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<そろそろ飛行機に乗った?>、とつかさのスマホに、二宮がメッセージを送信した。
<せっかくの旅行なのに一人で行かせることになって悪かった。出来れば付いて行きたかったんだが>
つかさは事情を知悉していた。彼女には充分予算があり、二宮にはなく、けれどつかさの予算は、二宮の不足分をカバーできるほどのものではなかったのである。
<さっき乗った>、とつかさ。
彼女は、<決まりだから、機内モードにするね>、とあっさり続け、何となく鬱陶しい二宮の通信をシャットアウトし、スマホを伏せてお腹の辺に置いた。
「そういえば」、とつかさはみわこに向かって言った。「娘さん、十四歳ですか。ちょうど、多感になる年頃ですね」
「そうですね」、とみわこ。「あいにく娘とは面会する機会があまりないもので、詳しくは知らないのですが……って、母として失格ですよね」
「娘さんとは会おうとなさらないんですか?」
「会おうとは思ってるんです。けど、なかなか間合いが悪くて、最後はいつ会ったことやら」
機内の窓には、雲と、青海原がどこまでも広がっていた。すでに飛行機は太平洋上に来ており、本州を離れているようだった。
つかさは、一度はしょせん赤の他人に過ぎないと見なし、みわこに対して境界線を引いたつもりだったが、彼女が、どこか自分の早逝した母と似通っている部分があるように思え、そうなると、シンパシーが生じて、自然と心が開いてくるようだった。
「沖縄のお土産を買って帰ってあげたら、きっと娘さん、喜びますよ」
つかさの言に、みわこは「そうですね」、と返したが、その面持ちと口調は自信なさげで、つかさは失言してしまったように感じて気まずくなった。
「あの子の機嫌を取るのって、難しいんです。ホントに、多感でして」
よっぽど、みわこの娘は現在、人格の発展途上の激しい奔流にいるのだろうと、つかさには思われた。
そして彼女は、自分が十四歳だった頃のことが、みわこの娘が比較対象となって、ぼんやり回想された。
つかさは一人親で、母しかいなかった。父は、彼女が幼い頃に病没した。亡くなった父は気性が繊細、ないしは神経質で、それが災いしたのか、ある日唐突に逝去した。彼の死因は、母と同じく心不全だったが、医師の説明はあまり詳密でなく、つかさも母も腑に落ちなかったものだ。
母親はいなくなった父親の分までカバーするべくハードワークに従事し、その結果寿命を縮めたが、彼女の日頃の憔悴しがちだった姿を、つかさは心痛と共に見ていたので、生活環境は決して恵まれたものではなく、学校の級友は母がシングルマザーだと知ると軽侮してきたりしたけど、つかさはグレないで温順に育ち、まじめに勉強して大学まで出、そこそこの規模の企業に就職した。
一人親の家庭の子供の成長の仕方や、家庭での振る舞いや、親に対する思念などは、ある程度似通った傾向が見られるものの、その傾向でもって彼等の行く末が断定できるものではなく、やはり千差万別であり、多様であり、不確実である。
みわこの娘の場合も、多感さが親子間に溝を生んでいるようだが、娘が必ずしも悪い方に、つまりみわこの望みとは反対の方に行き続けるとは限らず、どうなるかは、二人の間の問題であり、つかさは介入する気は毛ほどもなかったが、みわこは相当に不安そうなのだった。
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