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梅雨明けが近くなっている七月の初旬。つかさは折に触れて、自身の誕生日に関し、ずいぶん鬱陶しい時期に生まれたものだと不満に思うことがあった。
相手の誕生日にケーキを用意するなどして祝い事を催すのは、恋人同士の関係にある男女それぞれにとって、決して強要されることではないものの、ほとんどしなければならない、義務に似たことであった。つかさの誕生日が七月の初旬某日であるのに対し、二宮の誕生日は、一月の下旬某日だった。梅雨とは違って(かなり寒いけれど)すっきりした時期に生まれた恋人に対し、鬱陶しい時期に生まれたつかさは、嫉妬めいた感情を覚えないではなかった。実際つかさの誕生日であるその日は、雨が降っており、空気はムシムシして、エアコンの風が少し冷たく、何とはなしにお祝いのムードが損なわれているようだった。
用意された食べ物は豪勢には口にされず、少し残りそうだった。夜の九時頃。つかさは、半端に残ったケーキの断片と汚れたフォークのある丸皿を正面に、両肘を卓上に突いて薄紫色のシリコンカバーのスマホをいじっており、他方二宮は、空いた皿などをシンクまで持っていき、洗剤で洗っていた。
「ケーキ、おいしかった?」、と二宮が食器を洗いながら、尋ねる。
「うん」、とつかさは、にべなく返す。
買ってきたケーキの感想が悪くなく、二宮は満足そうに笑んだ。
つかさはスマホより目を上げ、恋人のその笑顔を背中越しに窺うと、何となく、何か投げつけたくなる気がするのだった。
「今日は、ありがとう」、とつかさは礼を述べたが、後になるにつれて声量が乏しくなり、二宮は聞こえなかったようで、怪訝そうに首だけで振り返り、「何?」、と聞き返した。
その時二人は見つめ合う恰好になったが、雰囲気は甘くもムーディーでもなかった。つかさは冷淡ににらむようであり、二宮は呆然ときょとんとしている。
「色々してくれてありがたいんだけどさ、いつ、”する”のよ?」
「”する”って?」
二宮は相変わらずきょとんとした顔で聞き返すが、ふと合点が行ったように「あぁ」、と発すると、どこか満更ではない、やれやれという感じで口元を緩め、「アレのこと?」、とぼかして言った。つかさは、彼の仄めかすのが性的事柄だとすぐ分かり、軽蔑の念と共にきっぱり「違う」、と否定した。
「就職だよ、就職」
つかさにそう言われ、二宮は翻然と白けたようになり、またシンクに向き直って洗い物を再開した。
「ちょっと、黙んないでよ。返事は?」
「考え中」
二宮はどこか投げ槍にボソッと呟くように返した。
こういう話がされるのは、二人において初めてではなかった。二宮の『就職』が話題になった途端、雰囲気は重くて気まずいものになり、ただ蛇口の水道の水が流れ落ちる音と、陶器の食器がガチャガチャいう音だけが、ダイニングに聞こえていた。
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