私は上守陽奈。玲峰大学附属学校の高等部に進学した15歳で、
昨日の帰り道で裕太君という男の子を助ける為に”
蜘蛛が私に止めを刺そうとしたその時、黒コートの謎の人物が現れてあっという間に蜘蛛を瞬殺。
お陰で私と裕太君は無事にテリトリーから出られて、お礼を言おうとしたら顔も声も分からないままその人は何処かへ行ってしまった。
悪い人ではなさそうだけど、あれは一体誰だったんだろう?
「お礼、ちゃんと言わないとね。」
今度は、”テリトリー”じゃないところがいいけど、そういう訳にはいかない。何も知らないしね。
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高校生活2日目。本格的高校生活が始まったが、といっても授業の殆どはオリエンテーションや各教科担当の教員の紹介、資料の配布等が殆ど。教員の顔と名前を覚えるのが一番大変で、後はメモやクラスメイトとの確認で事足りたので特に困るような事は無かった。
「‥‥‥‥‥。」
困っている訳では無い。悩んでいるという訳でも困っている訳でもない。だが、オレはずっと考え事をしている。
あのユウとかいう、色が抜けたような淡い金髪の少女の事だ。別に一目惚れした訳ではないし気になっている訳でも‥‥‥いや、気にはなっているな。
『これは、君の‥‥‥‥?』
『んん~そんな感じ。強いて言うなら
彼女はオレを謎の空間に落とした後、オレだけを蜘蛛の”テリトリー”落とした。あれは遠距離移動魔法か結界術の一種、それも固有魔法の類だと考えるのが自然だが、彼女はその力を
まあとにかくだ。オレの秘密を知っている人間がこの街にいて、目的不明、だが只者ではないという事は確かだ。この街にはオレの事を知っている人間は魔法少女も含めていないと思っていたが、どうやら唯の勘違いというか思い込みだったらしい。
「はぁ‥‥‥。」
「十六夜くん、どうしたの?」
ついため息が出てしまい、上守さんが声を掛けてくる。困り事か何かと勘違いさせてしまったようだ。勝手な私事なのに申し訳ない。
「ごめん上守さん、何でもないんだ。」
「謝らなくても良いよ。何かあったら言ってね。」
く、曇りなき眼‥‥‥!眩しい‥‥‥!オレは私情しか考えていないのに何て立派な‥‥‥!
「ああ、ありがとう。」
「‥‥‥‥では、来週から内容に入っていくので今日配った資料とパソコンを忘れない様に。今日はここまでです。昼休みになるけど、次の授業に遅れない様にね。」
何時の間にそんな時間になっていたらしい。集中できていたとは言えないが、一応メモも資料もあるのでどうにかなるだろう。取り敢えず、今日のお昼はどうするか考えよう。今日は弁当を作っていないから購買部で何か買うか学食に行くかになるが、どうしたものか。学食は席の問題、購買部は売り切れの問題か。
オレの席は一番後ろの角なので教室全体を見ることが出来るが、昨日お昼に誘ってくれた遠山たちの姿は無い。どちらにしても今日は1人なら、比較的席を取りやすいだろうし食堂に行ってみるか。なかったら購買部で何かしらの余り物を買おう。具無しのコッペパンくらいは残るはず(多分)。
そうと決まれば善は急げ、だ。さっさと食堂に行こ___
「十六夜くん、お昼行くの?」
「ああ、学食に行ってみようかと。そういうの行った事ないからさ。」
「そうなんだ。
「へっ?それぞれ……?」
ロクな下調べをしていなかったとはいえ、そこそこ凄い有名ではあるから少し知っているつもりだったが…‥思った以上にレベル高いな。そのうち順応できるとは思うが、ひょっとして授業についていけなくなったりするのだろうか‥‥‥。
「‥‥‥アンタ、オープンキャンパスとか来てなかったわけー?」
