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しずくは過日、本来歩きでは遠いはずのところまで歩いて行き、雨のジメジメした夜に関わらず、不用心に、また孤影悄然として、公園のブランコにぼんやり座っていたことがあったが、それは、彼女が施設とは異なる、施設にとってかわる新しい居所を希求した上での、半ば夢見心地で、半ば精神的に病んだ、驚くべき機械的挙動だった。
しずくが身の回りの片付けをするのは、ひどく珍しいことだった。彼女はいつも、着る衣服には頓着しないし、物の扱いが粗雑で、とにかくよく机の上やベッドの周りが散らかって混沌としており、それとは対照的に、相部屋のゆうきのゾーンは、きちんと整理と清掃がされ、彼女なりの堅実さに基く秩序が守られているのだった。
「珍しいね」、とゆうきが、手にペンを握った状態で口にした。「しーちゃんが片付けするなんて」
「そう?」、としずくは返したが、その感じはどこか白々しかった。「たまにはわたしだってするよ。しょっちゅうはたしかにしないけどさ」
「しーちゃん、どっか行くつもり?」
ゆうきは、ペンを置き、体全体でしずくの方に向いていて、そう問うた彼女の眼差しは、温かく穏やかで、同時に、清冽に澄んでいた。
ゆうきの問いに、しずくは黙然として答えなかった。彼女は、無視するようでいて、また、どういう風に返すべきか、考えている風だった。
「外泊するんだ」、としずくがようやく答えた。「親戚の人が誘ってくれてさ」
「そうなんだ。寂しくなるね」
「何でよ。わたしなんかいなくたって大丈夫でしょ。それに、わたしはここでは嫌われ者だし」
ゆうきの言葉に、しずくは哀調のある、いやに大人びた微笑と共に返した。
――しずくの様子は、以前とは画然と異なっているようだった。その変化が、ゆうきには一定の確かさで覚知されるようだった。しずくが門限の時間まで帰ってこない上、ほとんど失踪する格好で行方知れずにまでなり、施設の職員が慌ただしくした過日、当時の彼女は、放心状態だった。身辺の整っている・散らかっているという状態は、その人の精神、ないしは心理と密接に連関しているもので、放心状態だったしずくの身辺が乱雑に散らかっているのは、ゆうきには、いささか同室の者として不快だったけど、合点の行く、辻褄の合うことだった。
しかし、しずくは、何がきざしたのか、急にテキパキした動作で片付けしだし、それは、普通改心したと思われて、賛美されてもおかしくないことなのだが、ゆうきにおいては、しずくの変化に腑に落ちないところがあるようだった。
「決まったの?」、とゆうきは訊いた。「進路というか、これからどうしたいか、そのビジョンが」
「まぁね」、としずくは、やはり大人びた表情で肯定した。
その答えには、嘘やごまかしはないようだった。その象徴が、彼女の片付けという行動であり、彼女においては、ずっとなかったはずの秩序が生まれ、守られるようになり、しかしその秩序がどういった目的に対して成立したものなのか、ゆうきは気になって仕方がないのだった。
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