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つかさは、いくら早逝した母の遺産があり、また会社から賞与を貰った直後であるとはいえ、飛行機で上等のクラスは選ばなかったし、彼女が乗っている飛行機の航空会社には、そもそもクラスの設定がなく、全席が同等だった。
航空券の予約の段階で有料サービスである座席指定を利用しなかったつかさは、座席の位置がチェックインのタイミングで決まったのだが、一人旅の彼女は、奇縁に際会することになった。
すなわち、空港の搭乗フロアで目が合ったあの女性が、つかさと隣席同士になったのである。これは単なる偶然に過ぎず、しかし、つかさにとっては、いわゆるシンクロニシティという、意味のある偶然であり、きっとオンラインでチケット予約する時機が、それぞれ前後したのだろう。
機内では、通路を挟んでシートが左右に三席並んでいた。飛行機の出発前、窓際の席に座っていたつかさの隣に誰かやってきて、ふと見てみると、白のTシャツと黒のスラックスのあの人なのだった。
互いがある程度意識していたので、つかさもその女性も、無視はせず、再会すると、どちらからともなく会釈した。女性が席に座ると、つかさは何となく気まずく感じたし、その感覚は、相手の方でおおむね同じようだった。
「――皆様、この度の搭乗を歓迎いたします。本日は、スカイ航空551便、那覇行きをご利用いただきまして、誠にありがとうございます。当機はまもなく出発いたします。皆様、シートベルトをもう一度お確かめください――」
女性の声のアナウンスが流れて来、程なく、機体が緩やかに動き出し、次第に高速になり、いよいよ離陸する際、乗客たちがシートに圧力でグッと押さえ付けられる感覚がした後、無事、飛行機は飛翔した。
つかさにおいて、「ハァ」、と近くからため息が聞こえた。そのため息は、緊張で出たようだった。
「飛行機って、こんな感じでしたっけ?」、と隣の女性がつかさに言った。「けっこう体に負荷があるものですね」
「さぁ」、とつかさは、曖昧に返事した。「わたし、あんまり頻繁に乗らないので、よく分からないんですが」
「ご旅行ですか?」
「えぇ、沖縄の離島まで。……お姉さんも?」
四十代と思しき女性をどのように呼ぶべきか迷いながら、つかさは聞き返した。
「みわこって言います」
「みわこさん」
「あなたは?」
「つかさです。横浜の方で会社員やってます」
互いに自然と自己紹介の文言がポツポツ出て来、すると、彼女等は徐々に赤の他人同士だったのが、少し関係性が進展しだした。もっとも、この段階で親しいなどと言えるものではないが。
二人の会話のわき、三つあるシートの並びの残りの一席では、一人の若い軽装の男性が、コードレスのイヤホンを耳に装着して、読書していた。
みわこの素性は、自己紹介で何となくつかさに理解されたが、職業に関してだけは、何かすっきりしないものがあるようで、しかしまだ親しくない状況で、つかさに踏み込んだ質問など出来ようはずがなかったし、第一にする気も全然ないのだった。
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