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羽田から那覇までの飛行機のフライトは三時間ほどで、つかさはてっきり、一人で悠々と音楽を聴くなどして過ごすのだろうと思っていたのだが、みわこという存在と不意に行き合わせたことで、その予想は変転した。
「女性の一人旅って、不安ですよね。ましてやつかささんみたいにお若いと」
とみわこが言った。
「おっしゃる通り、不安はあります」、とつかさ。「けど、今回は旅に行きたい気持ちがまさったので――あっ、富士山」
彼女が示すと、隣に座るみわこは関心があるように窓の方に首を伸ばし、つかさの正面にまではみ出る恰好になった。彼女が動くことで、シートベルトがピンと突っ張った。
角部にアールの付いた飛行機の小さい窓から、まだらになっている雲の広がりの間に、冠雪した富士山の立派な峰が見えている。中央の火口がポッカリとあいており、焦げ茶色の斜面がゴツゴツしていた。日本一高い山といえども、さすがに飛行中の機内の視点では、見下ろせるほど低かった。
富士山の景観に満足したらしいみわこは、元の姿勢に戻り、やや唐突に、「つかささんは山派ですか? 海派ですか?」と聞いた。
その質問はありふれたもので、たいていの者は漠然と答えるのだろうが、つかさの場合、思いははっきりしていた。
「海派ですね」、と回答した彼女の口調は、きっぱりとしたものだった。
その感じが、みわこを不思議がらせたようで、彼女は半ば感心し、半ばきょとんとして、なぜなのか追及した。
「理由は単純です。水平線を見ると、気分がすっきりするから。たしかに単純ですけど、わたしの場合、変な執着があって、真冬でも、鼻水が止まらなくなろうと、見ようとするんですよね。地平線もいいと思うんですけど、山というロケーションだと、何か圧迫感があってダメなんです。それに、山はのぼらないといけないですし、色合いも、山のグリーンよりは、海のブルーの方が、好きですね」
「つかささん、よっぽど海に魅了されたんですね」
みわこは納得したようで、それでいてどこか不審そうだった。
「そうみたいです」、と苦笑いと共に返したつかさは、「みわこさんは?」、と振った。
「わたしは、聞いておいて何ですけど、特に何派っていうのはないです」
「沖縄にはどうして行かれるんですか?」
「やっぱり、綺麗な海が見たいと思って」
では海派だろう、とつかさが断定しかけた瞬間、みわこは「わたし、あんまり旅行しないんです」、といささか悄然として言った。
「というのは、恥ずかしい話、端的にお金がないものですから。けど、今回は特別に奮発しました。ずっとわたしは、働き詰めで生活してきて、ストレスがかなり溜まったんでしょうか、気晴らしがしたいと、矢も楯もたまらなくなって」
成るほど、とつかさは納得した。
たしかに、みわこの容貌や、身に付けているものや、荷物などは、飾り気がなく、質素だった。お金がないというのが、貧しいことの意なら、つかさにそういった先入見はなかったが、言われてみると、実際にそうなのかも知れない、と彼女は思った。
飛行機はまだ本州の上空にあった。沖縄までは、まだかかるようだった。
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