身内に不幸があり、法事関係で時間が取れず、一週間ほどお休みをいただきました。
本来であれば活動報告にて一報を入れるべきでしたが匿名の弊害がここで出ました。
そのため、本日からしれっと匿名を外しております。
今後、何かありましたら活動報告の方で報告いたしますので
これからも『月の王とかぐや姫』をよろしくお願いいたします。
「ザビ子だ」
「はくのんがザビ子だったんだ」
「バイザーのせいで目は見えないけど、もう美少女っぽくない?」
「事実上、美少女じゃん」
世紀の竹取合戦が終わり、私たちはヤチヨカップの結果を聞くため、以前にヤチヨがミニライブを開催した広場にやってきた。周囲にはたくさんのツクヨミユーザー。
「……」
しかし、突き刺さる視線、視線、視線。もし、視線が可視化できるなら今頃、私の体は針山になっていることだろう。やはり、私がザビ子だと露見した影響か。
(あとは……)
「ねぇ、かぐや。いい加減、離れてくんない?」
「えー、いいじゃーん? せっかく、三人集まったんだし~?」
私と彩葉の間に挟まり、それぞれの腰に腕を回してご満悦そうなかぐや。ヤチヨカップの結果を聞こうと大勢のツクヨミユーザーが広場に集まっているが満員電車のようにぎゅうぎゅうなわけではないため、私たちが密着する意味はない。
(まぁ、仕方ないか)
私はヤチヨのアシスタントや調べもののせいで最近、一緒にいられなかったし、彩葉の方も体調を崩したことでかぐやは少し遠慮していた部分もあったのでヤチヨカップが終わって甘えたくなったのだろう。その分、周囲の人たちから視線を集めているわけだが。
「おっ待たせ~!」
少し居心地が悪い中、ヤチヨカップの集計を終えたヤチヨが大きな鳥居の上に出現する。ニコニコと笑って明らかにご機嫌そうだ。
「世紀の竹取合戦、めっちゃ盛り上がったねー! それに~? とうとう、ザビ子の正体が明らかになっちゃいました~! じゃあ、ご本人をお呼びしましょ~!」
「え?」
「え、あ、ちょ、ちょちょちょ! 白野、行かないで~!」
ヤチヨがそういった後、パチンと指を鳴らすと私のアバターが突然、ふわりと浮かび上がった。もちろん、私の腰に腕を回していたかぐやが涙目になって必死に止めようとするがするりと抜けてしまい、私はそのままヤチヨのいる鳥居の上まで運ばれてしまった。
「こらぁ、ヤチヨ! 白野を返せ! かぐやのアシスタントだぞ!」
「おほほ、ヤ・チ・ヨのアシスタントでもありましてよ~」
ぷんぷんと怒って叫ぶかぐやと口元をセンスで隠して煽るヤチヨ。同一存在で私を取りあわないでほしい。少しふらついてしまったが鳥居の上に着地し、小さくため息を吐く。
「見て、白野」
そんな私に笑いかけるヤチヨ。そして、その視線を前に移した。つられて私もそれを追いかけ、息を呑む。
「ザビ……はくのーん!」
「かっこよかったよー!」
「相談乗ってくれてありがとー!」
「ヤチヨと歌ってくれー!」
広場にいるたくさんのツクヨミユーザーが私を見上げて声援を送ってくれていた。誰もが笑顔で、手を振って、少しでも届けようと声を張り上げて、私を見ている。
「これがこの一年で白野が築き上げたもの。これをずっとあなたに見せたかったんだ。アシスタントだからってあんまり目立つようなことは避けてたから今までできなかったけど……やっと見せられた」
「……」
