月の王とかぐや姫   作:ホッシー@VTuber

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Fate/EXTRARecord、発売日発表!!!
前作との違いもありますし、映像も結構綺麗だったので期待できそうですね!
今からが楽しみです!


第76話 最後の試練 決着

「彩葉!」

 

 私の傘によって吹き飛ばされたはずのかぐやがハンマーを放り投げてこちらに向かって右手を突き出している。魔術(コードキャスト)を使うつもりなのだろう。このタイミングで使うということは彩葉へのサポートか。私に対するデバフか。

 

(どっち?)

 

 試合時間は残り僅か。この一手を間違えたら私たちは負ける。負けてしまう。

 

「……」

 

 彩葉はすぐそこまで迫っている。迷っている暇はない。ないはずなのに、私は未だにどこか迷っていた。

 

 前回と同じように彩葉たちとコラボライブをするべきか。白野とコラボライブをするべきか。

 

 きっと、今までの私なら迷うことはなかっただろう。考えることもなく、彩葉たちを取っていたはずだ。

 

 今だって彩葉たちとのコラボライブを心待ちにしている。それは嘘じゃない。

 

 でも、白野とのコラボライブをしてみたい自分もいる。彩葉が白野に『負けた場合、どうするか』と質問するまではどちらかとしかコラボライブができないとは考えもしなかった。これは事前にお互いの考えを伝えていなかった私たちが悪い。

 

 この数日、ずっと考えていた。私はどうしたいのだろう、と。その時点で私は取り返しのつかないほど変わってしまったのだ。そう考える度、胸の中でピシリと何かが軋む音がした。

 

「――ヤチヨ!」

 

 そんな思考を遮るように白野の声が耳に滑り込んできた。そうだ、今はこの戦いに集中するべきだ。大丈夫、私には白野がいる。白野がいてくれる。きっと、彼女ならかぐやが何をしてくるかわかるはず。私はただ、白野を信じて動くだけ――。

 

「バフ解除(バニッシュ)を(・)――」

 

(――え?)

 

 しかし、白野の言葉を私はすぐに飲み込めなかった。バニッシュ。バフ解除。このタイミングで? いや、でも、私に使えば速度強化と耐久強化が剥がされる。魔術師(ウィザード)である白野はいくつも強化(バフ)を重ねられるため、有効な一手だ。特に速度強化を剥がされるとリズムが崩され、立て直すのに多少の時間を使う。その隙を彩葉は見逃さないはずだ。

 

(なら、それを見越して速く動く!)

 

 

 

「――彩葉に使う!」

 

 

 

 私が意図的に番傘を振るう手を速めると同時に白野から予想外の言葉が飛び出した。

 

 バフ解除(バニッシュ)を? 誰が? 彩葉に? もしかして、かぐやが? 何のために?

 

 

 

 ――【vanish_add(b);】

 

 

 

 混乱する私の目の前で答え合わせをするように彩葉の速度がガクッと下がった。白野の言うとおり、かぐやは彩葉にバフ解除(バニッシュ)を使ったのである。でも、なんでそんなことを――。

 

「ッ!?」

 

 ――その答えは自分がバフ解除(バニッシュ)される想定で速めに振られた番傘が彩葉の鼻先を掠めたことで判明した。彩葉の速度強化が剥がされたことで予想していた彼女の立ち位置がズレたのだ。これは、マズイ!

 

「ッ――」

 

 私の番傘を避けるように体を捻りながら彩葉は右手に持つ剣を横薙ぎに振るう。番傘を引き戻す暇はない。そのまま彩葉の剣は私のお腹を全力で両断する。これまで一ドットも減っていなかったHPバーがゴリッと削れた。

 

 

 

 ――【heal(32);】

 

 

 

 そして、それと同時に体が輝いた。私が攻撃を受けることを予想して白野が回復(ヒール)を投げていたのだ。

 

 試合終了まで残り一秒。斬られた反動で後ろに吹っ飛びながら白野の回復(ヒール)によって私のHPバーが回復していくのを眺める。でも、こんな失態を犯したが私はツクヨミの管理人。彩葉が繰り出した渾身の一撃がクリティカルヒット判定だったことぐらい、すぐにわかった。

 

 白野の回復(ヒール)は優秀だが、回復量は決まっている。耐久強化をしていたとしても今の彩葉の一撃は――。

 

『試合終了ー! 最後の攻防はまさに手に汗を握るほどのものでした! そして、ヤチヨのHPですが、はくのんによって回復されましたが数ドットほど削れています!』

『それに対してかぐや・いろPは共に健在! かぐやは地面に落ちてひっくり返ってしますがそれでも生きているー!』

『黒鬼に引き続き、またやらかしてくれました! 最後の試練、勝者はかぐや・いろPだああああああ!』

 

 

 

 ――私の予想したようにこの勝負、私と白野の負け。そして、彩葉とかぐやが勝った。

 

