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つかさのアパートの部屋に招じ入れられるのが三度目になるしずくは、初めて来たかのように物珍しそうに、新鮮がるように、中を見回した。
「涼しい」、と部屋に上がったしずくが言った。
「エアコン、付けっ放しだったね。二宮(アイツ)が急かすから、切らずに出てきちゃった」
先にしずくを中に入れたつかさは、彼女に遅れて部屋に上がった。
つかさはダイニングのテーブルに付き、しずくはソファに座った。
「何か疲れた」
「彼氏さん、すごいね。お宝を拾うなんて」
「まぁ、すごいとは思うけど……そうだ。しずくちゃん、何か飲む? 帰り道、暑かったでしょ?」
そう言って、つかさは立ち上がって冷蔵庫に行き、中からパックの紅茶を取り出すと、キッチン台の上に二人分のグラスを用意して、中に注いだ。
テーブルの上にグラスが置かれ、つかさは戻り、しずくは、ソファよりテーブルに移動した。
二人で甘い紅茶の入ったグラスを口元で傾け、一抹の清涼感を得ると、それぞれグラスを卓上に置いた。
「わたし、迷惑じゃない?」、としずくが気後れしたように尋ねた。
「大丈夫だよ」、とつかさはにこやかに返した。「しずくちゃんが施設の人ときちんと相談した上で来るなら、ね」
すると、しずくは肩を少し落とし、どこか自信なさげだった。
「ねぇ、つかささんってさ」、としずく。「夜何時に寝ても怒られないんだよね。朝だって、何時に起きて、いつご飯食べたって、いいんでしょう?」
「まぁね」、とつかさ。「けど、夜更かしは体に悪いし、朝は誰も起こしてくれないから大変だよ」
「そんなの、大したことない。一人暮らしって、わたしには羨ましい。施設(あそこ)では、わたしは、ただの管理対象でしかないし、いっしょに暮らす子たちは、おんなじ心の傷を共有して、依存し合ってる感じがして、気持ち悪い」
しずくの口より滔々と出てくる生々しさのある感情的セリフに、つかさは違和感を覚え、片目を眇めた。
「しずくちゃん、施設で何かあった?」
「ねぇ、つかささん。わたし、あそこに後何年も留まっていられる気がしない。わたしは、あそこにいる子たちとは違う。お金なら、わたし、明日からでも隠れて働く。ユイさんの部屋、そんなに広くないけど……わたし、あのソファさえあれば、そこで小さくなって寝る。ご飯だって、ユイさんの残り物でいい」
「しずくちゃん、それは――」
それは、やむを得ない事情で無理だと、つかさが、苦悩に満ちた同情や、遵守すべき社会のルールに対する諦念などから、拒もうとした時、しずくは翻然とにこやかになり、「なんてね。全部、冗談だよ」、とあっけらかんと、失笑と共に言い放った。
「わたしがここにいると、彼氏さんが来た時に邪魔になっちゃうもんね」
そして彼女は、隠し切れない、痛々しいと思わせる寂しさや憂わしさにぼんやり包まれて、グラスの飲み残しをすっかり飲み干すと、そろそろ帰ると言い、立ち上がった。
辞去するために一人で淡々と玄関に向かおうとするしずくの背は、彼女が十四歳であることを加味しても、あまりに小さくて弱弱しく、心細げで、儚い危うさがあった。
つかさは「待って」、としずくを引き留め、彼女に、スマホか何か、通信手段を持ってるか聞いた。
しずくは回答せず、片手をポケットに突っ込むと、スマホを出して見せた。傷が複数付いており、ボディが大きい、いかにも古いモデルのスマホだった。
「ID教えるから、後で登録して」
「何で、つかささん?」
つかさは、しずくの反応が鈍いと見て取ると、近くにある紙片を取り、ボールペンで自分の名前を検索用のIDを記入し、彼女に渡した。
「これでよし」、とつかさは満足げに微笑んだ。「何かあったら、連絡して」
「何かあったら……ね」
しずくは、信用しないという風の頼りない口調で繰り返すと、紙片を見つめ、ジャージのポケットにスマホごと突っ込んだ。
「ありがとう」、という礼の言葉と共に扉を開けて出て行こうとする時に見せたしずくの笑顔は、いくらかこわばっていて、だけど健気で、胸打つもののある気が、つかさにはした。
開いた扉の隙間より、外の光が中まで漏れて来、しずくは明るい外に出ていき、扉が閉じると、光は遮られて見えなくなった。
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