Fragile Stream   作:Yuki_Mar12

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 キッチンの方で物の落下する音がし、リビングで可愛い人気キャラクターをお絵描きしていた六歳のしずくは、何かあった気がして、気になって行ってみた。

 

 みわこ――しずくの母が、キッチン台のところにエプロン姿で立っているのだが、シンクの蛇口から出る流水で、手を洗っていた。まな板の上の玉ねぎの、ツンと強い香りが、辺りに漂っていた。「やっちゃった」、と彼女は独り言で呟いているのが微かに聞こえた。

 

「お母さん?」、としずく。

 

 みわこは振り向くと、クスリと笑み、「怪我しちゃった」、と言った。

 

 キッチン台が接する壁には引き違い窓があり、真っ暗で、すでに夜遅かった。みわこはフルタイムのパートタイム勤務より帰った後、夜食の準備をしているところだった。

 

 幼いしずくは心配から、険相で「見せて」、と言ってみわこのそばまで駆け足で行き、みわこは振り返って低くしゃがみ、クロスで押さえている、少し荒れた指を見せた。クロスが除けられて露わになった左手の人差し指の、包丁で出来た傷口から、ぷっくりと血があふれ出して来、少し時間が経つと、ポタポタと滴り落ちるのだった。

 

 その痛そうな様を、しずくが間近に見ると、何か責任感じみたものがムクムクふくれ上がって来、強い力で彼女を動かした。

 

 しずくは手当てしてあげるとみわこに言い、彼女の自前の応急手当セットが入った箱をリビングより持ってくると、袋入りのティッシュとバンドエイドを取り出した。そして慣れた手つきで、傷口をサッとティッシュでぬぐって清潔にし、防水性のあるバンドエイドをみわこの指に張り付け、傷口を封じた。

 

「ありがとう」、とみわこ。「これでお料理が続けられる」

 

「無理しないでね」、としずく。「お母さんがいなくなると困るから」

 

「しずくってば、大げさね」

 

 みわこは苦笑すると、立ち上がってまな板の玉ねぎに向かい、いささか慎重に包丁を入れていき、中断していた料理を再開した。

 

 母が偶然負ったただのありふれた切り傷に対し、しずくはいやに真剣、ないしは深刻だった。というのは、学童で七時過ぎまでいたしずくは、最後の方、すでに他の児童は連れられて帰っていないという中で、ほとんど孤独で心細く過ごしており、ようやく迎えに来たみわことの再会が嬉しくて、詰まる所、しずくはみわこのことをよく慕っていたのである。

 

 しずくが傷の手当てに関して妙に知識があり、習熟していたのは、六歳にしては割と豊かな経験があったためである。

 

 彼女は以前、落としたグラスの破片にうっかりまずく触れて深い切り傷を負ったことがあった。その時しずくは、母に連れられて病院に受診しに行ったのだが、幼い彼女は、そこで勤務する看護師と気が合い、おままごとめいた形で、切り傷、及び怪我の処置について、遊びと共に和やかに、また楽しく教わったのである。

 

 以来、しずくは怪我の手当てに自信を持つようになり、将来は看護師になりたいと、幼心にぼんやり思うようになり、その思いは、十代になってからも、当時ほどの純真さはなくなったものの、未だ彼女において留まり続け、彼女に対し、わずかに影響を与え続けていたのである。

 

 

 

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