その夜、サイトは宮殿のベランダから、重なり一つになった『スヴェル』の月を見上げて、思考に耽っていた。
「何たそがれてんのよ?」
後ろからの声に振り向くと、そこにルイズが立っていた。どうやらサイトが、アンリッタ失踪のことを気にして、落ち込んでいるのではないかと心配してくれたらしい。
「別に落ち込んでるわけじゃねぇよ。」
サイトは答える。サイトの何気ないその言葉に、ルイズは急に不機嫌になった。
「なによ。そのまま不貞腐れてるつもり? あんたは陛下の夫でしょ。ちゃんとしなさいよ!」
「わかってるよ。でも・・・・・・」
なぜだか分からないが、ルイズはサイトのその態度に酷く苛立った。
「あんた陛下を一生守るって誓ったんでしょ?それなら、陛下が帰って来る場所くらい守りなさい!」
ルイズの怒った様な言い方に、サイトは不思議そうな顔で、うん、とだけ答えた。
「陛下の捜索は私たちがやるわ。あんたは、この国の事だけを考えなさい!」
何かの気持ちを込めてルイズは言ったが、サイトは、一体なんだ、とでも言いたそうだ。
アンリエッタが失踪して5年。サイトは彼女を探す反面、彼女の代理をつとめた。政治や王族の礼儀作法は苦手だったけど、ルイズやタバサが教えてくれた。勿論、サイトも一生懸命頑張った。その甲斐あって、サイトは正式にトレスティンの王になることができた。それでもサイトの心は孤独だった。アンリエッタに会いたい。まだ居場所は分からないけど、それでもいつか・・・
「お疲れ様です、サイト様。」
シエスタはテーブルに座ると、ワインの栓を抜き、二つの杯に注いだ。サイトもテーブルにつき、ワインが杯を満たすと、ワインを一気に飲み干す。昔は酒など食事の時に軽く嗜む程度だったのだが、王になってから量が増えた。国運を左右する決断を毎日のように求められる、ということはかなりの心労となった。決議はほとんど決まった状態で彼の所へ持ち込まれるのだが、それでもその承認を下すのは自分である。その重圧を彼はまだ扱いかねており、もはや飲まずには眠れなくなってしまっていた。
「サイトさん、もう辞めませんか?」
シエスタがこの言葉を話すのは一体何度目なのだろう。
「サイトさん、アンリエッタ様が失踪してもう5年ですよ。」
「何が言いたい?」
「もう、アンリッタ様は生きていないかもしれません。」
「生きてないってなんだ! アンリエッタはまだ・・・・・」
「そんな可能性を信じているのはサイトさんだけですよっ!」
「ふざけんな!」
そう言ってサイトは思い切りシエスタの頬を張った。
「あっ、ごめん・・・・・」
シエスタは悲しそうに顔を背け、サイトは申し訳なさそうにシエスタを見つめた。