早くスパイダーマン見たいまどマギみたい。
後書きはキャラとか世界観の設定小出ししていくか考え中。
背中が痛い。だが、打撲や骨折をした感じではない。受け身を取れたのか、高度がそこまででもなかったのか。
「痛ッてぇ‥‥‥‥。」
少し眩つく頭を抱えながら薄っすらと眼を開ける。固い質感だとは思ったがコンクリートの上だったらしい。よく無事だったなと久方ぶりに自分の幸運に感謝しようとするが、それを押し流すように今いるこの場への違和感を覚える。
「えっ、何処だよここ____うわっ!?ベタベタする何だコレ気持ち悪!?」
少し動かした左手の先に何かベタついた、それでいて覚えのある感覚の白い糸のようなものがつく。悪寒を覚え咄嗟に手を引こうとするが中々取れない。立ちあがって踏ん張ることでどうにか左手の自由を取り戻す。よく見ればパーカーの袖にもついている。だが右手でとるのはちょっと…‥‥取れなくなりそうだしちょっと嫌だ。
「洗濯でおちるかなこれ‥‥それにここは‥‥‥‥。」
明るくも暗くも無く、どこか息苦しさを覚える不穏な空気。元あった何かを無理矢理押し広げたような歪んだ空間。何より壁から壁へと張り巡らされた巨大な蜘蛛の巣と、コンクリートの床の下から聞こえてくる何かを交え火花を散らしている激しく甲高い音。
崩れたように途切れている床の端まで、糸に注意しながら近づいて下の方を覗き込むと、
「!!!!!」
「こんのォォおおお!!」
現代社会では全くと言っていい程見ない、赤い騎士装束に身を包んだ少女が巨大な蜘蛛のような怪物と刃を交えていた。糸を出し巨体を動かしたり、壁や巣を使って立体的な機動をするなどして魔法少女に襲い掛かる蜘蛛に対して、ギリギリで糸や足を躱して突きこんでいる。
「えっ‥‥‥‥マジかよ。」
何となく察しはしたがこうして答え合わせをすると、ハッキリ言って気が滅入る。
「あのユウとか言うの‥‥‥巣穴に落としやがったのか…‥‥。」
負の魔力によって形作られた体を持つ怪物…‥”
「一体なんのつもりだ‥‥?」
魔法少女でもないピカピカの1年生(15歳)を説明も無くこんな所に落とすとは、彼女はオレを殺したいのだろうか?この街に来てからまだ恨みを買うような事をした覚えは無いのだが。
「‥‥‥にしても、これがこの街の魔法少女か。」
見るからに慎重な扱いが求められると思われる細い長剣を手に、素早い身ごなしで蜘蛛の攻撃を躱し時に剣で受け流しつつ、鋭く突きこんでステップを踏むように距離を取る。
ふむ。
「‥‥!!!!!」
「はぁ、はぁ‥‥‥ッ!?くぅ‥‥‥!」
あれでは倒しきれない。
蜘蛛の外郭は固いらしく、剣は突き刺さるどころか精々表面を削っている程度だろう。その上、言ってしまえば蜘蛛は8本の槍を繰り出しているようなもので、基本的には魔物の方がパワーは上。それを躱し続け刺さるまで剣を突き続けるのは極めて困難だ。流石に決め手に欠けるし、
テリトリーから出る方法は何らかの魔法による移動、自分が入って来た場所を寸分の狂いなく通る、テリトリーの作り主による解除或いは行動停止のいずれか。だがオレはユウの力で落とされた為で出口は無いし、用意が無いので1つ目と2つ目は不可能。よって3つ目、要はあの蜘蛛を倒す必要がある。あの赤い魔法少女に倒してもらいたいところだが、相性不利の為やや不利。長期戦は困難。彼女一人では勝てないかもしれない。
「はぁ‥‥‥‥仕方ないな。」
せめて邪魔しない様に援護を______
「!?はぁ‥‥‥クソっ!!」
____________________
「はぁはあ…‥はあ、ッはぁ‥‥‥‥。」
息は切れ切れ。肩で息をしていることを自覚したのは一体、何分前だろうか。
攻撃を躱し、糸を避け、時に切っ先でどうにか切り、懐に潜り込んで突きこんで離れ、得物を構えなおして赤い大きな複眼と睨み合う。私は今日、この蜘蛛と何度、このやり取りを繰り返したのだろうか。最も、数えることなんて最初から放棄しているけど。
槍のように重く鋭い8本足。固い外殻と敏捷性。加えて、獲物をからめとり自らに立体的な戦闘領域を与える粘りつく白い糸。ただでさえ虫型の相手は苦手だというのに向こうの方が搦め手が多いというのは面倒くさい。
瞬発力だけなら私も自信があるし、相棒がいたのならコンビネーションで今頃こんな奴倒しきれてる。でも実際に一人で戦っている私がこの蜘蛛を倒せていないのが、全てだ。
馬力が足りない。手数が足りない。
私だって魔法少女だ。決め手くらい持っている。だが_______
「裕太君‥‥‥‥‥。」
チラッと、肩越しに少し離れた物陰でぐったりしている男の子の様子を見る。一応巻き込まれない様に防御結界を張ってはいるが、絶対に巻き込まない保証も結界が破られない保証もない。それに小さめとはいっても遠隔で急ごしらえの結界維持は、私にとっては難しい。
慣れない
「やっぱり、短期決戦‥‥‥だよねッ!!」
刀身と足に魔力をつぎ込み、先程とは比べ物にならない強化を実行。刀身は鮮やかな赤で彩られ魔法陣が展開される。反応されるより早く、防ぎきれない程重く鋭い一撃必殺。万が一にでも裕太君を巻き込まない最大火力を最高速度で叩き込む。
そう何度も出来はしないけど、こっちは
呼吸と魔力の流れを整え、集中。ジェットエンジンのように真っすぐすっ飛んでいくイメージで‥‥‥‥!
