もう少し時間がかかると思っていたので驚きました。
リメイクを楽しみにしながら配信で『Fate/EXTRA』を遊ぼうと思います。
『急遽、決まりました。最後の試練! ヤチヨ・はくのんVSかぐや・いろP! 勝った方がヤチヨとコラボライブをする権利を得られます!』
『ヤチヨカップを優勝したかぐやたちか。それともこの一年間、ずっとヤチヨの傍で彼女を支えたアシスタントが歌うのか……うわああああ! どっちも見たいいいいい!』
ヤチヨカップの結果発表から二日後、私とかぐやは『RENKEI』のフィールドに立っていた。そして、その正面に佇むのはニコニコといつもの笑みを浮かべるヤチヨとその隣でぼーっとしている白野。今から私たちは彼女たちと戦う。最推しと戦友と、だ。
「最後の試練、受けてくれてありがと。こんなことになっちゃってごめんね」
試合開始までの僅かな猶予時間。ヤチヨは申し訳なさそうな表情で謝罪の言葉を口にした。確かに白野がザビ子でなければこの戦いは起こらなかっただろう。でも――。
「――でも、白野がいなかったら優勝できてなくね? それにかぐやも白野と戦ってみたかったし~♪」
――私の思考を読んだようにそう言ったかぐやに思わず彼女を見てしまう。ハンマーを肩に担いで笑うカグヤの横顔。今すぐにでも飛び出してしまいそうなほどうずうずしている。
(まぁ、あれだけ特訓すればね)
昨日、ヤチヨカップの結果発表後に帝から提案されたように私とかぐやは黒鬼たちと一緒に対ヤチヨ・白野に向けて色々と準備をした。アバター操作のコツ、作戦立案、新しい
――今の彩葉ならなんとかなる。お兄ちゃんが保証してやるよ。
特訓の終わりにこそこそと耳打ちしてきたお兄ちゃん。別に不安を表に出したつもりはなかったのに彼にはお見通しだったようで驚いた顔をするとニシシと笑ってログアウトした。
(でも、仕方ないよ……だって……)
小さくため息を吐いた後、ヤチヨの隣にいる白野へ視線を向ける。ヤチヨとかぐやがわいわいと話しているのを黙って聞いているようだが、おそらく試合が始まった後のことを考えているに違いない。あ、ほら、こそっと礼装を入れ替えた。私とかぐやの様子を見て作戦を変えたのだろう。
「――と、まぁ、そんなわけで今回の戦いが決まったわけですよ」
「んー? よくわかんねーけど、まぁ、戦えるならいっか!」
いや、違う。多分、最初からヤチヨに適当な話をさせてこちらの反応を見る作戦だ。かぐやはいつにも増して口数が多いからテンション高め。つまり、普段よりも攻撃的になる可能性が高く、私はツッコみもせずに静観していることから相手の出方を伺う――後手に回りやすくなるかもしれない。そんな感じで話し方や佇まい、表情から僅かな情報を得て作戦を立てる。それがザビ子――白野の戦い方だ。
――はくのんちゃんはこちらの動きを読んでくる。とにかく動揺しないこと……って、それで何回も痛い目を見てるんだけどな。
帝はそう言って苦笑を浮かべていた。とにかくこちらの動きは読まれていること前提で動くしかない。むしろ、読まれていることを読んで行動をコントロールする。それぐらいの気持ちで戦わなければ二人には勝てない。
「かぐや」
「んー? なにー?」
「……やるよ」
「……もち! かぐやたちのコンビネーション、見せつけちゃお!」
最後の試練の話を聞いた時はヤチザビのコラボライブ見たさに辞退しようとしたが、昨日の特訓を経て今は少しだけやる気になっている。なにより、これまで白野との戦いは私が勝ち越しているが、白野が本気ではなかったと聞いて少しだけ――腹が立った。本気の白野と戦いたい。その気持ちが大きくなっていき、最推しのヤチヨが目の前にいても平常心を保っていられた。
「……」
私の雰囲気が変わったことに気づいた白野は苦笑を浮かべて再び、礼装を入れ替えた。本当に気持ち一つで戦術を変えてくるところは抜け目ない。いや、むしろ、それでいい。本気の貴女を戦えることに意味があるのだから。
「さて、お時間もそろそろでございますが、かぐやといろPは……うん、やる気十分って感じ☆ はくのん、いける?」
「うん、大丈夫」
「よーし、それじゃあ、FUSHI、お願い!」
