なお、パッションリップ(セイバー)も早めにきてくれたので
これで現在、実装されているサクラファイブはコンプリートです!
剣が空気を切る。先ほどまでそこにあったはずの彼女の頭は僅かに下へ移動しており、すぐに今の一手が悪手だったことを悟った。
「くっ」
少しでも被害を小さくしようとアバターを操作して後ろへ下がった。だが、完全に離れる前に彼女の足元から鏡がいきなり現れて私の腹部へ叩き込まれる。直撃は避けたものの受けたダメージは大きく、残りHPが四割まで減ってしまった。
(私と戦いながら鏡を操作して股の下を通すってどんな曲芸なの!?)
転倒しないように態勢を立て直して地面に着地しながら現実の方で冷や汗を拭う。そして、その直後、私の足元に何かが転がってきた
「ヤチヨ、強すぎ~」
ちらりと下を見れば私以上にダメージを受けてすでに満身創痍なかぐやの姿。白野の動きを制限してヤチヨへの援護を止めている。しかし、それでもバフの乗ったヤチヨを相手にするのは厳しいらしい。
試合が始まって数分。制限時間は半分を過ぎたものの、私とかぐやのHPは想定以上に削られていた。
(さて、どうするか)
このままかぐやがヤチヨの相手をすればジリ貧のまま撃破されて勝利条件を満たせなくなる。しかし、だからといって基本的に思考が単純なかぐやは先読みを得意とする白野相手だと圧倒的に不利だ。
「くぅ……彩葉、あれやろ!」
「え、マジ?」
「大マジ!」
悔しそうにしながら立ち上がったかぐやはどこか怒った様子で私に例の作戦を提案してくる。昨日、黒鬼たちと考えた妙案もとい苦肉の策。目標の時間まで耐えられそうになかったら使え、と半笑いで言ってきた帝の顔が今でも思い浮かぶ。絶対にふざけて提案にしたに決まっているがそれでも有効そうなのが余計に腹立つ。
「……はぁ。やるしかないか」
「よーし、彩葉、
「はいはい」
何故かわくわくしているかぐやの背後に回り、その肩に飛び乗る。一瞬だけバランスを崩しかけたかぐやだったがハンマー職特有の筋力特化パラメータを活かして何とか態勢を立て直す。
『おーっと! かぐや・いろP、まさかの肩車だー!』
『この奇策が吉と出るか、凶と出るか! 正直、まともに戦えなさそうと思っているのは私だけではないはずです!』
「かぐやと彩葉は一心同体! 白野、羨ましいでしょ!」
「え、あ、うん……そう、だね」
「お願いだから引くのだけはやめて……」
いつの間にかヤチヨの隣に移動していた白野はどこか気まずそうに愛想笑いを浮かべ、泣きそうになった。見た目は間抜けだが、昨日の特訓で試したら地味に有用なことが判明してしまい、一発逆転の一手として採用されてしまったのである。因みにヤチヨもポカンとしており、更に居たたまれず、今すぐにでも降参したくなった。
「もうこうなったら自棄だ! かぐや、行け!」
「うおおおおおお!」
私はかぐやの上に乗っているので基本的にかぐやが移動を担当する。その間に武器を双剣からブーメランに変更して白野たちに向かって斬撃を飛ばした。
「ヤチヨ」
「あいあいさー!」
もちろん、真正面から放たれた斬撃はヤチヨの傘によってガードされてしまう。その間に白野がこちらに鏡を飛ばしてきたため、即座にブーメランで弾き飛ばした。そして、その次の瞬間にはかぐやとヤチヨがほぼ同時に己の得物を振るう。
「ぬおりゃああああ!」
「よっと」
かぐやは全てを叩き潰す勢いで、ヤチヨは番傘を置くように。二つの得物がぶつかり合い、火花を散らす。しかし、
――【shock(32);】
だが、そのブーメランは
「かぐや、下がって!」
「はいよ!」
普段であれば武器を振るった直後で身動きが取れないタイミング。でも、今の私はかぐやに乗っているため、彼女が後ろに下がれば自動的に私も移動する。頭上から迫っていた鏡は先ほどまで私たちがいたところを通って地面を穿った。
「そーれ☆」
しかし、後ろへ下がった私たちに迫るのはヤチヨの傘。開いた状態で高速回転するそれは当たれば私たちのアバターは一瞬で両断されるだろう。
「やばっ!? ちょ、まっ――」
「――かぐや、ごめん!」
「え、なに、ぐえぇ!?」
肩車されている状態で私は胡坐をかくようにして足でかぐやの首を絞め、武器を分離させてアンカーをフィールドに置かれている遠くの岩に向かって飛ばす。アンカーが岩に刺さったのを見て一気にワイヤーを回収。武器を持っている私と私の足に首を絞められているかぐやのアバターは岩の方へと引っ張られてギリギリのところでかわした。
(や、やり過ごした……って、やばい!)
