だが、一瞬だけ彼の意識が鏡に向いたおかげで状況を把握することができた。なら、ここは――前に行く。
帝が突き出した剣は私の顔面を狙っていた。その軌道を読み、頭を傾けただけでは回避しきれないことを悟る。着ぐるみアバター特有のヒットボックスの大きさのせいだ。きっと、彼もそれを考慮して剣が掠るギリギリのところを狙ったのだろう。
(今までありがとう)
ならば、私のやることはただ一つ。片手で仮想キーボードを操作してコマンドを実行。すると、私が着ていた着ぐるみアバターが花びらとなって散り、その下から『はくのん』が姿を現した。
「ッ――」
まさかこのタイミングでアバターを脱ぐとは思わなかったのか、剣を突き出す格好のまま、帝が大きく目を見開いた。そんな彼を前にして剣をかわし、その鳩尾へ掌底を放つ。筋力強化が乗ったそれは彼を天守閣から吹き飛ばし、階段下まで落とした。
『ぬ、脱いだあああああああああああ!! ザビ子、が……脱いで……』
『え、ほんと? ほんとに? マジ!? え、ええええ!? あ、え、そんなことある!?』
MCの二人が騒いでいるが今はそれどころではない。私は飛んでいった鏡を操作して掴み、階段から全力で飛び降りる。そして、地面に背中から落ちた帝に向かって急降下し、手に掴んだ鏡を彼に向かって全力で振るった。重力の勢いが乗ったそれは彼のHPバーをゴリッと削り、残り四割にまで減らす。
――【heal(16);】
攻撃によって回復したMPを使って最低限の回復を行い、私も残りHPが四割となった。カウンターを受けないように後ろへ下がり、私たちは天守閣下で再び対峙する。
「遠慮なさすぎ……でも、やっと脱いだか、はくのんちゃん」
「うん、お待たせ」
『な、なんということでしょう! まさか、ザビ子の正体ははくのんだったー!!』
『うわあああああああああああ! はくのんだー! はくのんはずっとかぐやといろPと一緒に戦ってたんだー! かぐいろはくだったー! もう好きいいいいいい!』
ザビ子の正体が『はくのん』だとわかり、MCは大盛り上がり。観客席からも今日一番の歓声が大気を震わせるほどに轟いた。
「崖下でわかったとはいえ、実際に見るのは違うな。どういう風の吹き回し? あれだけ頑なだったのに急に正体を明かすなんてさ」
「時間になったから」
「時間?」
ずっと待ち望んでいたヤチヨからの合図。そのため、少しでも試合時間を引き延ばしていた。配信的にはあまり許されることではないが、それでもこうやってザビ子の殻を破り、『はくのん』としてこの場に立てたことは嬉しい。
『え、ええええ!? 白野がザビ子だったの!?』
『驚くのは後! 早く合流して天守閣に行くよ!』
『でも、彩葉! 白野がザビ子だったんだよ!? なんでそんな冷静なの!?』
『途中で気づいてたからに決まってんでしょ! 正直、今すぐにでも叫びたいの我慢してんだから!』
通信でぎゃあぎゃあ騒ぐ二人に小さく笑みを零した。こんな状況でもいつも通りな二人で安心する。
『でも、よかった! 白野、ずっと一緒にいてくれたんだね! すっごく嬉しい!』
「……うん、私もこうやって一緒に戦えて嬉しいよ」
そんなかぐやの言葉に少しだけドキッとしてしまう。何か文句を言われるかも、とは思っていたが純粋に喜んでくれたのならよかった。
「やっと、本気のはくのんちゃんと戦えるんだな……お互い、悔いのないように全力でやろうぜ」
「そうだね」
お互いのHPは四割。私のMPはほぼ枯渇。戦闘する中で回復すると思うがすぐには
「――」
「――」
私たちは同時に前へ。帝は金棒を分離した状態で、私は鏡を横に待機させながら接敵した。
「シッ」
短い発声と共に帝が剣を振るう。それに合わせて鏡を動かし、剣と鏡の縁が激突して火花が散った。その間に私が彼の右肩に向かって掌底を放とうとするがキラリとこちらに向いている銃口に気づき、慌てて裏拳のように腕を払って銃口に当てて向きを変える。その直後、バン、と銃弾があらぬ方向へ放たれた。
