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バイクでしずくは、タンデムステップに足を乗せ、かやこのお腹に手を回し、眠たそうにその横顔を背中に預けていた。暑い最中に密着するのは、暑苦しくて得策ではないが、風がいい清涼剤になっていた。
彼女はバイクに揺られつつ、顧みていた。
学校での三者面談に、別居している実家の母が参加したいと望んだことは、しずくにとって、本来喜ぶべきだったのだろうが、娘である彼女自身が頑として拒み、二人の間を取り持つ施設は、説得を試みた上で、しずくの意を優先することにした。
母が、(やむを得ない事由によって)施設に預けている娘の現況について知りたいと思うのは、自然のことであり、三者面談という学校の行事に参加する権利がすべからくあったが、来ないで欲しいと訴える娘の主張によって、軋轢が生じ、結局、母が断念することで解決したのだった。
しずくには、母は、娘の養育を放棄した、母に値しない存在として認識されており、従って、今回の三者面談への参加の希望は、娘にとって許されない干渉であり、厚かましい越権行為だった。
――その内、バイクが施設に帰り着き、管理棟の脇の駐車場に隣接する駐輪スペースに止められると、しずくとかやこはバイクより降り、ヘルメットを脱いだ。
敷地には管理棟、幼保連携型認定こども園、宿舎があった。全てが瓦屋根の和風建築になっており、それぞれ低い木の柵で区切られて、中庭を囲うようにして建っていた。
しずくにとって菊花学園の風景は、改めて見てみると、敷石の道が通り、丁寧に剪定された庭木や草花が植わっていて、確かに不自由のない住みよいところだったけど、やはり決して故郷とは言えない”よそ”だった。
かやこは管理棟に行き、しずくは宿舎に向かった。途中、庭で彼女は、「おかえり」、と声掛けされた。
Tシャツに短パンという軽装のゆうきが、しゃがんでプランターに咲く大輪の百日草に、ジョウロで水やりしていた。
「三者面談だったんでしょう。どうだった?」
盛夏の日差しの下、水滴の付着した百日草が、陽気に笑んでいた。
立ち止まったしずくは、気後れしたように俯くと、特に返事せず、また歩きだし、ゆうきは不思議そうに、彼女の様子にきょとんとしていた。
庭では数人の小学生が、シャボン玉を飛ばして無邪気に遊んでおり、高校生の男子が一人、ベンチに座って缶ジュース片手にぼんやりたそがれていた。
しずくは、自分の割り当てられた、ゆうきと一緒の部屋のある宿舎まで一直線に行くと、開き戸の玄関より入り、リビングにいる子供たちが一斉に振り向いたが、しずくと知ると、プイとまるで見なかったように元に向き直り、しずくはしかし、気にせず隅の階段より二階に上り、居室に帰るのだった。
ゆうきの付けたエアコンがよく効いていて、室内は冷涼だった。
しずくは寝台面の高いシステムベッドにはしごで上り、布団の上にバタンと大の字になった。そして目を瞑り、ようやく人心地が付けるといった感じだった。
三者面談の時ずっと俯いて見ていた、せわしなく動く自分の手元が、その後の帰り道、かやこと一緒に乗ったバイクから見えていた学校のグラウンドの部活動の模様が、「おかえり」と言ってくれたゆうきの顔が、めくるめくしずくの目蓋におぼろげに映じ、彼女は、物憂い思いに襲われた。
しずくはゆっくり目を開くと、スゥ、と鼻でため息した。<どうすればいいのだろう?>という呟きが、彼女の中で繰り返し、響いていた。
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