「こんにちは、ヤチヨのアシスタント兼かぐやのアシスタント兼ツクヨミ唯一の
『長い長い長い』
『初めてのソロ配信でここまでインパクトある挨拶ができるとは……天才か?』
『こんにちは!』
『ザビ子さまああああああ!』
『匿名なのに誰のコメントなのか特定できた件について』
ツクヨミにログインし、『はくのん』として配信を開始するとかぐやのチャンネルなだけあってすぐに同時視聴者数の数が五桁を超えた。有料チケットなので音や映像は流せないがそれでも私の副音声を聞きにこれだけの人が来てくれたことは純粋に嬉しい。
「今日はヤチヨ、かぐや、いろPのコラボライブ同時視聴配信です。よくわかりませんがヤチヨがやれと言うのでやります」
『強制なの草』
『何故、あなたはコラボライブに参加してないんですか?』
『はくのんさん!もう数分で始まっちゃいますよ!ライブ衣装に着替えて会場に急いで!』
『ザビ子がコラボライブに参加してないバグが発生してますが?』
ちらほらと私がコラボライブに参加しないことを残念がるコメントが流れる。しかし、こればかりは譲れない。今から準備したところで間に合わないし、振り付けだってかぐやの練習に付き合った程度しかわからないため、棒立ち待ったなしだ。
「そろそろ始まりますね。概要欄にヤチヨのチャンネルで配信されるコラボライブのURL貼ってますのでアクセスして一緒に見ましょう。お金は払ってね」
さりげなく有料チケットの販促もしておく。そこまで大きい金額ではないし、学生でも手軽に買えるだろう。それにせっかく同時視聴配信に来てくれたのなら一緒にライブを楽しみたい。
『くそ、足元見やがって! ふじゅ~:10000円』
『わかりました、払います! ふじゅ~;15000円』
『チケット代です! ふじゅ~:12000円』
『よーし、ライブ楽しむぞー! ふじゅ~:16800円』
『ふじゅ~:50000円』
「? ここでお金払ってもライブ見れないよ?」
しかし、リスナーのみんなは何故かスパチャを投げ始めた。もしかして、私の言い方が紛らわしかったのだろうか。ライブが始まるまでもう少し時間もあるのでチケットの買い方をレクチャーしよう
「チケットの買い方はね、こんな風にURLからチケット販売ページにアクセスして――」
『うん、そういう天然なところ好き ふじゅ~:7500円』
『普段はこんなぽわぽわしてるのに戦いになった途端、軍師になるの好き ふじゅ~:3850円』
『本当になんでコラボライブに参加しないのか ふじゅ~:8000円』
『こういうところが愛くるしいんだよ! ふじゅ~:30000円』
『しかも、自分の過失だと判断して丁寧に教えるのさすがとしか言えない ふじゅ~:20000円』
画面を映しながらチケットの買い方を説明するがスパチャが止まらない。もしかしてからかわれているのだろうか。あまり良くない流れだ。ここは厳しく言わなければ今後も同じようなことを繰り返してしまうかもしれない。
「お金で遊ばない方がいいよ。自分のために使って」
『あ、はい。ごめんなさい』
『すみません、好きという気持ちがあふれてつい』
『ライブチケット買わせていただきました』
『違うんです、スパチャするのは自分のためなんです! ふじゅ~:1000円』
まだ完全にいなくなったわけではないがとりあえず、スパチャは落ち着いた。そんなことをしている間にコラボライブが始まる時間になってしまう。
「じゃあ、一緒に見ようか。私もかぐやの練習に付き合ったから色々と話せると思うし、楽しみにしててね」
『一緒に練習したなら参加しろよおおおおお!』
『今からでも間に合うって!早く会場に行って!』
『お願いお願いお願いお願いお願いお願い』
「行きません」
『なんでだよおおおおおお!』
『わかった!はくのんの誠実さはわかったからお願いします!』
『もうだめだおしまいだぁ』
開演まで一分を切っているのに諦めていない人がいるのは驚きだ。でも、もう構っている時間はない。コラボライブが――始まる。
「お、衣装がいつもと違う。お揃いなのいいね」
コラボライブが始まり、ステージにはお揃いの衣装を着たヤチヨ、彩葉、かぐやが立っていた。あれがライブ衣装というものなのだろう。
