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しずくは夕方、施設に戻り、その時間は門限に対して余裕があり、彼女はルールにしたがう形で、外出して帰ってきたのだった。
しずくは管理棟の職員室に行き、そこにいるかやこに外出に関する報告を簡易に行い、かやこは、望ましい形で振舞われたしずくの振る舞いに安堵し、また感心した。その思いを、かやこは率直に彼女に告げたが、しずくには少々虚しく、空々しく響いた。こういう行状が安定してくれば、彼女に対する、他の児童より厳しめの管理は容易に解かれるだろうとかやこは口にしたが、”腹案”のあるしずくは、てんで期待しなかった。
しずくは管理棟より宿舎に移動して自室に戻り、中では、努力家のゆうきが、やはり、教科書はノートが開かれている机に向かって勉強していた。
「しーちゃん。おかえり」、とゆうきが振り向いて言った。
「ただいま」、としずくはぶっきらぼうに返した。
「しーちゃん。フルーツのおすそ分けだって。オレンジ」
そう言って、ゆうきはしずくの、整理整頓の行き届いていない、小物が散らかっている机の方を指さした。机上には、ラップのかかった皿があり、カットオレンジがのっているのだった。皿に対して、隙間が広く見えたが、そこにはもともとゆうきの分があり、ゆうきがすでに食べて、空いているのだろうと思われた。
しずくは机の前まで向かうと、カットオレンジを見下ろした。
「ここの子の親御さんが、たくさんくれたんだって」
「へぇ」
しずくは相変わらず冷淡に、あるいはもったいぶった風に振舞い、純粋に食べようと思って、ラップを外そうと皿に手をやったが、何だか躊躇されて、断念したように手を引っ込めた。
「わたし、要らないや。ゆうきに上げる」
しずくが言った。
「でも、わたしはもう自分の分食べちゃったよ?」
ゆうきは訝るように返した。
「いいよ。わたし、今からちょっと掃除したいし」
しずくは皿を持ち、ゆうきの方に持っていって、手渡した。
ゆうきはきょとんとした感じで受け取り、「しーちゃん、オレンジ、嫌いだったっけ?」、と尋ねた。
「うん」、としずくは答えた。「別に、好きじゃない」
きょとんとしているゆうきをしり目に、しずくは自分の机へと戻り、どこか物思う風に「スゥ」と鼻でため息すると、机の上や引き出しの中などのものを手に取ってしげしげと見、机上に整然と置いたり、ゴミ箱に捨てたりし始めた。
その様を、ゆうきは珍しそうに眺め、だけど、彼女はしずくのことに拘泥せず、余分に貰ったオレンジをおいしそうに食べて平らげると、勉強を再開した。
常にぶっきらぼうのしずくと、かいがいしいゆうきとは、ずっとうまく協調して和気藹々とやってきたが、不思議と彼女等の間には、薄い膜が形成され、少しだけ隔たったように思われた。
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