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しずくのレインスーツはつかさの促しによって脱がれ、以前と同じように、玄関の窓枠の少し張り出したところに、ハンガーでかけられた。
冷蔵庫に、つかさがたまたま多めに作ってしまったソース焼きそばの残りがあり、彼女としずくは、ダイニングのテーブルで、二つの皿に均等に分けて、食べることにした。つかさは部屋着に着替え、しずくは、また水色のジャージ姿だった。
さほど美味しくない焼きそばでも、ズルズルと旺盛に食べるしずくの様子は、空腹を思わせ、また先日のように長時間、飲まず食わずで過ごしたのだろうかと、つかさには想像された。
「今日こそ、あなたのことについて、聞いてみたいんだけど」
卓上に両肘を突き、拳を手で覆うように持つつかさが、しかつめらしい面持ちで切り出す。
しずくは、目を伏せて少し考え込むように沈黙すると、「帰りたくなかったの」、とポツリと答えた。
「帰りたくなかった?」
「うん」、としずくは頷く。「わたし、ちょっと前にクソババアに施設に預けられたんだけど、施設にいる周りの子と、合い口が悪くてさ」
つかさは眉間にしわを寄せて渋面になった。施設とクソババアの二語が詳細不明だった。施設というのは、以前にもしずくが口にしたもので、クソババアは、侮蔑的でいささか耳障りだった。
彼女はチラッと目だけでラック上のデジタルの置時計を見た。時間は夜の十時頃だった。つかさの仕事はその日までで、翌日と翌々日は休みであり、仮にしずくに込み入った事情があって、話が長引くとしても、大して問題はなかった。問題があるのは、むしろしずくの方で、彼女が帰るべきところに帰らないことによって困る人がきっといて、彼女を待っているか、探しているかするだろうと想像すると、つかさはハラハラしてくるようだった。
「その施設の人には、今夜のことについて連絡してあるの?」
「してない」、としずくはあっさり否定し、つかさは、局面のあまりよくないことを悟って呆然とした。
「心配しなくていいよ。わたしなんて、あそこにいなくていい人間だし」
しずくの口調はあっけらかんとしている。
「だから、またここに来たの?」
つかさが問うと、しずくは、「それは」、とだけ言って答えに窮し、どこか気後れするように目を伏せた。
その様をしばらく見つめ、つかさは「別にいいけど」、とフォローしたが、「自分を守ってくれる大人は、あんまりぞんざいにするもんじゃないよ」、と続けた。
しずくはしゅんとなり、「ごめんなさい」、と反省するように謝った。
つかさは説教したつもりは別になかったので、戸惑ってしまった。
何はともあれ、しずくが、彼女の勝手でいるべきところにいないのは、決してよくないことだけど、この悪天の下、遅い夜に公園のブランコにずっといるのと比べれば、この部屋にいる方が遥かにマシなのだろうと、つかさには確信されるのだった。
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