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土曜日の午前十時頃、インターホンがピンポンと鳴り、ベッドの上でスマホを閲覧していた、Tシャツと短パンという軽装のつかさは、特に急がず、スルリとベッドより下りると、玄関まで向かい、ドアの鍵を外した。
扉が開き、Tシャツとジーンズという同じく軽装の二宮が入って来、慣れた感じで、自分の部屋のようにズカズカ入って来、つかさは別にいらっしゃいなどと言うでもなく、洋室に戻り、ベッドの手前まで来ると、くるりと転回し、背中よりベッドに倒れ込んだ。
この頃晴れの日がポツポツ出だしており、梅雨明けの到来が近そうだった。
二宮がつかさの隣に座り、彼は、首を曲げて何となく彼女を見下ろし、つかさは、横になった状態でダルそうにぼんやりした面持ちで返し、そして二人の目線はいささかの気まずさによってたがえた。
「行き先は決まった?」、と二宮が尋ねる。
「久米島がいいかなぁって、考えてるんだけど」、とつかさ。
「島?」、と、二宮がきょとんとしてつかさを再び見下ろす。
「そう。沖縄県にある島」
「沖縄!? めっちゃ遠いじゃん」
――二人が話しているのは、今夏の旅行のことだった。つかさがもともと旅好きで、コツコツ貯金しては、旅行につぎ込むのだった。とりわけ彼女は海が好きで、その実、海水浴がしたいわけではなかった。真冬の極寒という条件でも平然と行くので、つかさはアルバイトなどでお金を稼いで旅行に行けるようになった大学生以後は、変わり者扱いされたし、彼女の勤める会社でも、事情は変わらなかった。つかさが海に旅行したがる背景には、海の幸が好物であることがやはりあったけど、それに加えて、海辺から水平線に向かっての遠望の愉しみが欠かせなかった。生前の母に幼い頃海に連れていって貰い、遠路の先の砂浜で初めて目にした海原の景色は、彼女に深い印象を刻み込んだ。太陽が燦然と照る炎天の下、紺碧の大海原が果てしなく広がり、波と陽光と陰翳が、水面に無数のあやを成している……ただそれだけの景色だったが、つかさは目を奪われて夢中になり、波のように寄せる感慨に、あらゆる負の情念がさらわれていくようで、快かった。ずっと滓のように留まっていた、解放されるべきものが解放されて、内面がすっきりするその解放感が、癖になったのかも知れない、そういう風に、時々つかさは考えるのだった。
驚いた二宮が、費用が嵩む、たくさんバイトのシフトに入らないといけない、などと一人でボヤいて狼狽していた。たいそう不安そうにしているが、つかさの旅行には必ず二宮が随行することに決まっているので、たとえ金欠であっても、彼は奮発するに違いなかった。
賞与がきちんと出る会社の従業員になれば、一時の大きい出費にあまり悩まないで済むのだから、早くその道を選んで行動すればいいのに、とつかさは感じるのだが、今度の沖縄旅行が彼の改心のきっかけになるというのは、見込みのないことのようだった。
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