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苦手とするひびきに嘲弄され、しずくは、悲憤の感情の大波が押し寄せ、それは彼女の内面の堰をわずかに越えて溢れ出し、しずくは思わず目をしばたいて、涙が出てきてしまった。
彼女は強がって眉間にしわを寄せ、なるべくまばたきしないように粘ろうとするのだが、眼の機構が余計な水分を排出しようとする働きに逆らい切れず、否応なくまばたきし、回数が重なるごとに、明らかに隠し切れない量の涙が出て来、こぼれるのだった。
しずくは見られたくないという思いで顔を背け、一方でひびきは、目ざとくしずくの涙目を認めると、何だかしらけたようになり、索然として立ち去っていった。
すでにひと気の退いた宿舎の廊下で、しずくは、悔しさでまだ目頭が熱く、感情の制御がきかずに、ダラリと力のない拳を下ろし、俯いて立ち尽くしていた。
そこに扉の開く音がし、誰かが部屋より出てきたようだった。
「しーちゃん?」、と彼女は言った。ゆうきだった。
ゆうきは今起きたことを知らない風だったが、異変を機敏に察知すると、サッとルームメイトのもとに駆け寄って来、背中に手を置いて顔を覗き込み、不安そうに眉を下げ、「どうしたの!?」、と聞いた。
「ゆうき……」
そう呟くしずくの声は、涙で嗄れ、咽びが混じっており、ひどく哀れだった。
とりあえず、しずくはゆうきに伴われて、居室にいっしょに帰った。その様を、さっき退避した子たちが、少しだけ開けた扉の狭い隙間より、あるいは何が起こったのか知りたがる風の好奇の目で見、あるいはゆうきのように、同情の心痛と共に見ていた。
部屋の中、絨毯の上に、しずくはペタリと崩れるように座り、ゆうきがやはりそばに付いて、介助してやった。
「しーちゃん」、とゆうきはその背中をさすってやりながら呼びかけた。「いったい何があったの?」
「大したことじゃない」、としずく。「ひびき先輩と会って、少ししゃべっただけ」
「ひびき先輩……しーちゃんとは折り合いがあんまりよくなかったよね」
しずくがひびきと顔を合わせたと聞くと、ゆうきには、容易にことのいきさつが想像されるようだった。
「大変だったね」、と言ってくれるゆうきの温良でやさしい言葉が、しずくには痛いほど沁みた。
何もしない、ないしは何もできない自分が、ひびきの言葉によってくっきり浮彫にされ、しずくには、それが、何もしたくないという甘え、懈怠、無責任の現れとして、新たに認識されるようであり、同時に、既知の事柄として再認されるようだった。遠ざけて見ないようにしていた自画像が、想念の内に嫌味なほど明瞭に映し出され、その相は頼りなくて、醜くて、愚かだった。
ひびきはスポーツが得意で、ゆうきは地味だけど、倦まず弛まず努力している。彼女等に比べて自分は、どれほど劣っていることだろう――自己嫌悪の念が、孤高っぽかったしずくにきざし、彼女は情けない思いで頭痛がしてくるようであり、また、そういう情けない自分を甲斐甲斐しく世話してくれるゆうきに対して、申し訳なく思い、引け目を感じるのだった。
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