私は上守陽奈。玲峰大学附属学校の高等部に(内部)進学して、今日から正真正銘花の女子高生になった15歳。
色々あったけど、遂にこの時を迎えることが出来た事が私をちょっとだけ不思議な気分にさせる。内部進学と言っても、みんながみんなそういう訳じゃないし、余り話したことのない人や他の中学から受験してきた編入生もそれなりにいるから、中等部と同じクラスや雰囲気という訳ではない。でも墨ちゃんと同じクラス、それも私の前の席という奇跡が起こった。墨ちゃんこと黒藤墨ちゃんは中等部からの大切な友達、そして苦楽を共にしてきた
そういえば、墨ちゃんが私の隣の席の編入生‥‥‥十六夜昴くんに『実は女の子だったりする?』とか聞いてたっけ。どう見ても男子用の制服だし、普通に喉仏出てたし、一人称オレだったし自分は男だって言ってたし。私からすれば
「まあ、色素薄かったし顔つきも男らしいって訳じゃなかったけど‥‥‥。」
でもなんていうかな。何て言えばいいのか分からないけど、十六夜くんには”雰囲気”があった。陽気とか陰気とかそういうのではない、確かな雰囲気が。
「…‥‥取り敢えず帰ろ。」
友達とお昼に行った流れでカラオケ行ったり気になっていたお店に行ったりして駅前でお開きして、今の時刻は17時前。夕飯は家で食べるつもりだし、時間的にもう作っている気がするし少し急いだ方が良いだろう。まずはお母さんに連絡入れとこう。
「えーと、”夕飯は家で食べ”「裕太!裕太ァ!どこいったの!?ねえ返事して!!」…‥え?」
夕飯は家で食べる。そう打ち込もうとした時、女の人の叫び声が聞こえてきて指が止まり視線が画面から外れる。30代半ばだろうか。いっぱいのエコバッグを落していることにも気づかず、半狂乱になりながら”裕太”という名前を呼び続けている。恐らく母親だ。一緒に買い物に行った帰りに迷子にでもなったのかと考えたが、それにしては慌てすぎな気がする。もちろん、そういう人もいるのだろうけど。
「あの、落ち着いてください。どうかしましたか?」
やっぱり気になってしまった。私はお母さんに帰りが遅くなるから夕飯は先に食べてと連絡し、落ちていたエコバッグと買い物したものを拾って渡しながら女の人に話しかけてみる。
「裕太が、家の裕太が突然いなくなったの!」
「迷子って事ですか?なら私も探し「…‥‥子、じゃ、ない。」…‥え?」
「迷子じゃ、ないのっ!連れて、行かれて‥‥‥‥‥っ!」
「落ち着いてください。何があったんですか?」
話を聞くと、裕太くんはえーっとグリッ○マン?ウルト○マンみたいなやつ?のTシャツを着た男の子で、スーパーで買い物をして手を繋いで帰っていたところ、突然路地裏に引き込まれるように消えていったらしい。
「それで、その裕太君を
「分からない。」
「そこの路地裏の前を通りかかった時、裕太が手を握る力がいきなり強くなったと思ったら、信じられない力で引っ張られて倒れてちゃって、気付いたら…‥‥‥っ!」
いくら男の子とはいえ、お母さんを力任せに倒していきなり姿を消したというのは不自然だ。母親と手を繋いでいる子供を誘拐するのもリスキーだし、裕太君が抵抗したとしても大声を出したりして直ぐに気が付く気がする。この人の様子や話からするにそんな事を認識する前に裕太君はいなくなったみたいだ。
ここは歩きなれた場所だけあって何処に何があるのかは大体分かっているが、時間が時間と言うだけあって人混みに紛れて逃げられた可能性もある。でも今のところ、私は裕太君を連れ去ったのは人間―――少なくとも一般人ではないと考えている。
それを確かめるべく、私は右手の中指に嵌めた
集中、集中。方向と距離さえわかればいい。とにかく集中______
「‥‥…!」
見つけた。裕太君がいなくなったという路地裏の奥の方から感じる。となるとやはり、裕太くんを連れていったのは______
「…‥‥‥お母さん、連絡先を交換してもらえますか?
