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電車まで使ってのいささか遠い散歩の帰り、しずくは、かやこの誘いで『M』の頭文字のファストフード店に寄っていくことにした。その店は、商店街に繋がる橋の、商店街とは反対側にあり、集合住宅の一階の店舗であり、すぐ近くに踏切と駅があった。
二人は店内で食べることにし、対面の二人用の席に座り、それぞれテーブルの上に、ハンバーガーとポテトと炭酸飲料の載ったトレーを置いた。彼女等は、食べ終えたらすぐそばの駅で電車に乗り、施設の最寄り駅まで移動するつもりだった。
箱の容器のポテトを一本一本つまんで食べているかやこが、その手を止め、どこか気遣わしげに言った。
「ねぇ、しずくちゃん」
しずくはハンバーガーを両手で持って食べているところで、返事はしなかったが、目の動きで反応した。
「来年の春には、学校から進路希望が聞かれると思うからさ、今の内に、将来どうしたいか、何となく決めておいて欲しいんだ」
「あぁ、その話」
しずくは、どこか索然とした様子だった。
「最後の判断は、しずくちゃん本人がすることだから、わたしは強制出来ないけど、せめて高校までは出ておくのがいいよ。高校を卒業するのとしないのとでは、就職する時の選択肢がぜんぜん違うし、それに、施設の子が働きに出ると、自立したっていうことで、わたしたち施設の人間は、しずくちゃんの面倒を見てあげられなくなるし……」
近くの踏切の音のカンカンと鳴る音が店内まで聞こえ、その後駅まで線路を走ってくる電車のガタンゴトンという走行音が続いた。
成るほど、としずくは冷徹に悟った。学歴に関する話には、特に異論はなかった。中学卒業後のことに関しては、確かにしずくは勉強が好きでなく、同室者のゆうきのように机に行儀よく座って参考書や問題集とにらめっこするなど、まっぴらごめんだった。しかし、かといってでは働きに出たいかというと、働きたくもなかった。
彼女にとってはとにかく、精神的に発展途上のせいか、義務の響きのする物事すべてがしゃくに障るのであり、勉強も、仕事も、共々好ましくなかった。だが、そういったものは、いずれやってくるのであり、避け得ないのだと、彼女はうっすら分かる気がした。そしてその『いずれ』は、決して遠い未来のことではないのである。
「まだ猶予はあるから、ゆっくり考えていいよ。ゆうきちゃんとか、他の子と話したりしてね」
かやこの言に、しずくは「うん」、と生返事で返すだけだった。
しずくにおいて、先般出会った女性の面影が、フッと蘇ってきた。
つかさという名の女性で、あの公園の近くにあるアパートに、一人暮らししていた。公園のブランコで不憫に過ごしていたあの雨の夜、しずくはつかさに親切から話しかけられて、一泊することになり、後日同じことがまたあった。
つかさにだって、中学生の時代があったに違いない。果たして彼女は当時どうしたのだろう? 参考に、しずくは、"縁"のあった彼女に聞いてみたいと思った。だが、二度あった奇縁が、三度ある確証はなかった。そのために、また雨の日にあの公園でじっとしていようとする気など、しずくには露もなかったが、どうにかして彼女に再会できればいいとぼんやり欲するのだった。
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