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日本各地で猛暑が伝えられ、アスファルトの道路に陽炎が立ち、入道雲が青空に夏の城塞を堂々と構えるようになった頃、予定されていた、施設の中高生のためのレクリエーションの日がやってきた。一泊二日の小旅行だった。
施設の門のところに停まっている送迎のマイクロバスに、十数人の子供たちと数人の職員たちが乗り込み、人数確認の後、バスは出発した。
窓際の席に座るしずくは、窓の縁に頬杖を突き、水田が広がって山々の連なるのんびりした風景を、見るともなしに見ていた。
「晴れてよかったね」、と隣に座っているゆうきが言った。
「そうだね」、としずく。「クソ暑いけど」
「行き先はコテージだって先生が言ってたし、向こうは涼しいんじゃない?」
しずくは水色のジャージ、ゆうきはTシャツに淡いブルーのジーンズという恰好だった。
しずくは、旅行に関してさほど関心がなく、ただ連れ出されて仕方なく来たといった具合だった。旅行の宿泊先がコテージだろうが、ホテルだろうが、旅館だろうが、彼女にはどうだってよかった。
しずくは、空に浮かぶ、欲張って作った綿菓子のように大きい入道雲をじっと見つめていた。成長した入道雲の、天涯にまで到るほどの雄大さと、その背景の青空の広大さは、しずくにしみじみした感懐を抱かせ、郷愁を感じさせた。別居中の母の面影が、大きい入道雲の面にぼんやり映り込むのだが、望ましく慕わしい、愛おしい見え方と、憎悪と不信感で歪になった醜い見え方とが互いに錯綜し、愛着と戸惑いの葛藤で、心なしか頭が痛んでくるようだった。
「そういえば」、とゆうきが何か思い出したように言った。「しーちゃんって、お姉さんでもいるの?」
話しかけられたことで、しずくが幻視していた母の面影は、パッと消えた。
「お姉さん? いないけど」、と彼女は訝るように返した。
「けど、この前部屋に帰ってこなかった日、しーちゃん、よそに泊まらせて貰ってたんだよね。あの時、みんな、心配したり気になったりして、かやこさんに聞いたんだよ。しーちゃん、帰ってきてしばらくは、ぜんぜん口きいてくれないしさ」
「あぁ、あの日は……」
しずくはうまく答えられず、言い淀んだが、「まぁ、知り合いって感じの人のところに行ってた」、と、どこかすっきりしない言い方で続けた。
マイクロバスの中、他の子供たちの多くがワイワイ騒いでいる一方で、しずくとゆうきは、比較的落ち着いて過ごしていた。
その内マイクロバスが施設から十キロほど離れ、片側一車線の快走路まで来た。周りは低い山と林で、道路沿いに、気まぐれに古い住居がポツポツ建っていた。
「しーちゃんってば、不良なんだから」
ゆうきが呆れたように言った。
するとしずくは、クスリと苦笑し、「優等生のゆうきに言われちゃ、言い返せないや」、と返すのだった。
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