***
結婚というのは、男にとっても、また女にとっても、大なり小なり、人生にとってのひとつのテーマとして、思考することを余儀なくされるものである。人は一人で生きていくより、二人で生きていく方が、リスクが分散される点で安心だし、その人が子孫を残したいという意志があれば、家族を構成するために、それに同意してくれるパートナーを見つけて一緒になるべきである。結婚に対する人々の価値観は、グローバリゼーションやIT技術の発展に伴い、往時と比べれば多様になってきている。結婚はしなければいけない義務では最早決してない。以前は親の指示で無理強いされていた嫌いがあるが、今日では結婚する・しないの判断は個人に委ねられている。しかし、無理強いされず、自身が判断するようになったということは、すなわち、後で離婚に悩んだり、孤独死を不安がったりせずに済むように、その前提となる知識・教養・価値観を個人が身に付けている必要性があるということになる。
つかさは二十四歳となる以前より、結婚についてはちょくちょく考えていた。恋愛は、二宮を除くと経験がなかった。小学生・中学生・高校生という学生時代を通じ、彼女は異性よりは同性との付き合いの方が多く、大学生になってはじめて二宮という異性と知り合い、彼と食事に行ったり、彼の部屋に泊まったり、あるいは自分の部屋に彼を泊めたりするようになったのである。
母の死後、二年遅れてやってきた喪失の悲嘆や郷愁の念は、本来そうあるべきだった形で、二十四歳になった娘を訪れ、彼女はにわかに親のいないことの心細さが身に沁みて来、同時に、彼の抱える問題のためにいくぶんか疎ましく感じてきていたはずの二宮が、頼るべき、また愛すべき存在のように思えてきた。彼を遠ざけるとするなら、つかさのそばには誰もいないことになるのだった。
彼はすっきりした面立ちとふんわりした長めの髪で、女好きのするルックスだったし、屈託がなくおっとりしていて、つかさには悪くなかったし、生前の母の印象もよかった。大学生になるまで男と付き合うという経験が皆無だったことは、つかさにとって些少のコンプレックスであり、彼女は、大学での二宮との接触を重ねていく内、学外でも、休日でも、彼と接触するようになり、恋愛の契機を得て、今に至るまでの関係が進展した。
親を失った今、つかさにおける人恋しいとか、寂しいとか、心細いといった感情の防壁となり得るのは、二宮しかおらず、彼とは恋人同士として仲良くやってきているけど、つかさには、心のどこかで、彼に対して信用し切れないところがあるのだった。
***