Fragile Stream   作:Yuki_Mar12

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 ――二宮という男は、しずくにとって、心底軽蔑するほど意識の低い、改心する見込みのない落ちぶれた人間だった。定職に就かずにフラフラして、かててくわえて迂闊にギャンブルまでしてみずから身持ちを悪くするのである。

 

しかし、しずくの目に映るものが二宮の全てではなく、理解されにくい形ではあるが、彼は彼なりに反省しており、危機感を持っていた。彼は大学卒業後に就職した会社を、忍耐力の足らなさによって早期にリタイアしてしまったことを悔やまずにいられるほど強いハートの持ち主ではなかったし、まだ二十代で若いから大丈夫と楽観する節はあったけど、空白期間は長くないのがいいという社会通念をきちんと持っていた。

 

 だが、家庭が比較的裕福で、不自由のない甘えの許された暮らしに慣れた彼には、実家に暮らすにしろ、一人暮らしするにしろ、自律的生活を営むことの社会的かつ道義的要請を認識して履行するには、まだ精神が幼稚だったのである。

 

 しずくにつっぱねられた二宮は、彼女のアパートからブラブラ帰る途上、ため息がやまなかった。頼れる恋人につっけんどんに拒絶されるのは、普通こたえることだろう。彼はだらしないという自覚があったし、改心すべきだと思っていたし、その意味では、問題意識があり、前向きだった。だが、彼にはひとつの劣情があり、それは、ずっといっしょに行っていたしずくとの恒例の旅行に例外的に行けなかったことの、彼女に対する『うらみ』であり、対抗意識だった。もちろんこれは彼の妄執に過ぎず、今回の件に関してつかさに咎は一切なかった。

 

 二宮は、ギャンブルで金を失くしたけど、すっかり無一文になったわけでなく、銀行の口座にはちょっとだけ小遣いが残っていたし、ちょっとした旅、ないしは移動は可能だった。

 

 彼は、つかさの部屋から去ったその道中にふと閃き、その足でコンビニに寄り、ATMで必要分のお金を引き出すと、駅まで行って電車に乗りこんだ。その駅は、つかさが沖縄旅行に行く日の朝、電車に乗ったのと同じ駅だった。彼は片道三千円ほどかけ、横浜経由で千葉に向かい、そこでバスに乗り換えた。向かったのは九十九里浜だった。

 

 空はカンカン照りで、空気が重く感じるほどの激しい暑熱が満ちていた。

 

 二宮はバス停より歩いて砂浜まで向かったが、Tシャツはすぐに汗でベタベタになった。

 

 お盆休みの期間中ということで、砂浜は盛況だった。潮風は生臭い上に、ひどく湿っていた。

 

 二宮は、つかさの真似するつもりで、水平線のよく見える、人のいない空いているゾーンを目指し、そこに到るのにかなり移動しなければいけなかったが、最終的に、彼は広々とした人のいない端部までやってきた。そこは海水浴場の指定区域ではないところだった。

 

 粒子の細かいサラサラした砂浜に靴を半ば埋めるようにして、彼は腰に手をやって立ち、遼遠の水平線を眺望したが、つかさが覚えるほどの感興は彼には起こらず、何か拍子抜けする感じがした彼は、ふと、波打ち際の辺に、漂流物の浮かんでいるのが目に入った。

 

 それは一見すると石のようであり、しかし、石としては大きいサイズで、普通ならば、水底に沈んでいるはずであり、二宮は直感的に妙だと察した。

 

 彼は興味を持って靴と靴下を脱ぎ、波打ち際まで裸足で入っていくと、その謎の漂流物まで行き、手で拾い上げてみた。それは、やはり石というには、それも、かなりのサイズの石にしては、いやに軽すぎる気がした。

 

 

 

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