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二宮がいささか興奮した様子で先導して、つかさとしずくは住宅街より離れ、片側一車線の車道のわきの歩道に出て歩いていた。辺りにはクリーニング店やパチンコ店があれば、住居があり、ゴチャゴチャしていて一様でなかった。歩道の巾が狭い上、街路灯のポールや電柱がちょっとした妨げとして立っており、つかさたちは、向かってくる人や自転車を避ける時、窮屈で、また、車道を乗用車や路線バスが走る時、圧迫感があった。
ひどい暑さだった。八月半ばの昼に近い時分の気温は、まさに酷暑と称するにふさわしいほど苛烈だった。
彼女等がやがて至ったのは、通りに面する一軒のこぢんまりとした、昔風の古びた物件で営業されている店舗で、そこは、骨董品の買取店だった。窓に青い塗料で、買取可能品として、貴金属、アクセサリー、スマホ、等々が例示されていた。
二宮が店舗の正面に立ってしばらく上部の看板を見上げると、そばに並んで佇んでいるつかさとしずくに頷きかけ、彼がまず扉を開いて入店し、その次に、つかさたちが続いた。
エアコンの吐き出す冷気が少しカビ臭かった。
店内ではカウンターに一人の短い白髪の男が、ジャケットを脱いだスーツ姿でおり、いらっしゃいませと来客を歓迎すると、カウンターの前の席に座るように勧めた。小さい店舗なので、つかさと二宮としずくの三人が座ると、密度が高くむさくるしく感じられた。
店員は売り物となるものの提出を、手を組んでどこか気怠そうに待っており、二宮がつかさに促して、つかさは、依然として気が進まなかったが、クシャクシャのビニール袋をカウンター上に出し、その中から例の物体を取り出した。
「ほう、これは」、と店員は、かけている眼鏡の縁を持ってしげしげと観察した。「失礼ですが、どちらで」
「浜辺です」、と知らないつかさの代りに二宮が回答した。「波打ち際で、ぐうぜん拾ったんです。最初はただの石ころかと思ったんですが、気になって調べてみたら……」
「アンバーグリスのように見えます。リュウゼンコウともいいますが」
つかさとしずくは、何も分からずにぽかんとしていた。とにかく謎の物体だったものの正体が、店員によって明かされていく過程が進んでいることはたしかだった。
「えぇ」、と二宮。「ぼくの方でも、そうではないかと推定しまして」
彼の口調には衒いがあって、どこか嫌味っぽく聞こえた。
店員は作業に入るため、白い手袋を着用して、引き出しからライターと針を取り出すと、火で針の尖端を赤くなるまで熱し、物体にプスリと浅く突き刺した。つかさとしずくと二宮は、その手際を興味深そうにじっと見ていた。
熱された針が刺さって程なく、辺りに芳醇で品のある香りが漂いだし、それは、甘い風味のする、お香のように落ち着いた香りで、それでいて同時に、クジラの体内で生成されたものであるせいか、動物的フェロモンを感じさせ、またクジラが生きていた大海の爽やかでしっとりした風情が濃厚かつさりげない形でこもっていた。
つかさたちはリュウゼンコウの甘い香りにうっとり酔いしれ、一方で店員は、冷静に、リュウゼンコウの形態やサイズを精密に鑑定し、電卓をカタカタ叩いて、査定額を算出しようとしていた。
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