「はあァァアア!!!」
剣を引き絞り倒れこむように身を屈め、コンクリートを叩きわるような勢いで地を蹴り、魔法陣に飛び込むと体が弾けたように加速する。赤い髪とマントが靡き、景色や音を置き去りにしたと錯覚するほど、知覚しきれない速度の中で体を捻り、引き絞った剣を弾丸の様に突き出す。
黒い足が私を貫いて新しい赤で染める前に、エストックが赤い複眼を引き裂き、比較的柔らかい腹を裂いて突き抜ける‥‥‥‥‥はずだった。
予測されていたのか、それとも私の予測不足か。大蜘蛛は私が元居た場所に向かって飛び掛かった。全力の突きは掠る事もなく、私は私の頭上を跳び越えた大蜘蛛とすれ違う様に立ち位置を変えた。図らずも互いを傷つけることなく位置を入れ替える形になったが、まだ手はある。両足でブレーキを掛けながら体の向きを180度変え、再び突撃体制を取る。
「もう一度______!?」
知ってか知らずか、大蜘蛛は左後ろに飛びのき、私の真正面から軸をずらす。そこにはまだ目を覚ましていない裕太君が。
「!?‥‥‥!!!」
蜘蛛の足が裕太君を守っている防御結界に接触して弾かれる。それにより蜘蛛の複眼は私ではなく、結界の中の裕太君に向けられる。
「‥‥‥‥!!!」
大蜘蛛が防御結界に次々と足を振り下ろしはじめ、その度に結界の表面が青白く光を帯びて揺れ動く。
「そっちは…‥駄目ェェえええ!!」
不慣れな私が作った急ごしらえの結界は、この大蜘蛛クラスの魔物の攻撃にはそう長くは耐えられない。直ぐにでも結界から引き剥がすべく全速力で突撃する。点ではなく面で突き上げるイメージで魔力を練り瞬時に接近する。私に背を向けている蜘蛛のがら空きの腹に一撃。そのはずだったが、剣を突き出し始めた時に私は判断ミスに気付いてしまった。しかし時すでに遅し。蜘蛛の後ろ(人で言えばお尻に当たるのだろうか)から白い糸が発射されエストックごと私の右腕にまとわりつき、そのまま私の身体は壁に向かって振り回され叩きつけられる。
「ガっ!?…ハアッ‥‥‥!!あぅ‥‥。」
体が左からめり込み、腹の底から熱いものが込み上げる。その隙を突かれないわけは無く、今度は糸が玉のようになって撃ちだされ、私の身体を壁に貼り付けられて身動きが取れなくなる。
「!!!!」
蜘蛛は裕太君から興味を失ったかのように遠隔結界から離れ、金切り声を出しながら私にゆっくりと近づいて来る。まるで私を嘲笑ってるみたいだ。どうにか糸から脱出しようとエストックに魔力を込めようとするが上手く流れない。糸に魔力が吸われているのだろうか。裕太君がぐったりしているのも、この巣穴に糸が張り巡らされているにも、いきなりこんなに強い魔物が出てきたのもそういう事かと納得するが、そうしたところでこの状況はどうすればいい?
このまま私がやられたら遠隔結界は解除され今度は裕太君がやられてしまう。蜘蛛の足が私を貫くのは秒読みで、相棒がタイミングよく来てくれる保証もない。
「くぅ‥‥‥そんな…‥‥」
今日から高校生なのに。友達との約束もあるのに。今まで戦い抜いてきたのに。裕太君のお母さんに一緒に出てくるって言ったのに。お母さんが、ご飯作って待ってるのに。
嫌だ。嫌だ。いやだ。しにたくない。しにたく、ない…‥‥‥‥!