「どう? 自分の凄さに気づいた?」
「……そう、だね」
多分、私はまだ全てを自覚したわけではないのだろう。生まれが生まれなのでどうしても自分に対する評価を正常につけられない。
でも、今は――今だけはこの一年間、頑張ってきてよかったと思えた。それがヤチヨの伝えたかったことかわからないが、私としては十分な進歩だった。
「じゃあ、ザビ子改めはくのん! 今のお気持ちをどうぞ!」
「え? あー……改めてよろしくお願いします」
いきなり話を振られたため、当たり障りのない答えになってしまったが広場に集まった人たちはそれだけで盛り上がってくれた。
「さーて、はくのんの紹介も終わったことだし~? ヤチヨカップの結果発表と行っきましょー!」
ツクヨミユーザーたちの反応を見てうんうんと頷いていたヤチヨだが、両手を大きく広げて本題に入る。ヤチヨカップ。一か月の間に最も新規ファンを獲得したライバーが優勝。そして、優勝者はヤチヨとコラボライブができる権利を得る。
「さぁ、ヤチヨとコラボる人は~? このライバーだー!」
ヤチヨが両手を上げると巨大なウィンドウが現れる。それと同時にどこからかドラムロールが響き渡り、自然と心臓がドキドキし始めた。
前回、彩葉とかぐやは見事、ヤチヨカップを優勝してヤチヨとコラボライブを行った。しかし、今回は私がいる。そのせいで未来が変わる可能性もあるし、それを避けるために私にできることはしてきたつもりだ。
その成果が今、はっきりする。私はいた方がよかったのか、いなかった方がよかったのか。
「まさか……まさかの~?」
画面では新規ファン獲得数に応じて棒グラフが上に伸びていく映像が流れている。やはり、黒鬼がずっと暫定一位だったため、一番伸びていた。
(でも、その隣にいるのは――)
黒鬼のグラフに少しずつ近づいてくる金色のグラフ。その輝きはずっと見てきたあの子のそれ。ぐんぐんと伸びていき、そして、金色のグラフは黒鬼を追い抜き、かぐやを模したデフォルメキャラが『やったー!』と言わんばかりの満面の笑みを浮かべた。
「ヤチヨカップ優勝者は――かぐや、いろP、はくのーん! めでたしや~!」
「ッ……」
優勝した。前と同じようにかぐやたちが優勝できた。それを理解した途端、体から力が抜けて思わず座り込みそうになる。でも、よかった。これでかぐやたちはヤチヨと――。
「でも、これ、ザビ子のおかげじゃね?」
――その時、広場に集まったユーザーたちが歓声を上げる中、そんな言葉がするりと滑り込んできた。
ヤチヨカップ優勝。それはかぐやがこの一か月もの間、ずっと目指していたもの。鳥居の上に大きく映し出されているモニターにはデフォルメされたかぐやが嬉しそうに笑っている。そう、私たちが優勝したのだ。
「っ~~~~~~! 彩葉ぁ!」
「わっぷ……ちょっと、リアルでも抱き着いてこないでよ」
感極まったかぐやのアバターが私を抱きしめると同時にリアルの方でも彼女の温もりと仄かにいい匂いが鼻孔をくすぐる。でも、そっか。私たちは、ヤチヨカップに優勝――つまり、ヤチヨとコラボ、ライブ!?
(え、ええええ!? こんなモブがヤチヨと!?)
しかも、白野がザビ子なら実質、ヤチヨとザビ子のコラボライブでもある。うわぁ、見たい! できれば観客席で見て涙を流したかった! なんで、同じステージに私も立たなきゃならないの!?
