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つかさはしずくにスマホを渡し、彼女が過ごす施設へ電話をかけるよう、促した。先日の夜と状況はほとんど同じだった。あの夜も、しずくは脱走か何かしてあの公園に一人で悄然といたのだろうと、そのようにつかさには推測された。
……。
ダイニングの席にいるしずくは、手渡されたスマホをじっと黙然と見下ろすばかりで、気が進まないのか、なかなか電話をかけようとしなかった。
つかさは、しずくの所作を見守ると同時に監視していたが、その内、あまりに彼女がグズグズしているので、じれったく感じてきた。
「待たせると悪いから、早く電話しなきゃ」
ダイニングに満ちる空気がズンと重々しく、しずくは、これから話す電話の相手に怒られるか叱責されると恐れて尻込みしているようで、埒が明かないと思ったつかさは、「貸して」と言うと、いささか強引にグイとしずくの手よりスマホをぶん取り、残っている発信履歴を調べ、身に覚えのない番号を探した。ここ一、二週間に発信した未登録の番号は、しずくが先般かけた先のもの以外ありえなかった。念のためにインターネットの検索ボックスにコピペしてサッと調べてみると、『菊花学園』という呼称の社会福祉法人の施設が表示され、そこが、彼女の言う施設のようだった。
つかさは発信のアイコンをタップすると、スマホを耳にあてがった。
シュンと顔を伏せるしずくを目前に、少しドキドキしてつかさは応答を待ち、三度ほど呼び出し音が続いた後、声がした。
「はい。菊花学園です」
女性の声だった。
「もしもし」、とつかさ。「夜分遅くに恐れ入ります。わたくし――」
商社での勤務のお陰で、電話対応はつかさにとって易しいものだったが、この電話は彼女の普段している商談ではないため、マニュアル通りのやり方でうまく行くとは限らなかった。
夜十時過ぎなんかに一体何の用だと訝る感じの調子が、応答した職員と思しき女性の声に聞こえたが、つかさが、家に一人の少女が来ていると言うと、翻然とその調子を転じ、「しずくちゃんですか」、と問い詰めるように上気して尋ねた。
しずくは、つかさが電話している間、顔を伏せていたのが、卓上に突っ伏して、居心地がよくなさそうだった。施設に帰らないことに関して、彼女なりに引け目を感じていたのだろうかと、つかさには想像された。
「――えぇ。夜遅いですから、今夜はまた、先日みたいに泊まることになると思います。よろしいですか?」
つかさが確認した。
女性の職員は、「ご迷惑でなければ、お願いしたいです」、と、謝意を込めて答えた。「しずくちゃん、ここがあんまり気に入らないみたいで、よく家出するんです」
彼女は悩ましいという風に言い、つかさは、共鳴して渋面になった。
この場でしずくのあれこれについて、詳しく聞いてみたい気がしたが、目の前に突っ伏す彼女の様子を見ると、遠慮された。それに、無用の長電話は、つかさはまだしも、仕事中の相手にとっては妨害であるし、そもそも、中学生であれ、プライバシーをいたずらに侵すのは、趣味のいい行いではなかった。
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