「カウントダウンするぞー! 5! 4!」
FUSHIのカウントダウンが始まり、私はブーメランを分解させて双剣にする。かぐやも気合十分といった様子でハンマーを構えた。
「すぅ……はぁ……」
対してヤチヨは番傘を持っていつもの余裕ぶった笑顔。そして、白野は――深呼吸して静かに目を閉じる。その瞬間、彼女からブワリ、と何かが吹き荒れたような気がした。これはただの覇気。歴史の教科書に載るような歴戦の勇者はきっと、あのような覇気を持っているのだろう。そう思わされるほど彼女から放たれる圧は大きく、それでいて、優しかった。
「3! 2! 1! 試合開始!」
――【move_speed();】
――【gain_con(32);】
試合開始と同時に目を開けた白野はヤチヨに向かって
(それを考慮しての耐久強化なんだろうけど……)
「白野を返せー!」
「最初からヤッチョのなんだ。ごめんね☆」
速度の上がったヤチヨが私たちの方へ迫る。だが、かぐやは特に怯むことなく、ハンマーを振り回しながら立ち向かった。
――
雷の言葉を思い出しながらハンマーと番傘で鍔迫り合いする二人を迂回するように走る。目指すのは白野……ではなく、ヤチヨの背後。私たちの勝利条件は倒されないことと試合終了時点でヤチヨか白野のどちらかにダメージを与えていること。とにかく、倒されないことを最優先に隙を見て攻撃を当てる。そして――。
――【add_poison();】
いつの間にか礼装を入れ替えていた白野が
(私の仕事は白野の
彼女の
もちろん、この状態では彼女たちにダメージを与えられない。だが、多少のダメージを与えたとしても回復されてしまうのは目に見えている。つまり、試合終了直前まで受けるダメージを減らし、タイミングを見計らってヤチヨか白野にダメージを与えてそのまま試合終了を迎えるしか私たちに勝機はない。
「……」
しかし、白野はどこか不思議そうに首を傾げた。その視線はバイザーによって隠れているが私ではなく、ヤチヨに向けられているような気がする。だが、それも一瞬であり、彼女は次の
「じゃあ、こっちはこっちでやろうか」
「……」
そう言って躊躇いなく、鏡を振り下ろしてくる白野。咄嗟にワイヤーで片手剣を引き戻し、鏡を受け止める。
――んー、俺としては
乃依の言うとおり、彼女の恐ろしいところは先読みによる意識誘導。かぐやが勝手に開催した『かぐや争奪KASSEN選手権』の時もインファイトに意識を向けてしまい、せっかく遠くまで飛ばした鏡のところまで近づかれてしまった。
白野に集中すれば鏡が、鏡を警戒すれば
そもそも私が戦っていた白野は正体がバレないように
(そんな相手に勝てる?)
否、勝てるわけがない。ああ、そうだ。私は白野には勝てない。それは何度か彼女と戦った黒鬼たちが証明している。彼らよりも弱い私が彼らよりも強い白野に勝てるわけがなかった。
「ッ――」
それでも、と片手剣で鏡を弾き、それに紛れるように迫ってきた白野の拳をもう片方の剣の腹で受ける。そう、それでも関係ない。この戦いは私だけのものじゃない。私たちの戦いだ。
「どりゃあああああ!」
「元気いっぱいでいいねー。でも、そんな力任せじゃ届かないよー」
後ろでかぐやの絶叫が轟く。その直後、武器同士がぶつかる派手な音。白野と戦っている状況で振り返るにはいかないため、詳細は不明だがかぐやの方も作戦どおりに立ち回れているようだ。
「うん、そう来ると思った」
「……?」
私とかぐやの戦い方を見て白野は小さく笑みを浮かべる。しかし、どこかその笑みは儚く、少しだけ悲しそう、というか。残念そうなものだった。
(失望? ううん、違う。これは――)
「じゃあ、戦友同士、久しぶりに遊ぼっか」
「言ってろ!」
そんな彼女の余裕ぶった態度に私は吠えて剣を振るう。それを楽しそうにしながら白野は鏡で受け止めた。
見間違い? いや、そんなはずない。バイザーで目元が隠れていたとしてもこの一年間、毎日のように彼女の顔を見ていた私が見間違えるはずがない。でも、自分を疑ってしまうのも仕方ない。だって、あの顔は――。
(何を読んだの、白野……)
――負けを確信した時に浮かべる、諦めの表情だったのだから。