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しずくにおいて、将来そのものが、あるいは将来に連続する今の暮らしの連なりが極めて大事であることは、理解しているつもりだった。だが、しずくはまだ十四歳の少女に過ぎず、遊びたいさかりであり、たしかに彼女は狭量で、独善的で、自分だけの世界にこもりがちな傾向があったけど、多くの同齢の子たちとさして変わるところはなく、彼女等が憧れることに同じように憧れたし、彼女等が純真に楽しんでいることを、自分だって純真に楽しみたいと思っていた。
中学校でしずくは部活動に入っておらず、かつ施設暮らしであり、すると彼女には、施設の企画するレクリエーションを除けば、することがなく、要するにヒマだった。しずくは明るく堅実な将来に向けて、地道に着実に努力することを早い内に学び、ゆうきのように、毎日一定の時間勉強するなどの習慣を身に付けることが望ましかったが、先述したように、彼女は努力を遊びに優先させるには、未熟だったし、自覚が足りなかったのである。
何かしようとすると、しずくはとにかく、お金があればいいのにと思うことが多くなった。施設の児童たちは、施設からお小遣いを与えられていたが、ごく少額に限られていた。例えばしずくのような中学生の場合、月に貰えるのは三千円で、出かけるにしろ、買い物するにしろ、その範囲でやりくりしなければいけなかった。
空いた時間、しずくはゲームで遊ぶことや漫画を読むことなどに飽きると、やることがなくなって途方に暮れた。彼女のゲーム機は、少ないお小遣いを貯めて買った中古のもので、すでに相当やり尽くしており、漫画だって新刊ではなく、何度も読み返している古いもので、薄味になっていた。
情報が得たいとしずくが思っても、施設の児童たちの、スマホなどの情報端末の個人の所有は規則で禁じられており、ネットサーフィンするには共用のタブレット、ないしはパソコンを使うしかないのだが、一日の使用時間の限度があったし、アクセス制限とプロテクトがかけられていて、満足に使うことは困難だった。
しずくは一度、女子中学生が大人に勧誘され、特殊詐欺に加担して逮捕されたと、宿舎のリビングにあるテレビのニュースで見たが、働くこと以外でお金を得る方法があると知って、どういったものかと興味を惹かれたものだった。
しずくのように、制限の多いこの施設という環境で、遊び足りない状態で怏々としている児童は少なくなく、彼女は、彼等と自分が同じ境遇だと思うと、何だかムカムカしてくるのだったが、勉強はほとんどかたくなにせず、夢想しがちだった。
仮にリスクの大きい特殊詐欺に手を染めてみるとしても、首尾よく運べば穏当に金銭が得られるのではないかと、彼女はぼんやり想像した。その時彼女において、危ないけどちょっとやってみればと勧める声がある一方で、危ないから絶対にやってはいけないとさとす声があった。情報があまりに少なかったので、彼女は実行しなかったけど。
ニュースでは逮捕された女子中学生は、SNSで共謀者の男性と知り合ったと報じられていた。SNSは、施設では制限があって利用できなかったが、しずくは、金銭を得る上で鍵となるのは男性、それも、お金持ちの男性だと思うようになった。彼に対して、詐欺の役を任されるにしろ、科を作るにしろ、そういった男性と知り合うことが、先決だった。
すると彼女において、かやこと散歩に行った公園の正面で声をかけてきた男の姿が、おぼろげに蘇ってくるのだった。無造作に伸びた髪に、ラフな軽装。
あの男の声には、しずくは聞き覚えがある気がした。そして彼女は後に、彼のその声がつかさの部屋で聞いた声ではなかったかと思い出し、何となく合点が行くようになったのである。
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