『じゃあ、あなたも着ましょう』
『ヤチヨに頼めば一秒で作ってくれるよ』
『ザビ子も衣装チェンジする?』
『アカウントロックされてるから衣装は変えられないんじゃない?』
私の発言にリスナーたちが反応する。確かにいつものミリタリーっぽい衣装はライブの雰囲気に合わないかもしれない。しかし、月海原学園の制服もどうだろう。
「なら、これかな」
『ッ!? ワンピース!?』
『衣装変えられるやんけ!』
『めっちゃ可愛い!でも、バイザーがちょっと合わないかも』
一番合いそうな白いワンピースっぽい礼服に着替えるとコメントが加速した。バイザーはミリタリー衣装に合わせて作ってくれたので確かに合わないかもしれない。だが、外すわけにもいかないので我慢してもらおう。
「アカウントロックはされてるけど、一部の衣装だけなら変えられるよ。あ、ヤチヨが動いた。みんな、私のことはいいからライブに集中して」
『俺たちのメンタルを揺さぶってくる本人が何言ってんだ』
『こっちだって集中したいけど気になることばっかするのあなたじゃん』
『理不尽すぎませんかねぇ』
『でも、そういうところも好き』
コラボライブが始まりそうなので私は少しの間、コメントから意識を外してライブ配信に集中する。画面の中で周囲を見渡している彩葉とかぐやを置いてヤチヨがゆっくりと一歩だけ前に出た。
『ヤオヨロー☆ みんな、生きるのどうですか? いいことあった? それとも泣いちゃいそう? よしよし、全部大丈夫だよ。どんなに孤独な道のりでも楽しかったなーって記憶が足元を照らしてくれるから。この時間も……忘れられない思い出にしたいんだ。だから、どうか一緒に踊ってくれる?』
「……」
ヤチヨの言葉に観客たちは一斉に歓声を上げる。そして、ヤチヨは歌い出した。それに合わせて彩葉は慌ててキーボードを鳴らし、かぐやも観客に振っていた手を止めてヤチヨの隣に移動する。
「……楽しそう」
ヤチヨは慣れた様子で、彩葉は緊張しているのか顔を引きつらせて、かぐやはこんな大舞台なのに楽しいが先行しているせいでピョンピョンと跳び跳ねている。三人の個性が出ており、見ていて飽きないコラボライブ。もし、私があそこにいたらどうなっていただろうか。
『……少しぐらい寂しそうにしてくれてもいいのになんでそんなに優しい顔してるの?』
「私は私のためにかぐやを手伝っただけ。コラボライブをするためじゃない。あの子たちが前に進むためにちょっと背中を押してあげたかったんだ。それができて満足してるからじゃないかな」
本来、同時視聴配信はリスナーと一緒にライブを見て騒ぐべきなのだろう。でも、私は見守っていたかった。だからだろうか、目についたコメントにそう答えていた。
きっと、私がいなくても彼女たちはあの景色の中にいた。むしろ、私がいたせいでその道のりは険しいものになってしまった。自分が与える影響を考慮していなかったから。
『ヘイベイビー』
「ふふっ……いろP、あんなにヘイベイビー言うの嫌がってたのにちゃんとできたじゃん」
『待って、いきなり裏情報を垂れ流すの止めて』
『まさかのいろPパートがあるとは思わなかった……その話詳しく』
『いろPもなんだかんだいい声してるしな。何故、歌わない?』
でも、彼女たちは険しくなった道をちゃんと乗り越えた。私というイレギュラーを押しのけてあのステージに辿り着いた。それが、すごく嬉しかった。
(やっぱり、あそこにいなくてよかった)
だって、私も一緒のステージに立っていたらこうやって彼女たちのコラボライブを見られなかったから。
「因みにあのかぐやの踊りはアドリブ。もっと普通の振り付けだったけどテンション上がって体が勝手に動いちゃったみたい」
『そりゃそうだろうよ!!』
『ヤチヨにしてはヘンテコな振り付けだと思ったけどかぐやオリジナルかよ!』
『あんなん間近で見せられたら笑うしかないって!』
それから私はリスナーたちと一緒にコラボライブを見守る。時々、ボソッと思い出話をして、リスナーが反応して、またライブを見る。初めてのソロ配信だったがその事実はすっかり頭から抜け落ちていつの間にか夢中になっていた。