***
施設において児童が、あまりに素行が悪いとされると、児童相談所の判断の上で、教育的要請から、更生施設に移されることがある。もちろん、いわゆる施設に比べ、更生施設は、更生を主たる目的としているため、管理が徹底されており、規則はより厳格で、入所する児童の生活における自由度は低くなる。
しずくの場合、無許可の外泊が二度に渡ってされてしまったことから、すでに札付きの児童として施設で認知されており、次何か類似の非行事案が重なった場合、更生施設への移動が確定するかどうかははっきりしないにしろ、少なくとも、児童相談所への報告はなされることは間違いないのだった。
さて、しずくは懊悩していた。
彼女にはまた、施設より脱け出して彷徨したいという欲求が衝動的に、また切々ときざし、けれど同時に、素行が悪いとの自己の評価が自覚されていたので、今度もし脱走などすれば、重大に取り上げられ、甚だしく面倒なことになるだろうと予想された。かやこなどの職員は、しずくの非行後も、あくまで施設の保護者として、やさしく親しく彼女に接してくれているけれど、彼女が越えてはならない一線を越えた場合は、果たすべき職責から、所定の手続きを断行せざるを得ないのだった。
現状でも、彼女は施設の規則や決まり事に対してあまり従順でないのに、よりいっそう厳しい更生施設に移されれば、状況の悪くなることは請け合いだった。そしてそこでさえ問題児として取沙汰されるとなると、最終的に彼女は、更生ではなく矯正のための施設である少年院に行くことになるだろう。
しずくは、ひびきとの対立のせいで、自己評価が著しく低くなり、自尊心が損なわれ、また、ひびきを含む、しずくをよく思っていない児童たちへの気兼ねと、ゆうきなどの秀才たちへの引け目があって、施設にいることの抵抗感が急激に昂じてきていた。もちろん、施設に来ている以上、しずくには実家に帰るという選択肢などあろうはずはなく、となると、行き先はないも同然だった。
世の中に、こういう集団にあぶれた流れ者が存在することは、しずくは、何となく知っていた。そしてそういう者のイメージは、彼女にとって、また、世の中の集団にあぶれていない”健常者”にとって、よいものではなく、お酒やたばこなどの体に有害っぽいにおいがし、軽重の犯罪と低くない確率で関連していて、端的にいうと零落者だった。
しずくは、彼女が恐れているように、ひょっとするとそういったところに堕ちていくのかも知れないと、半ば諦念して思う一方で、まだそうなりたくはなく、出来れば挽回して、明るい展望に向けてリスタートするか、方向転換できればいいと、良心から思うのだった。
***