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しずくがある程度片付けを終えた頃、部屋の扉がコンコンとノックされ、ゆうきが返事した後、かやこが部屋に顔を覗かせた。
机の上に並べたものを引き出しに入れたり、リュックに入れたりしれているしずくは、首だけで振り返った。
「しずくちゃん。お客さん」
「わたしに?」
しずくは誰が来たのか想像が付かず、奇異の念に打たれた。
だが、かやこのどこか堅い、気遣わしい表情を見ると、しずくには、自然と察せられるものがあるようだった。
「あぁ、“あの人”?」
「えぇ。みわこさん」
その名を耳にすると、しずくは「スゥ」、と鼻でため息し、沈鬱そうに目を伏せた。
「しずくちゃん、たまには『お母さん』に会ってあげたら……」
かやこが遠慮がちに言い出した言葉が最後まで言い切られる前に、「分かった」、としずくが心なしかさっぱりした感じで返した。
ずっと忌避し、敬遠してきた母親のみわこと、しずくは珍しく、嫌がらずに面会することにしたのだった。しずくはもはや、母親に対する不信感や嫌悪感のために彼女とよそよそしく隔たっていることを望まず、彼女にとって、接触はむしろ望ましいようだった。もちろん、しずく自身が積極的に望むのではなく、あくまで受け身の恰好でのみ、受諾されることであり、しかししずくには、母の到来の知らせを受けて、喜びを示すのではなく、厳しい試練に果敢に、あるいは蛮勇でもって挑むような、毅然とした、あるいは傲然とした態度でおり、母と旧交を温めようとする気はないみたいだった。
ゆうきは沈黙してしずくの方を見遣っており、彼女の半ば苦しそうで、半ば愉快そうな表情に、また、せわしくなったまばたきや、絶えず動く指に、彼女の動揺や興奮などが見て取られるようだった。
しずくは暫時悩むように渋面で瞑想した後、開眼し、扉のところのかやこの方へ行き、退室した。
一人になったゆうきは、中断している勉強をすぐに再開せず、最後に見たしずくの背中のイメージに、読み取るべき彼女の心中を読み取ろうとした。しずくは、母の来訪に対して悠然と構えているようであり、他方怯えているようだった。彼女は虚勢を張っていたのではなかろうか。ゆうきにはそのように思われるのだった。
ゆうきは、しずくの机の上、そして彼女の周辺を見た。すでにほとんど整理、清掃され、さっぱりしていた。
ゆうきには、しずくの変調は、依然として不思議であり、また物寂しくもあった。ずっと無軌道に過ごしてきたしずくを、ゆうきは、別に嫌いでなく、むしろ好きだった。だが、その好感には、嫌らしい優越や軽侮などがないではなかった。落ちこぼれの、嫌われ者を自覚するしずくが、ゆうきにしてみれば、低く見下ろせる、自分の優位を教えてくれる人物として便利であり、また愉快だった。
だが、そういった劣情より以前に、ゆうきは、世にすれたようにひねくれているが、しずくの愚直さや不器用さが好ましいと思っていた。それは、混じりけのないまことの親愛の感情だった。
しずくが今後どうなるのか、ゆうきはうまく想像出来なかった。とにかくしずくは、今までとは違う方向に向けて歩き出そうとしていることが、かなりの確かさと共に、ゆうきには推知されるようだった。
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