「それはいいけど、出たらって、どういう…‥?」
呆気に取られているお母さんと連絡先を交換すると、心配させない様に作った笑みを見せ路地裏に入っていく。見た所薄暗く小汚いただの路地裏の道だが、周囲に目を凝らしながらラリンのトーク画面を開いて
「相変わらず爆速で助かる、流石ズッ友。」
それにしても、いくら路地裏といってもこんなに人通りが少ないものだろうか?それに路地裏に入った直後からどうも見つからない。
「でも確かにこの近くのはず…‥‥。一体どこに‥‥ってわあっ!?」
瞬間、ブレザーを後ろから凄い力で引っ張られて仰向けに倒れこんでしまう。
「痛ぁ、ってちょちょちょちょッ!?」
どうにか受け身を取れたかと思えばそのまま引っ張られ始めたので咄嗟に近くの室外機にしがみつき抵抗しながら体勢を整えるようと踏ん張る。
「うぐぐぐぅ‥‥‥もしかしてこれが‥‥‥!」
どうにか背後を見ると、ブレザーに白い糸のようなものが付いており、それは分かれ道の右奥にから真っすぐ伸びているようだ。その先の深い影から負の魔力を感じる。どうやらその陰の先が裕太くんが連れ込まれた
「すぅ‥‥‥‥えいっ!」
そこは路地裏を無理矢理広げた上で閉ざしたかのような歪な箱庭。負の魔力に満ちた奴らの巣穴。どこか退廃的な様子のそこにはクモの糸が張り巡らされており、中でも巨大なクモの巣に何かが張り付けられているのが分かる。というか、私もそこに向かって糸を付けられて引っ張られているのだが。
そうして私も背中からクモの巣に叩きつけられ、糸の粘性に絡めとられ弾性で何度か体が弾んだかと思えば身動きが全く取れない。どうにか頭を動かすが巣に張り付いた紙が引っ張られているので結構痛い。どうにか首を動かすと私以外にも捕まった人がいるようだ。意識はないようだが目立った傷は無さそうなのが幸いか。
「というかこのTシャツ、もしかして‥‥‥!」
私の右横で捕まっている男の子の赤いTシャツにはえっとウルトラじゃなくてグリ…‥グラ‥‥‥‥忘れたからいいや。とにかくこの子が裕太君らしい。
「他に人がいないのは被害者が裕太君だけなのか、それとも‥‥‥。」
‥‥‥嫌な想像はやめよう。今は裕太君と生きてここを出ることを考えなければ。
「…‥‥!!!!!!!!!」
思考を巡らせる間もなく、金切り音のような何かの咆哮が真上から巣穴に響き渡る。耳を塞ぐことが出来なかった為耳が痛く、音が良く聞こえないが多分鼓膜を始めとして体へのダメージは問題なさそうだ。
「今日はイヤホン使わないでおこ…‥‥てか、何となく察してはいたけど…‥‥」
見上げると、糸を出して天井からぶら下がっている大蜘蛛が。その大きさは人間どころかトラックより大きい。8本の足それぞれと複眼が赤い宝石の様になっており、足と触角の先は針の様に鋭い。
「まあ、そうだよね‥‥‥考えてる暇は、ないよね…‥!」
巣穴の出方を探すにしても身を守るにしても、蜘蛛をどうにかしないことには難しい。というかどうにもならないだろう。ならやることは一つ。
大蜘蛛はその巨体を揺らしてぶら下がっていた糸を千切りながら壁から壁へと、その八本の足で私と裕太君が捕まっている巣へと飛びかかって大きく鋭い足を振り上げる。身動きが取れないうちに
「舐めないでよ、ね!」