「でも、これ、ザビ子のおかげじゃね?」
そんな興奮を冷ますような言葉が聞こえてきたのはその時だった。私とかぐやはピシャリと動きを止めてしまう。
「かぐやたちも頑張ってたけど……多分、ザビ子の正体がわかったから逆転できたんだよね?」
「どうなんだろ。竹取合戦の途中でちらってヤチヨカップのランキング見たけどかぐやたち、めっちゃ順位上げてたよ」
「えー? そうだとしてもさすがに黒鬼には勝てないっしょ」
そして、歓声の中に紛れる微かな声。そのざわめきは周囲の人に伝播していき、やがて大きくなっていく。
(でも、その通りだ)
白野がザビ子だと判明したのは竹取合戦の最中。きっと、ザビ子ファンたちは『かぐいろはくチャンネル』へ駆け込み、チャンネルを登録したはず。その結果、黒鬼の記録を超え、私たちが優勝した。
もちろん、竹取合戦の内容を見て純粋にファンになってくれた人もいるだろう。しかし、それを確かめる術がない。いや、確かめたとしても素直にそれを受け入れない人は一定数はいるはずだ。
「彩葉、これって……」
「……」
いつも天真爛漫なかぐやが不安そうに私の腕を掴んだ。こんな彼女の表情を見るのは初めてだ。いや、無理もない。かぐやが生まれてまだ一か月。悪気のない悪意をその身に受けたことがない。
(どうする……)
当事者である私たちが騒げば事態をややこしくしてしまうかもしれない。だが、このままにしておくのも駄目だ。私たちがヤチヨカップを優勝できたのはかぐやと白野が頑張ったから。それを『ザビ子のおかげ』と言われるのは彼女たちの頑張りを否定されているようでどうしても嫌だった。
「……あの!」
「――神々のみんなー! こちらをご覧くださーい!」
我慢できずに声を上げた時、それを遮るように鳥居の上にいるヤチヨが広場に集まったツクヨミユーザーたちへ呼びかけた。それと同時にヤチヨカップの結果を映し出していたモニターが切り替わり、別の映像が流れ始める。
『ヤオヨロ~! ヤチヨカップの結果発表を見てる神々のみんな~! 月見ヤチヨです!』
そのウィンドウに表示されたのはヤチヨだった。彼女の頭上には日時が表示されており、その後ろには竹取合戦の映像が流れている。広場に集まった人たちも何事かとざわついていた。
『多分、この映像を見てるってことはザビ子の正体が明らかになったのかな? この映像はそうなった時のための証拠動画となっております!』
そう言った彼女のサイズが小さくなり、後ろの映像が見やすくなる。ちょうど、白野が自陣の天守閣で帝の攻撃を両腕で受け止めたところで達磨落としに叩きつけられ、うめき声を漏らしているところだった。私たちは敵陣の天守閣を攻めていたので白野と帝の戦いがどんなものだったか知らない。鏡もなしにあの帝をどのように相手取ったのか、少し気にはなっていた。
『状況はかぐいろはくチームの勝ち、と思いきやまさかの雷による地雷トラップによって形勢逆転。帝の一撃がまさに決まるってところで颯爽と割って入ったのは
「むぅっ!」
どこかヤチヨの言い草に圧を感じる。絶対に譲らないという意志と呼ぶべきか。そして、横ではかぐやが頬をパンパンに膨らませてヤチヨを睨みつけている。『かぐやのアシスタントなのに!』と言った様子で先ほどまで不安だったのが嘘のようだった。
『さて、どうしてこんな動画を撮影しているか。神々のみんなは気になるよね。なんていうか、予防線? やっぱり、ザビ子は運営側だから別名義だったとしても個人のライバーに手を貸すのはどうなのって意見が少なからずあると思うんだ』
ヤチヨの懸念は当たっていた。実際、私たちがヤチヨカップを優勝したと判明した途端、騒ぎになっている。きっと、ヤチヨと白野はその点をずっと気にしていたのだろう。
『だから、ザビ子は自分がはくのんだってバレないように立ち回ってる。武器も出さずに今自分にできることをやろうとしてる……でも、それはあくまでヤチヨカップの結果に自分が影響を与えたくないから』
ヤチヨはそう言いながら後ろを振り返って竹取合戦の映像を見る。その中で白野は帝に撃たれ、天守閣の床を転がっていた。まさに絶体絶命。結果を知っているとはいえ、どうなってしまうのか、と少しドキドキしてしまった。