咄嗟の判断だったとはいえ、ヤチヨの傘を回避できたのはよかった。だが、安心した束の間、岩の方へ引っ張られる私たちに白野が右手を向けていることに気づき、顔を引きつらせる。
――【add_poison();】
飛んでくるのは毒状態を付与する
(当たれ!)
もう片方の剣の先を前へ突き出し、アンカーを射出。それは寸分違わず、私たちへ迫っていた
「ぐぺっ」
首を絞められていたせいで着地に失敗したかぐやと転倒する前にジャンプして離脱した私。ヤチヨは戻ってきた傘をしっかりとキャッチし、その後ろでは白野がMPチャージの構えを取っている。距離ができたため、やっと息を吐くことができた。しかし、このまま黙っていれば白野のMPが回復してしまう。次の一手に移らなければ。
「もー、彩葉、いきなり何すんのさ!」
「あのままだったら終わってたよ。ほら、早く立って。次が来る」
「へーい……」
私の言葉に渋々といった様子で立ち上がるかぐや。ギリギリのところで回避したのはいいが以前、ピンチなのは変わらない。でも、こうなることはわかっていたので焦りはなかった。
(とにかく試合が終わる直前まで耐える!)
「かぐや、もう一回!」
「おう、合体だ!」
その点で言えば肩車作戦は意外といい案だった。かぐやがヤチヨの攻撃を受け止め、私が上から追撃。それをかいくぐってヤチヨが反撃、もしくは白野がちょっかいを入れてきたら私のワイヤーを使って緊急脱出。鏡の不意打ちは恐ろしいが威力はそこまで高くないため、数回ほど殴られても耐えられる。
「……ヤチヨ。私が前に出る」
「オッケー、じゃあ、後ろから援護するね」
そう思っていたのだが、私の考えを砕くようにヤチヨが後ろに下がり、白野が前に出た。黒鬼の前衛二人を相手に耐えるだけでなく、雷を落としつつ、帝に
「白野、勝負だー!」
「ちょ、馬鹿!」
――そんな思考を遮るようにかぐやが白野に向かって突っ込んでしまう。それを見た彼女はどこか嬉しそうに口元を緩め、鏡を右腕に密着させて迎え撃った。
「どーん!」
「ッ――」
かぐやがハンマーを振るうと白野は体を半身にさせて紙一重で回避。そのまま、掌底を放つがそれは私の剣が受け止めた。よし、大丈夫。私たちの連携の練度は竹取合戦でかなり上がっている。相手が白野であってもそう簡単に攻略させるつもりはなかった。
「白野!」
だが、問題は後ろにいるヤチヨだ。彼女は傘の柄に口を付け、息を吹き込むとその先端からいくつものガラス玉をこちらに向かって飛ばしてきた。ガラス玉型の爆弾。白野の攻撃をやり過ごしながらガラス玉をかわすのは難しい。
「かぐや、私がガラス玉を撃ち落とすから白野の相手をお願い!」
「オッケー! 任せて!」
落とすのは私たちに当たりそうなものだけでいい。かぐやと白野の動きを予測して軌道上に来たそれをアンカーで事前に爆破させていく。かぐやに肩車をされているおかげで視界が普段よりも高く、何とか処理できている。
(でも、なんでガラス玉に背を向けてる白野も器用に避けられるの!?)