必死に魔力を体に流してもがいてみるが、糸はびくともしない。更に粘つき頑丈になっていく気さえする。
そうしている間にゆっくりと近づいていた大蜘蛛は獲物の顔を焼き付けるかのように真っ赤な複眼を近づけ顎を開く。そして振り上げられる、左足。
「ごめっ、誰、か、助けっ‥‥!!」
顎が震え視界が涙でにじみながら自分でも情けない声が出る。でも、この声を、姿を見る人は誰もいない。
蜘蛛の足が振り下ろされた瞬間、反射的に瞼が視界を塞ぐ。
ああ、せめて、頭を一発だといいなぁ‥‥‥‥‥。
「!!!!!」
「…‥‥‥‥っ!!」
振り下ろされる足から顔を背け目をぎゅっと瞑る。直ぐに貫かれてぐちゃぐちゃになる自分の姿が脳裏に写り、瞼の裏で走馬灯を幻視する。
「‥‥‥‥‥‥」
‥‥‥‥‥‥‥。
「…‥‥‥‥‥‥‥‥‥?」
変な感じだ。走馬灯らしきものも終わったし、貫かれて痛いどころか、何かに触れられた感覚すらない。死ぬって、こういう感じなの‥‥‥‥?でもまだ感覚あるし心臓が凄いバクバクしてる。
漠然とした違和感を感じて、恐る恐る目を開けてみる。これで目の前に足が来てたらと思うと体が震え余計に________
「ぇ…あっ‥‥‥」
視界に入ったのは、想像していたものとはまるで違う。大蜘蛛の魔物でもなく、凄惨と化した状況でもなく、知らない背中だった。
ボロボロになった黒い外套。素肌を全て包帯で覆い隠した右腕。フードの上から首に巻かれ、靡く赤いマフラー。足を振り下ろしていた大蜘蛛は、さっきよりいくらか後ろに下がっている。
この人が、助けてくれた‥‥‥?
「あ、あのっ「!!!!!」ひっ!?」
口を開いた瞬間にそれを遮るように金切り声を上げ、勢いよく飛び掛かってくる大蜘蛛に情けない短い悲鳴を零す私。身動きが取れない事も忘れて剣を握ったままの右手を動かそうとする。
しかし、目の前の人はゆっくりに見える程淡々と、小振りな斧を握った左手を掲げる。
「‥‥‥‥‥。」
大蜘蛛が迫る中、その人は一向に動く気配が無い。そして振り下ろされる蜘蛛の足。左右の一番前が同時に繰り出され、目の前の人も私も貫こうとする。しかし、
「…‥‥‥‥!!」
一瞬だった。気づけば左手の斧は振り抜かれ、振り下ろされモノだけでなく、いくつかの足が切り落とされ、赤い複眼に深々と右手が突き刺さっている。何があったか見ていたのに、一瞬分からなかった。私が理解しようとした頃には蜘蛛の足から、腕を突きたてられた顔から青白い体液が吹きだし、私の左頬にも飛んでくる。
裕太君を攫い、私が苦戦していた大蜘蛛の魔物は、呆気なく倒されたのだ。
体液を吹き出していた大蜘蛛の身体は次第に魔力とドス黒い粒子となって分解されていき、それと同時に世界がひび割れ、滲み、湾曲する。
気付けば辺りは入って来た時の薄汚い路地裏。糸で拘束されていた私の身体は一瞬宙に少し浮いた形となり、支えを失って倒れかけるが黒いコートの人が受けとめてくれて、そのままゆっくりと下ろしてくれた。日はすっかり落ちており、街頭もないので深くかぶったフードの中の顔は見えない。
無意識に手を伸ばすがコートの人は裾を翻してどこかへ歩き出す。何処にいくのかと思ったが、少し離れた所に倒れていた裕太君の所だった。結界は既に解除されているようで、思っていた以上に危ない状況だったことに背筋が凍る。
コートの人は裕太君の状態を確認するような素振りを見せると、彼の身体を抱えて私の近くに降ろす。
「あの_____…ちょっ、何!?」
突然、コートの人が何かを顔の前に近づけてくる。一体何をするのかと身を固めて警戒するが、その何かは私の左頬に当てられる。警戒した自分が情けなく思える程に優しい手つきで、柔らかい感触で頬がこすられる。これは、タオル‥‥?
もしかして、頬に魔物の体液が付いたから拭いてくれている‥‥?
魔物の身体は消滅と共に魔力とその他の物で分解・霧散していき、それは体液も例外ではない。少し気持ち悪い感触こそあるが、魔法少女には大した悪影響はないし、ずっと何かが残る訳でもない。それなのに‥‥‥。
そうこう考えている間に頬からタオルが離され、コートの人はゆっくりと立ち上がる。
「‥‥本当に、色々とありがとうございます。あなたは一体_____」
誰なんですかと聞こうとするが、言い終わる前にコートの人は大蜘蛛の魔物がしたように壁から壁へと飛び移るようにして登っていき、姿を消した。
その場には私と裕太君だけが取り残され、私はその人が飛び上がっていったビルの隙間から見えるくらい空を見上げていた。
「何だったんだろ‥‥‥。」
取り敢えず裕太君をお母さんの所に連れて行ってあげないと。
「陽菜!!」
路地裏の入り口から私を呼ぶいつもより大きな声が。
少し遅かったとはいえ、彼女が駆けつけてくれたという事実と、聞きなれた声に安心する。
「こんばんわ、墨ちゃん。もう終わったよ。」