気怠げな感じで振り向いてきた黒藤さんの言葉がグサっと突き刺さり、自分の情けなさをより一層認識させる。
「ちょっとごたついちゃってて‥‥‥いやぁ、受験生なのに何してたんだろってね。あはは‥‥‥」
「それで編入できたって不思議ー。もしかして裏口入学ってやつ?」
「!?」
「もう墨ちゃんってば、人聞き悪いって~。きっと十六夜くん頭いいんだよ!」
「頭がいいかは分からないけど、
「ふーん…‥‥じゃあこれから宿題写させてもらおっかなー。」
「墨ちゃん‥‥‥。あっ、食堂行くんだったよね?ごめんね引き止めちゃって。」
「いや、いいんだ。こういうのは大事だから。‥‥それじゃまた。」
…‥‥勉強、頑張らないとな。
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「はい、Bセット。お箸とお水はそっちからとってね。」
「はい、ありがとうございます。」
時期的にも混んでいるだろうし少し出遅れたと思ったが、回転がいいのか割と早く注文することが出来た。とはいえ、肝心の席が見つからない。所々に空いている席があるにはあるのだが、グループとグループの間だったり、ちょっと厳つい生徒の前だったりで絶妙に座りずらい。しかし、このまま盆をもったままウロチョロしていたら、邪魔だし冷めるし昼休みを無駄にしてしまう。仕方ない。少々気まずいが適当な席に失礼させて_____
「…‥‥そこの貴方。」
「‥‥?」
芯の通った凛とした声の方に反射的に振り向くと、大きな窓際の席に長髪の女子生徒が静かに座っていた。初見だが、少なくともこんなに芯の通った声は教室では聞かなかったから恐らくは他のクラス。もしかすると先輩かもしれない。周りの席に誰も座っていないのを見ると、誰かと待ち合わせの人を見つけたのだろうか。気になって再びキョロキョロと周囲を見るがそれらしき人は___
「‥‥‥‥鯖味噌のお盆を持って挙動不審になっている、そこの貴方よ。」
鯖味噌?誰かと待ち合わせてる訳じゃないのか?てか何故持っているもので呼んでいるんだ?所で鯖味噌のお盆を持っている人って‥‥‥あっ。
『本日のBセット:ご飯、みそ汁、鯖味噌、お新香』
「‥‥‥オレ、ですか?」
自分を指さしながら恐る恐る聞いてみると、その女子生徒は自分の前の席に座る様に手で促してくる。勘違いかと思ったがそうではないらしいので、困惑しながらも促されるままに対面に座る。何だか周囲がざわついているような凄く見られているような気がして、とてもじゃないが落ち着かないオレに対して、目の前の生徒は淡々と箸を口に運んでいる。これは今日のCセット、オムレツ定食か。今度はこういうのもアリだな…‥‥。
「‥‥‥‥冷めるわよ?貴方が猫舌じゃないのなら、早く食べたら?」
ハッとしてオムレツ定食から視線を上げると、髪と同じ深い蒼色の眼で呆れたように見られていた。確かに、昼休みは有限だしさっさと食べてしまおう。気不味いし。
「そう、ですね。‥‥いただきます。」
ふむ、美味しい‥‥‥と思う。うん、きっとこの鯖味噌は美味しい鯖味噌のはずだ。知らない女子生徒の妙なオーラやこの居心地の良くない空間でさえなければ、きっと美味しいのだ。
まともに味わう事も言葉や視線を躱す事も無いまま、お互いが淡々と箸と口を動かし続ける、緊張の余り周囲の音すら聞こえない静かすぎる時間が過ぎていく。昨日はあんなに楽しかったのに、どうして…‥‥。初回購入限定特典的なやつだったのか?これが現実という事なのか?直前までオムレツ定食も良かったなーってなってたのにそれどころじゃないよ…‥‥。
「‥‥‥あ。」
カチャ、と箸が何もない皿をつつく音が
「…‥…貴方、名前は?」
「っ!?い、1年の十六夜昴です。相席ありがとうございます。」