「おらっ!」
「ぐっ」
最初からこうなるとわかっていたのか、帝は銃口を払われた時にバランスを崩しながらも蹴りを放ってきた。咄嗟に左腕でガードするが私のアバターは後ろへ吹き飛んでしまう。
「ッ――」
空中で態勢を変えて、ひっくり返らないように着地。だが、顔を上げるとすでに帝の銃が私に標準を合わせていた。急いで剣と鍔迫り合いをしていた鏡を操作して私の前に置き、即席の盾とする。
「そんな小さい盾で守りきれるかぁ!?」
その場で片膝を付き、物理的に小さくなって銃弾の雨が止むのを待つ。鏡で大半の弾を弾いているがそれでも数発は体を掠めてHPが削れてしまった。
(やっぱり、強い)
これまで帝と何度か戦ったが先読みしても彼は食らいつくどころかそれを食い破って私にダメージを与えてきた。自分で戦うことに慣れていないとはいえ、これでも英霊たちと戦ってきた経験がある。だが、そんな私がこれだけ追いつめられているとなれば彼の強さを認めるしかなかった。
――だが、こんなことで諦める貴様ではあるまい。この逆境、乗り越えてみせろ、
(もちろん、そのために私がここにいるんだから)
最初は配信を盛り上げるためにザビ子として彩葉とかぐやに力を貸していた。だが、途中から本気で勝ちたくなった。ザビ子としてではなく、ずっと二人と一緒に活動していた『はくのん』として。
『白野、頑張れ! かぐやたちがついてるよ!』
『もう少しだから、頑張って! 白野!』
だから、負けられない。天守閣に向かいながら私に声援を送ってくれた彼女たちと一緒に胸を張って黒鬼に勝ったと叫ぶために!
「ッ!」
ガキン、という音と共に鏡が真上に弾かれた。銃弾の当たりどころが悪かったのだろう。そして、私は帝の前に姿を晒す。後は銃弾の雨に飲み込まれ、HPバーが全損するだけ。
――進め、奏者よ!
――今だ、マスター!
――行っちゃってください、ご主人様!
ここまで力を貸してくれた彼らの声に背中を押される形で私は立ち上がり、帝に向かってその足を踏み出した。
「ッ……」
まさかこの状況で向かってくるとは思わなかったのか、帝が目を見開き、ほんの僅かに銃口がブレる。それは一瞬の出来事だったがそれでも銃弾が散らばったのは確か。思考速度を極限にまで引き延ばして銃弾の軌道を知覚。最も被弾の少ない場所へ体を滑り込ませた。残りHPは二割。
「ちっ」
自らの失態に舌打ちをした帝は銃を放ちながらこちらへ駆け出した。剣を持つ右手に力が入ったのが見える。彼の後ろに輝く疑似太陽の光が影を伸ばし、私の足はそれを踏んだ。
(私に、できることはッ!)
銃弾の雨を受けたおかげで予想よりもMPが溜まり、片手で礼装を変更しながら
「これで――」
帝との距離は残り数歩。銃弾によって崩れた態勢を直す間に彼に接近され、剣でアバターを貫かれるだろう。今から回避するのは不可能。それは帝も私も瞬時にわかった。だから、彼は勝利を確信して声を漏らしたのだ。
――勝利を確信した時が最も大きな隙を生む。マスター、今が
「――終わると思った?」
しかし、その声を遮るように私はアーチャーのようなニヒルな笑みを浮かべ、真上に弾かれた鏡を彼の前に降ろした。ただの鏡。キャスターの宝具を模倣した鏡。宙に浮くだけで鈍器にしかならないネタ武器。
だが、ネタ武器だったとしてもそれはれっきとした
――申し訳ございません。実は私、太陽の化身なもので。少々、眩しいですよ?
「なッ!?」
彼の後ろに燦然と輝く疑似太陽。その光を反射したそれは彼の目を眩ませる。だが、怯んだのは一瞬。すぐに彼は邪魔をするな、と言わんばかりに私に突き立てる予定だった剣で鏡を力任せに弾き飛ばした。しかし、鏡は彼の目を眩ませるのが目的ではない。鏡によって物理的に私の姿を隠すことこそ、真の目的。
――【release_mgi(b);】
(お願い、セイバー! 今だけでいいから剣の使い方を教えて!)
