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振り切るようにして、しずくはみわこのいる応接室から、あるいは腹立たしげに、あるいは悲しげに、出ていった。母との久しぶりの再会は、娘に対し、期待の念を抱かせないではなかったが、彼女の心中は複雑で、畢竟、再会するのは失望の対象であり、隔たりを埋めようとする善意の試みのために差し伸べられたその手は、ひどく頼りなく、積極的に受け取ろうという風には思えなかった。がしかし、しずくは、みわこの唯一の血の繋がった実の娘であり、しずくの目にはたしかに頼りなく見えた母の手は、同情を誘うようであり、必ずしもいとおしく思えないものではなく、激しい葛藤があったのだった。
応接室を出て管理棟の廊下にいるしずくは、高い目線で睨むようにして気強く歩いていたが、彼女の背後に、せっかく巡ってきた機縁を意地によって損なってしまったことの後悔が曳いて離れないようであり、彼女は自分にも、他人にも、イライラしていた。
管理棟を出て中庭を通る時、しずくは遠目で、以前一悶着あった年上の、高校のバレ―ボール部のエースであるひびきを目敏く見つけ、卒然と気後れし、逃げる恰好で、遠回りして宿舎の方に向かった。軽蔑して低く見ているはずの施設の者に対して、コソコソ逃げる自分の滑稽さや薄っぺらいプライドが責め苦となって、しずくをチクチクと苛み、彼女は胸が悪くなるようだった。
……。
夜になった。すでに遅く、皆は寝入っていた。しずくと、少数の悪習のある者と、悩みのある者と、宿直の職員だけが、起きていて、個々の物思いに、遊蕩に、仕事に、かかずらっていた。
母との面会より帰ってきた後、しずくは情緒不安定で、すっかり沈黙し、ゆうきは、何か察せられることがあったようで、あえてしずくに質問するなどせず、そっとしておいた。
寝ながらしずくは、やはり脱走したいと希望的に、あるいは脱走しようと念ずるように思うのだった。しかし、また脱走するとすれば、それなりの、決して軽視することの許されないリスクを彼女は覚悟しなければならなかった。仮に逃げて、警察などに見つかって捕まれば、しずくは施設に返され、今までにないペナルティがあるだろう。ひょっとすると、彼女は更生のために、より厳しい施設に移管されるかも知れない。
けれど、しずくにおいては、もはや頼るべき身寄りもなければ、守るべき財産もなく、要するに、失うことを恐れるほど貴ぶべきものがなかった。だから、普通そのリスクのために忌避されるドラスティックな動きが、彼女には不可能ではないのだった。
そして彼女は、どれだけ彼女に降り注ぐ圧力に抗し得るのか、どれだけこの現実と取り組み、打ち合えるのか、半ば挑戦的に、半ば捨て鉢な気持ちで、思うのだった。
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