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「誕生日、おめでとう」
二宮が陽気に祝福の辞を口にし、七月某日というかなり暑い時期に二十四歳になったつかさは、ところがさほどめでたくないといった冷めた気持ちで、ホールケーキに立てられたロウソクの火に対し、息を吹きかけることで消していった。二十四歳という年齢は、すでに人生の下り坂にあるように、つかさには思われた。
1DKの間取りの比較的新しいアパートのダイニングのテーブルに、いちごのホールケーキ、ジュース、焼き鳥等のご馳走が用意されていた。全てつかさの恋人である二宮が好意で用意したものだった。
四角いテーブルの一方につかさが椅子に座っており、二宮は彼女に対座していた。ロウソクの火が消された後、どこか物思う感じのつかさの面持ちに、二宮には不信感じみたものを抱いたようだった。
「どうした? 具合でも悪いのか?」
肩にかかる寸前まで長い髪が清潔感を損ねている二宮が、気遣うように尋ねる。彼はTシャツにジーンズという恰好だった。
「別に、そういうわけじゃないけど」、と、ベージュとネイビーのTシャツとチェックの七分丈のパンツという恰好のつかさは言い、傍らにあるペティナイフを取り、ホールケーキにスッと入れていく。
「わたし、二十四歳になったんだってさ」
「何だよ。他人事みたいに」
つかさは自分の分の一切れだけ丸皿にのせると、フォークでサクッと削って口に運び、「おいし」、と無感情っぽく言った。
――実際のところ、つかさは二宮が不満だった。もし母が生きていれば、彼との交際にはあまりいい顔をしなかったに違いない。大学生の頃の二宮は、母の目には陽気でさわやかで、好青年として映っていたものだ。
喜んでというよりはむしろ淡々とケーキを食べるつかさにおいては、しかし、二宮に関する芳しくない事情より、今更になって遅れて実感の出てきた母の死の印象の方が、優先された。
二十代前半にして、少なくない遺産が、相続という自然の成り行きで社会人になりたての、一人娘のつかさのもとに流入して来、彼女ははじめ、彼女にとっては莫大に思えるその遺産の処理に戸惑ったが、とにかく散在だけはしまいと自身に禁じた。二宮は一度だけ旅行に使おうとほくほくして提案したが、浪費にしかならない、ただの二宮のわがままだったので、つかさはきっぱり拒んだ。
未だに亡くなった母の遺産は、手つかずで残っている。まるで母の意志がなお残存しているといった風に、娘のつかさは一人親の遺産という聖域を極力侵さないつもりでいる。もちろん、必要性が生じれば、そこから拠出することになるのだろうけど。
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