――うむ、任せよ! さぁ、心が導くままに振るえ、奏者! 余がついているぞ!
剣を握る手に力が入る。そして、私は強引にアバターを操作して態勢を崩しながらも前へ進む。そこにはすでに鏡を弾いた剣を引き戻した帝。
「う、ぉおおおおおお!」
これが最後の攻防だとわかっているのか、彼は鬼の形相で剣を振るう。私の左肩を狙う袈裟斬り。私の持つ太刀は他の
思い浮かべるのはかの薔薇の皇帝。彼女の背中をずっと見ていた私の網膜にはその剣技が焼き付いている。
目の前に立つセイバーが真っ赤な直剣の持ち方を変え、それに倣って私も太刀の持ち方を変更。振り下ろすのではなく、振り上げる。それはまさに彼の袈裟斬りを避けるような軌道。うん、わかったよ、セイバー。だから、借りるね。
「
その名を口にすると目の前に立っていた彼女がこちらを振り返って笑ったような気がした。その次の瞬間には彼女の姿は霧散し、その向こうから帝が現れ、私たちの視線が交わる。そして、帝の袈裟斬りが、私の
「……」
「……」
ほぼゼロ距離で見つめ合う私たち。だが、帝の剣によって私のHPバーが全損してアバターから花びらが舞う。いつもなら桜のはずなのに赤い薔薇の花びらが祝福するように私たちの周囲をひらひらと踊った。
「……これ、は」
「じゃあ、一足先に戻ってるね。お疲れ様」
しかし、帝は信じられないと言わんばかりに目を見開いたまま、
礼装『空気撃ち/二の太刀』。
その効果は――
しかし、彼らに使用した射程距離の長い【release_mgi(a);】とは違い、【release_mgi(b);】は
本当であれば私が直接、彼のHPを削り切りたかった。だが、今の手札と状況でそれは無理だと判断し、
『はくのん、撃破ー! しかし、帝、動けない! 最後に彼女が使った
『……待ってください。帝がいるのは敵陣地の天守閣。つまり、その周りには!』
「……はは。こりゃ完敗だ」
状況を理解した帝の乾いた笑い声を聞きながら私は脱落して自陣に戻される。目を開けると透明な箱の中にいた。残機を失った人はこの箱に閉じ込められるらしい。
『はくのんが自分の命と引き換えに仕掛けた罠! それは無数のミニオンによる数の暴力! 未だに動けない帝をミニオンたちが無慈悲にもボコボコにするぅ!』
『そんな中、かぐやといろPが天守閣に到着! そして……帝がミニオンに撃破されると同時に達磨落としを天守閣に撃ち込んだぁ! 冷凍カジキマグロは槍なのにかぐや、フルスイング! 長い角をしっかり握りしめてホームランです!』
『こんなことがあっていいのか! 誰もが黒鬼の勝利を疑わなかった世紀の竹取合戦! 勝者は『かぐいろはく』!! まさかのジャイアントキリングだー!』
「おっと」
試合終了と共に私を閉じ込めていた箱が消える。咄嗟にアバターを操作して着地して小さく息を吐いた。
「白野ー!」
「わっ」
そして、その直後、自陣に戻ってきたかぐやが感極まったように抱き着いてきて慌てて抱き止める。ぐりぐりと私の肩に顔を押しつけ、それでも抑えきれなくなったのかその場でピョンピョンと跳び跳ね始めた。
「お疲れ、はくのん」
「うん、そっちこそ」
そんな私たちに彩葉も少し疲れた顔をしながら――それでいてどこかすっきりした表情で声をかけてくる。それに頷くと彼女はサッと右手を上げた。
「……ああ」
一瞬、何だろうと首を傾げたがすぐにその意図に気づいた私も右手を上げてパン、とハイタッチ。もちろん、それを見たかぐやも『私もー!』と両手を上げたため、私たちは片手でその手をそれぞれ叩いた。
『これにて世紀の竹取合戦終了!』
『さぁ、このあとはお待ちかねのヤチヨカップの結果発表! 試合時間が思った以上に延びましたが全員、その時をしばし待てー!』
そんな私たちの様子を見ていたMCたちが締めの言葉を口にする。こうして、世紀の竹取合戦は見事、私たちの勝利で幕を閉じた。
よろしければ感想、高評価よろしくお願いいたします。