 

 

「……お疲れ。負けちゃったね」

「……うん」

 

 フィールドに倒れたままだった私に影がかかる。意識をそちらに向けると白野が苦笑を浮かべながらこちらに手を差し伸べていた。その手を掴み、素直に身体を起こす。

 

「やったー! 彩葉、やったよー!!!」

「わかった、わかったから名前!」

 

 視線の先ではかぐやが彩葉に抱き着いてこれでもかと体を使って喜びを表現していた。抱き着かれている彩葉も口では嫌そうにしているが口元が緩んでいる。

 

「ほら、行っておいで」

「ッ……」

 

 そんな彼女たちを見ているとトン、と背中を押された。驚いて後ろを振り返れば白野は優しげに微笑みながらそこに立っている。

 

「ぁ……うん……」

 

 言いたいことはたくさんあった。でも、今は配信中であり、私は『月見ヤチヨ』だ。私らしからぬ行動はするべきじゃない。そうだ、私は『月見ヤチヨ』。普段の彼女ならきっと――。

 

 

 

「やぁやぁ、ご両人! よくぞ、最後の試練を乗り越えた!」

 

 

 

 ――いつもの笑顔を浮かべながら白野を放って彩葉とかぐやに声をかけるはずだ。

 

「あ、ヤチヨ! かぐやたちの勝ちだね! 白野は返してもらうよ!」

「ッ……」

 

 それなのにそれをかぐやが許さなかった。私が『月見ヤチヨ』になる度、捨てたものを彼女は丁寧に拾いあげて『かぐや』になっていく。私からどんどん乖離していく。まるで、私は最初から『月見ヤチヨ』で、最初から『かぐや』ではなかったように。

 

「いや、違うでしょ。ヤチヨとのコラボライブをどっちがやるかって話だったじゃん」

「ぇ……あ、そうそう! まさかヤッチョとはくのんのコンビネーションを突破してくるとは思わなかったよぉ! これで二人はめでたくコラボライブの権利を得ましたー!」

 

 彩葉のおかげで何とか軌道修正完了。パチパチと拍手するとかぐやは『そういえばそうだった!』と驚いた表情を浮かべた。

 

「コラボライブかー! はくのんは本当に出ないの?」

「出ないよ。そういう約束だからね」

「えー! 出た方が絶対に楽しいのに!」

 

 白野がかぐやの誘いを断る。やはり、彼女の決意は固いらしい。そう、これでいい。だって、私は彩葉とかぐやとコラボライブをするためにヤチヨカップを開催したのだ。目的は達成された。達成されたはずなのに――どうして、こんなに胸が痛いのだろう。

 

「これにて最後の試練はおしまい! コラボライブの詳細は今度、告知しまーす! それじゃあ、今日はこの辺で! さらば~い!」

「ヤチヨ?」

 

 少し強引に配信を締める。その様子を見ていた白野が首を傾げた。それを無視して私はさっと配信を閉じて彩葉とかぐやへ視線を向ける。

 

「二人ともお疲れ~☆ 改めてコラボライブ、よろしくね!」

「え!? あ、はい! よろしくお願いします!」

 

 最後の試練で最推し(私)のお腹を遠慮なく斬ったとは思えないほど緊張した様子で彩葉がコクコクと頷く。しかし、その隣でまだ白野とのライブに未練があるのか、かぐやは不貞腐れたように頬を膨らませていた。

 

「白野だって一緒に頑張ってたのにライブできないのはやっぱ変じゃない?」

「それを覚悟で手伝ってたから。これは譲らないよ」

「もー、やっぱり納得できなーい! 白野、あんなに歌が上手いのにライブに出ないのはもったいなさすぎる!!」

「え? 歌?」

 

 聞き捨てならない言葉に思わず反応してしまう。しまったと思った頃にはかぐやはニヤニヤと笑って私の方へと近づいてきた。

 

「あれあれぇ? あんなに自分のアシスタントだって言ってたのに白野の歌、聞いたことないの~?」

「……ない、けど」

「そうなの!? 白野、めっちゃ歌上手いんだよ! かぐや、思わず泣いちゃった!」

「へ、へぇ……白野、今度、聞かせてよ」

「え、さすがにカラオケとかじゃないと恥ずかしいかな」

 

 私の頼みに対し、白野は躊躇いなく断った。ふーん、かぐやの前では歌ったのに私の前では歌えないのか。

 

「ヤチヨ?」

「なんでもなーい。じゃあ、かぐや、いろP。今度、連絡するから。白野なんか放ってコラボライブの打ち合わせしよ!」

「お、おお……」

「……」

「じゃあ、待ったねー!」

 

 不思議そうに首を傾げる白野を放置して私は彩葉たちに個人用のSNSアカウントを教えてさっさと『RENKEI』のフィールドを後にした。

 

 

 

 白野のばーか。

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