本当に規格外な人だ。あえてガラス玉を残して白野に当てようとしているのに彼女は寸前のところでひょいとかわしてしまう。背中に目でも付いているのだろうか、この化け物は。
「……ここかな」
その時、白野はそう呟きながら右腕に盾のように密着させていた鏡を飛ばした。私たちには当たらない軌道。でも、油断ならない。ガラス玉を処理しながら鏡の行方を目で追い――私たちのすぐ横を通り過ぎようとしていたガラス玉に激突した。
「のわっ」
「ッ!?」
幸い、ガラス玉との距離はそこまで近くなかったため、ダメージはない。しかし、爆発音と予想外な爆風が私たちを襲い、かぐやが僅かにバランスを崩した。
「―――」
そこへすかさず突き出される右手。いわゆる貫き手と呼ばれる突き技であり、それはかぐやの喉へと迫る。
「な、んの!」
鏡を目で追っていたおかげで爆風に煽られながらも体を動かせた私は咄嗟に剣をかぐやの顔の前に置く。筋力強化を施していなかったからか、私の剣は彼女の攻撃を受け止めた。でも、駄目だ。白野の攻撃はまだ終わっていない!
「かぐや!」
「わかってる!」
「おっと」
私の声にかぐやが頷き、バランスを崩しながらハンマーを振るい、地面を叩く。その瞬間、地面は爆発したように砕け、その破片が私たちへ降りかかった。貫き手を止められてもなお、私たちへ攻撃を仕掛けようとしていた白野は後ろへ下がってその破片から逃げる。
「痛たたた!」
「我慢して!」
しかし、ただでさえ爆風によってバランスを崩していたかぐやはその場から逃げられずにその破片を体で受け止めてしまった。僅かだがガリガリと削れるHPバーに私は一瞬だけ肝を冷やす。
(でも、生き残った!)
どんなにHPが削れていたとしても最終的に生きていればいい。試合時間も残り四分の一。数分で終わる。残り一分――いや、十数秒になった時が勝負時だ。
「こっのー!」
しかし、かぐやはやられっぱなしなのは性に合わないのか、HPが少ないのに果敢に白野へ攻撃を仕掛けた。鏡を戻して右腕に小盾のように密着させた白野はそれでかぐやのハンマーを受け止める。
(避けずに受けた?)
ヤチヨとは違い、白野は耐久を上げていない。そのため、この試合が始まって初めて相手のHPがほんの僅かに削れた。でも、かぐやの攻撃は普通のスイング。いつもなら受け止めずに回避しているところだ。
「やった、これで!」
「ッ! かぐや、油断は――」
「――駄目だよ?」
私が白野の思惑に気づいた頃には何もかもが遅かった。自分の攻撃でHPバーが減ったのを見てかぐやが目を輝かせ、一瞬だけ気が緩む。それを待っていた白野は小さく笑みを浮かべ、体で隠すようにしていた左手を前に突き出した。
――【release_mgi(c);】
突き出された左手に握られていたのは仄かに輝く太刀。そう、帝を動けなくした
「あ、れ、体が、動かなっ」
「頑張って避けてね」
「ぶいーんと行っくよー!」
そして、白野の後ろで待っていましたと言わんばかりに傘を広げていたヤチヨは高速回転させたそれを私たちに向かって投げた。
因みに白野がガラス玉を避けられたのは右手に密着させた鏡で後ろをチラ見しているからです。
バイザーのおかげで目の動きが読めず、彩葉は気づきませんでした。