『じゃあ、影響を与えなきゃいいよね、ということでカウントダウン! 5! 4!』
正面を向いた彼女は空を――頭上に浮かんでいる映像を指さしながらカウントダウンを始める。その時刻はちょうど、ヤチヨカップ受付期間が終了する数秒前。
『3! 2! 1! ヤチヨカップ、しゅーりょー……おお!? すでに鏡を仕込んであったとは用意周到だねぇ!』
映像の中では帝の足元が砕け、鏡が飛び出して彼の顎を強打した。天守閣前の高台は木でできており、白野はいつでも動き出せるように鏡を足場の下に忍ばせていたのだ。
『おー、やっぱり鏡を使った瞬間、かぐいろはくチャンネルの登録者数が一気に増えてる……でも、すでにヤチヨカップの受け付けは終わってるので申し訳ないけど新規ファン獲得数にはカウントされません! つまり、竹取合戦ではくのんがザビ子だと気づいたとしてもヤチヨカップの結果に影響は与えていない、ということになります!』
「確かにヤチヨカップの受付時間は過ぎてるから影響はない、のか?」
「でも、はくのんがザビ子だって予想してチャンネル登録してる人もいるよね?」
「むしろ、ヤチヨとはくのんがここまでしてザビ子の影響を与えないようにって徹底してるの好き」
「かぐやたちがザビ子を利用して売名行為してたならともかくあの様子だと知らなかったみたいだし、そこまで気にならないなー」
ヤチヨの動画を見て広場にいる人たちがざわついている。確かにヤチヨたちは可能な限り、ザビ子がヤチヨカップの結果に影響を与えないように、と配慮はした。ユーザーたちもそれを理解し始めている。
「それでもはくのんの存在は大きいよな。動画編集とかもやってたみたいだし、はくのんのファンも少なからずいるし」
「はくのんがザビ子だって予想してる人はいたから影響ゼロってことはないじゃない?」
「対策したってのはわかるけど……ザビ子の存在は全く関係ありませんってなるかって言われると」
だが、それでも納得しない人は一定数いる。私も白野の存在は大きいと思っているし、かぐやだって白野がいなくても優勝できたとは言わないだろう。だって、それは白野はいてもいなくてもいい存在だ、と言っているようなものだから。
『うんうん、言いたいことはわかるよ。だ・か・ら~……会場の私、言っちゃってー!』
「はいはーい、動画の私、ありがとー! かぐやー! いろPー!」
プツン、と映像が切れ、鳥居の上にいるヤチヨが広場にいる私たちに声をかける。彼女はどこか悪戯が成功した子供のようにニマニマと笑みを浮かべていた。
「あなたたちには更なる試練に挑戦してもらいます! あ、因みに黒鬼が勝ってたとしても同じ試練を与える予定だったのでご安心を!」
「し、試練?」
ヤチヨの言葉に思わず首を傾げた。ここにきていきなりのルール追加。でも、今は色々な意見が飛び交っており、炎上してしまう可能性がある。それを抑えるためのルール追加、なのだろう。
「あなたたちはここにいるはくのんと一緒に頑張ってヤチヨカップを優勝しました……しかーし、はくのんの正体はまさかのザビ子! 知らず知らずのうちにあなたたちは……ザビ子の思惑に巻き込まれていたのです」
「思惑?」
「さぁさぁ、みなさま! 今回の竹取合戦の内容を見て考えませんでしたか!? 『ザビ子、強すぎじゃね?』、と! あの『Black onyX』を相手にキル数は相打ちも入れて六! 乃依が一回、雷が三回、帝が二回! やはり、ザビ子は強かった!」
ヤチヨは大げさな言葉で観客を煽る。そのおかげで広場に集まった人たちも確かに、と言った様子で頷いていた。
「いつしかザビ子は考えたのです。『私より強い相手はいないか』、と! そして、考えたのは――ライバルを自らの手で見繕うこと。さぁ、ザビ子改めはくのんよ! あなたの願いを言いたまえ~!」
「……かぐや、いろP。私と戦って」
「……はぁ!?」
「ええええ!? 白野と戦うぅ!?」
「そう! これが最後の試練! はくのんが見定めたかぐやといろPには『RENKEI』で私とはくのんと戦ってもらいまーす!」
予想外の内容に私とかぐやは目を見開き、そんな私たちを見てヤチヨは満面の笑みを浮かべた。