怖気づくことなく大蜘蛛の複眼を睨みつけながら指輪に流し込んだ魔力を思い切り流し込むと、青白い光が赤い燐光へと変わり私の全身を包み込む。
着ていた服や靴が消え、代わりに白と黒を基調としたブラウスとプリーツスカートが出現。四肢がアームカバー・ストッキングに覆われると各所赤いベルトやリボンで飾り付けられ、左肩と腰のベルトから金で飾られた真っ赤なマントが翻り、左腰に鞘に収められた剣が現れる。
制服から魔装衣に変わった事で体が巣から離れると、足元に小さな魔法陣を出現させて足場として裕太君の前に立つ。抜剣しながら空いている左手で魔法陣を展開し、正面から受け止めるのではなく横から押し付けるようにぶつける。
「くぅうう‥‥‥!」
想定以上に重いが魔力を更に上乗せしてどうにか踏ん張りながら、弓を引くようにぐっとタメを作り、剣に魔力を集中させる。短い鍔に細長く鋭利な刀身と長めの柄。余り斬撃に向いていない代わりに、
「やあァァアアッ!!」
力強い踏み込みで放たれた強烈な刺突が大蜘蛛の複眼に突き刺さる。が、
とはいっても突き飛ばせるだけの衝撃はある。
「!?!?!?!?」
赤い閃光と共に大蜘蛛は自らの作った巣から招かれざる少女によって追い出される。そのまま壁にぶつかるかと思ったが、大蜘蛛糸を吐いて上の方にくっつけることで体勢を立て直して八本の足を区こませることで耐えた。
「‥‥‥もっと踏み込まないと通らないか。」
頑丈で粘性や弾性のある糸も利用することで巣穴を縦横無尽に跳びまわる機動力に生半可な結界を貫きかねないパワー。そして糸によるトリッキーなスタイル。この大蜘蛛とは相性がいいとは言えない上に裕太君を守らなければならない。状況はハッキリ言って悪い。相棒にさっき連絡済みとはいえ、ここから逃げるのは困難を極める。
「やるしか、ないね。」
切っ先の刃で器用に裕太君を巣からはがして抱えると糸のついていない壁まで跳んでいき、エストックを突き刺してブレーキを掛けながら隅の方にそっと寝かせる。
あっちの
生唾を飲み込み、柄をギュッと握りしめ気合を入れて上から見下ろしている大蜘蛛と睨み合う。負けていい理由も、裕太君を諦める理由も、私が戦わない選択肢も存在しない。1人でもあいつを倒す。倒しきれなくても、相棒が来るまで裕太君を守り切って生き残るのが最低ラインだ。
腰を浅く落としつつ左足を引いて半身の姿勢。右手首を上に向けて柄頭を胸に引き寄せるようにして剣先を向ける。魔法陣を足元に展開して脚力を強化し、息を浅く吸う。
「すぅ‥‥‥はあァァアア!!」
息を吐き出し、疾走し、跳躍。
「!!!!!」
大蜘蛛も金切り音を上げると糸を吐きながら壁や巣を足場に素早く距離を詰めてくる。
今度は結界で受け流す事はせず、私のエストックと大蜘蛛の足が火花と魔力を散らして交差する。狙いが逸れ僅かに削ることしかできなかったが、直ぐに左右にステップを踏みながら後退し、巧みに次々と振り下ろされる八本足を避けつつ距離を取る。
「‥‥‥‥!」
必ず、裕太君をお母さんの所まで生きて連れて帰る。
その為にこの大蜘蛛を―――
「串刺しにしてやる‥‥!」
負けるわけにはいかない。
私は、
「痛ッてぇ…‥何処だよここ_____うわっ、ベタベタする何だコレ気持ち悪!?洗濯機で落ちるかなこれ______」
「!!!!!」
「こんのォォおおお!!」
「えっ‥‥‥‥‥マジかよ。」