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雨下、アパートまでの短い道中、レインスーツのフードを脱いだ身元不明の、長い黒髪の少女は、つかさの黒い傘の中で、しずくと名乗った。十四歳と彼女は教え、いたずらするほど陽気だったのに、いっしょに帰る段になると、ピタリと口を噤み、つかさにしてみれば、その身空に興味はあったものの、しずくの背景が、何か怪しいもやに覆われているようで、あまり詮索しないのが無難と思い、あえて聞こうとはしなかった。
それが、つかさのしずくとの出会いだった。
つかさが一人で帰って過ごすはずだった無人のアパートの部屋に、想定されなかった誰かがいるというのは、彼女にとって妙だった。
狭い玄関に先にしずくを入れると、つかさは濡れた傘を閉じて通路の壁に立てかけ、彼女に続いて入った。そしてその場でレインスーツを脱ぐように促すと、しずくは「うん」と頷いてその場で脱いだ。
すっかり濡れた水色のレインスーツの上下は、玄関の扉の上の枠のちょっとだけせり出した部分にハンガーでかけられ、ポトポト水滴を落とした。レインスーツの下にしずくが着ているのは、同じ水色のジャージのセットだった。
「何してるの?」、とつかさが、靴を脱がずに玄関に向かって膝を抱いて座るしずくに言った。「早く上がんなよ」
するとしずくは立ち上がり、深々と頭を下げて、「お邪魔します」、とかしこまった調子で言い、つかさは、その調子が彼女に似つかわしくなくて、しっくりこないのだった。だが、頭を上げたしずくの目付きは真っ直ぐで、おふざけや茶化しの色は見えなかった。
つかさはしずくに唐突にお金をせびられたが、その実彼女がただ空腹であるだけで、とりあえず食事の用意をすることにした。しずくはダイニングの一隅のソファに座り、基本的には物思うように、あるいは気まずいように、俯いているのだが、ふと思い出したように伏せている顔を上げ、キッチンのつかさの後ろ姿に興味津々に目をやるのだった。
三時間ほど残業したつかさには相応の疲れがあり、自分の善意、ないしはお人好しさでトラブルをわざわざ持ち帰ってきているという風に自覚していて、自責の念が湧き、バカバカしいと虚仮にする自嘲の言葉が内面に響いたが、体は不思議と、この謎の少女のために動くには軽快だった。
おかずとしては、やや傷んでいるが、余り物のチキンがあった。ご飯は二人分として二合ほど炊き、サラダは惣菜のものにプチトマトを添えてドレッシングをかければよかった。十四歳という育ちざかりの少女には、まだ足りないかも知れず、けれど過剰に手厚くもてなす必要性はなく、つかさは茹でたパスタにパウチのソースをかけたものを加えることにした。
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