Fragile Stream   作:Yuki_Mar12

25 / 26
(4)

***

 

 

 

 しずくの面談は、彼女の素行と進路だけでなく、親との関係性にまで及び、しかし、避けて通るわけにはいかない緊要の話題だった。しずくは或る事情で親元から離れ、施設に預けられているのであるが、その状態は彼女にとってかりそめのものであり、出来れば実家に帰り、親といっしょに再び暮らせるようになるのが望ましかった。

 

 三者面談の場は、しずくにとって居心地が悪かった。そこで口にされるのはどれもこれも、彼女のいつも遠ざけて意識しないようにしている物事であり、耳ざわりがよくなかった。

 

「しずくちゃん」、と、机上に手を組んでいる教師のありこが、憂えるように眉を下げて呼びかけた。

 

「今回の面談。お母さんが来たがってたのに、しずくちゃんが断っちゃったんだってね」

 

「断ったよ」、としずくはあっさり答える。「だってあの人が来たところで、わたしについて何も知らないし、それじゃ、面談する意味なんてないでしょう」

 

 二人のやり取りの間、かやこは気重そうに沈黙していた。

 

「あの人が、育てる気がないのにどうして面談に来たがったのか、そのわけはよく知らないけど、干渉しないで欲しい。迷惑だから」

 

 しずくは冷笑的に述べたが、どこか悲しげで、虚勢を張っている感じがあった。

 

「先生」、と、沈黙していたかやこがふと口にし、話に割り込んできた。

 

「ここでは、親子に関する話題は抑えておきましょう。それは、施設(うち)の取り扱うべき事柄ですから」

 

 牽制するように彼女が言い、場の空気は、決して険悪ではなかったが、どこか重苦しかった。

 

 

 

 面談は終わりとなり、学校でのしずくの行状については、改善を期すことで結着し、しずくはとりあえず、しぶしぶ了承した。

 

 

 

 外では、夕焼け空が明るく、空気が夏らしく熱っぽかった。

 

 

 

 しずくは徒歩で学校に来ていたが、かやこは自分の所有する125CCのスクーターで来ていた。

 

 かやこは歩いて帰るつもりだったが、かやこに誘われ、シートの後ろに同乗することになった。かやこは元々、しずくといっしょにバイクで施設まで帰るつもりで来ていたので、オープンフェイスのヘルメットを一つ余計に持ってきたのだった。

 

 バイクが学校のそばの坂道を時速40キロほどで上がっていく時、街路樹とフェンスの向こうに、校庭の模様が見えた。校庭では、部活動のスポーツが盛んに行われており、しずくはぼんやりと、かやこは懐かしむように、横目で見ていた。

 

「しずくちゃんも何かやればいいのに。体を動かすと楽しいよ」

 

 かやこが勧奨するように言った。

 

 しずくはだが、「面倒くさい」、とぶっきらぼうに返すのだった。

 

 

 

 かやこは思わず苦笑し、困ったものだと呆れたが、しずくにその意志がないのなら仕方がないと、納得せざるを得なかった。

 

 走るバイクの切る風は、七月の暑気の中では、したたかに熱っぽかったが、どこか涼感があり、しずくは、面談の記憶がまだノイジーに残っていたが、風の含む一抹の清涼感にうっとりするのだった。

 

 

 

***

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。