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ひびきとの一件の後、しずくはじっくりと、また同時に、焦慮と共に考えていた。どうすれば施設を出ていけるかについてだった。外泊は基本的に禁じられていたし、強引に出ていったとして、今度は警察沙汰になるかも知れなかった。
とにかく、情報が欲しいと思うしずくは、スマホなどの情報端末が、個人所有できる形で手に入れたかった。施設にあるタブレット、パソコン等は使用制限があり、公用であり、個人が恣意的に使うのは無理だった。
公用のタブレットでしずくは、スマホの購入について調べてみた。だが、それさえ厳しいプロテクトのために満足にできず、しずくはしかたなく、自分の足で出歩いて調べることにした。しずくはある程度、素行の改善の傾向が見られるという風に認識されており、散歩に行くと言えば、施設はすんなり許可してくれるのだった。
――ひびきとの件は、ゆうきの良心から、かやこまで伝えられ、しずくは彼女と二人きりで話す機会が設けられた。
宿舎ではない管理棟の一室で、しずくとかやこは密接する二つの机の椅子にそれぞれ座り、対面していた。
「ゆうきちゃんから聞いたけど」、とかやこがどこか堅い面持ちで言った。「ひびきちゃんと何かあったんだって?」
こういう風に個室に呼び出されて、どういう話題が口にされるかは、予め、しずくにおいては察せられており、彼女は冷然としていた。
しずくは、何もなかったと言うと場が白けそうで気が引けたし、けれど、ひびきのキツい物言いに傷付けられて泣いてしまったなどと実直に白状したところで、状況が好転するとは思えず、彼女は沈黙するしかなかった。
「ハァ」、とかやこは暗鬱そうにため息した。「あなたたちの合い口がよくないのはよく知ってる。何度か悶着を起こしてるからね」
「わたしは知らんぷりしようとしたのに、アイツが絡んできた」
「ひびきちゃんには、もう粗方のことは聞いたわ。あの子はいわゆる体育会系で、先輩風を吹かせたがるから、自分より年下の子には、偉そうに振舞ってしまいがちなのよね」
「わたしはアイツに人格否定までされたのに、そういう気性だから許してやれって、かやこさんんは言うつもり?」
「同じ環境でいっしょに過ごす以上、互いにずっといがみ合っているわけにはいかないでしょう? ひびきちゃんは反省しているようだし、しずくちゃんも、広い心で、今回のことは忘れてくれると、わたしは嬉しいな」
しずくは、かやこの言葉が、施設の職員として、しずくに対しても、ひびきに対しても、公平であると分かっているつもりだった。だが、その時のしずくにとって、ひびきはもはや不倶戴天の相手であり、許したり、容認したりすることは困難だった。しずくにおいて、かやこにはそこそこシンパシーがあったけど、彼女にこういう風に中立されてしまうと、失望して、懸隔を感じざるを得なかった。
八月の猛暑の中、しずくはあちこちの電化製品の店を巡り、その内の一店で、施設のくれる少ないお小遣いでも購入し得る低価格の中古スマホが見つかった。それは、価格相応に型が古く、SIMが入っておらず、くたびれていたが、まだ機能しているようだった。
しずくにしてみれば、情報端末として使用できさえすれば十分であり、ネットは、別に管理の厳しい施設でなくても、無料の無線LANサービスが提供されているところに行けば、動画だって視聴できるし、SNSだって、思うようにアクセスできるのだった。
しずくは気に入った一台をレジに持っていき、あるいは年齢を尋ねられ、販売を拒まれるおそれがあったが、外国人の日本語の不自由な店員は、あっさりと十四歳のしずくに中古のスマホを売り、彼女はそれをポケットに入れ、そのずっしりした重みは、半ば嬉しくさせるようで、半ば不安にさせるのだった。
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