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七月下旬、平年より遅い梅雨明けの知らせが、西方より順次、日本列島に届きだしてしばらくした頃、菊花学園では、ある行事が行われることになっていた。
旅行だった。
行くのは中高生たちで、小学生はというと、日程がズレており、中高生たちより少し前に旅行を終えていた。小学生たちは、千葉県のテーマパークでゴーカートやローラースケートなどして遊び、夜には宿泊施設でバーベキューしたそうだった。
中高生たちはというと、同じく千葉県の某所まで行き、山間のコテージで一泊二日する予定だった。
さて十四歳のしずくは勿論、旅行のメンバーに組み込まれているのだが、旅行にあまり気乗りしなかった。特に彼女にアウトドアの趣味がないからという事情があったけど、彼女はまず、この施設においては協調性の欠如した児童として、周りの子供たちと職員たちに認知されていたのである。彼女はしばしば度の過ぎた放恣さで、たとえば門限を守らなかったり、当番の掃除をサボったりすることで、集団行動の足並みを乱した。
ルールというものは、違反に対する処罰と共に存在するものだが、菊花学園では、社会福祉法人である性質上、体罰などの人道に逸脱したことは行われず、あくまで対話での反省と改心が辛抱強く試みられた。
菊花学園の宿舎の一室。広い窓に面する勉強机のわきに、本棚とタンスがその下に納まっている寝台面の高いシステムベッドがある。ちょうど中央に境目があり、内装は対称になっていて、そこは、二人が共同で生活する相部屋なのだった。
「しーちゃん」
夜。ベッドで仰向きになり、両手で宙に持ち上げてスマホをイジっているしずくに、勉強机に付いて自習している少女が、椅子を少し転回させて呼びかけた。彼女は『ゆうき』という名前で、しずくと同じ十四歳だった。眼鏡をかけ、薄褐色のストレートヘアーが肩まで伸びていて、背の低い、大人しい風貌の少女だった。
“しーちゃん”があだ名のしずくは返事しなかったが、無視したのではなく、怪訝がる様子だった。
「今度、学校の三者面談があるけどさ」
彼女等は同じ学校の生徒だった。
「あぁ、そうだね」
何となく投げ槍に返事すると、しずくは索然としたように目線をスマホへと戻した。
「ゆうきはいいよね。成績優秀だし。面談で先生たちと話が弾むと思うよ。わたしと違ってさ」
ゆうきは憂鬱そうに眉を下げ、「まだ挽回できるよ」、と励ますように言った。「わたし、しーちゃんのことが心配」
「何で? わたしのことなんて、どうだっていいじゃん」
しずくは冷笑と共に返した。
「よくないよ。わたしだけじゃなくて、職員の人たちだって、しーちゃんのこと、不安がってるんだよ」
――やはり返事せず、同居人にいささか失望されたしずくの持つスマホの画面は、ゲームアプリのものであり、彼女は、精力的に勉強するゆうきとは反対に、いつもゲームしており、施設での彼女の生活は、佚楽に堕している嫌いがあった。
しずくにはその自覚があり、良心の呵責が全くないではなかった。だから、平然としているようだけど、ゆうきの気遣いの言葉は、しずくの耳には痛いものなのだった。
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