「2年の
う、うーん…‥よろしくお願いしますとか言える雰囲気じゃない‥‥。食べ終わってから名前を聞いてきたのは良い人だからだと信じたいが、育ちの良さ故かもしれない。名前が如何にもって感じだし。
「貴方、随分綺麗に魚を食べるのね。」
「え?…そうですか?」
「ここの鯖味噌、というか魚料理ね。魚に骨があるのは当たり前だけど、ここは骨を取っていない事が多いから食べる人が少ないのよ。綺麗に食べる人もね。貴方みたいな人は久しぶりに見たわ。」
「ありがとうございます。そう言ってもらえると、練習した甲斐があるというか…‥。」
「練習?」
「あっ、えーっとですね。…‥中々の怪我をしてしまってリハビリと言うか、そういうのをしてたんですよ。未だに上手くできてるか不安で、初対面の人にそう言ってもらえるとホッとします。」
やばい口を滑らせてしまった。普通に魚を上手く食べる練習で良かったじゃないかオレ‥‥!いやでも、怪我とリハビリ自体は全くの嘘じゃない。詳細を省いてるだけだから、うん。大丈夫大丈夫。
「‥‥‥そう。大変だったでしょう?」
「そうですね‥‥‥。思った以上に慣れないというか…‥とにかくもどかしかった、ですかね。」
よし、変に怪しまれたりはしてなさそうだ。というか、思ったより反応が冷たくない。何だかんだ良い先輩なのかもしれない。
「私、人付き合いは少ない方だけど、貴方は見たことも聞いたことも無いのよ。もしかして外部編入生?」
「ええ。この街にも来たばかりで…。」
「そう。しばらくは大変そうね、学校も私生活も。」
「一応、家の周りはそれなりに分かって来たんですけど、校内は流石にまだですね。何処に何があるのやら…‥‥。」
「確か、1年生の授業開始は今日からでしょう?仕方ないとは思うけど、今月中に覚えるのを強く勧めるわ。初等部はともかく、高等部と中等部の校舎は繋がってるし、共有している教室もあるの。」
「そうなんですか…‥。所で中等部の食堂購買部って高等部と売ってる物が違ったりするんですか?」
「購買部はほぼ同じで、食堂は…‥どうだったかしら?行ってみないと分からないわね。」
「あー‥‥日替わり定食の違いを確認するにもどっちも行くか誰かに確認してもらわないとか…‥。まあ、機会があればですかね。」
「そうした方がいいわ。」
個人的にこの四条院先輩はかなり話しやすい。表情や声色は暖かみがあるとは言い難いが、丁寧な所作とここまでの会話からして、線引きと対応さえしっかりすれば相応の対応をしてくれる人なのだろう。お互い、相手にグイグイ距離を詰めていくようなタイプでもないし、距離感を掴みやすいのも一因だろう。今回は先輩の気まぐれでこういう機会を得れたが、印象はかなり良いのでこれからも多少の交流を持ちたいものだ。勿論、下心は無い。連絡先を聞く度胸も、無い‥‥‥。故に、長居するのは少々気が引ける。もういい時間だ。
「…‥‥オレ、そろそろ行きますね。相席ありがとうございました。」
「こちらこそ。思ったよりいい時間だったわ。」
どうやら先輩からの印象も悪くはないようだ。安心安心。
「じゃあ、失礼します。また機会があればご一緒してください。」
「ええ。またね、えーっと…‥十六夜くん?」
「合ってますよ、四条院先輩。」
先輩に会釈してから盆をもって席を後にする。鯖味噌を味わえなかった以外は良い時間だったし、良い出会いだった。鯖味噌を次こそ味わいたいが、先輩が食べていたオムレツ定食も気になる。学食、思った以上に楽しいな‥‥普通の外食よりは格段に安いし下手な店より遥かに美味いからお得感すらある。弁当作る気なくなってくるなコレ‥‥‥。
腹も心も満たされ気力は十分。このまま午後も乗り切れそうだと確信しながら、オレは食器を返却して食堂を出た。