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『高橋』は、通っていた高校を中退して働きに出、十七歳という若さですでに親元から離れて一人暮らししており、彼のアパートの1Kの部屋は、仲間のたまり場となっているようだった。
しずくは、眠気がかなり昂じてきており、また数時間歩き続けた結果としての足の痛みに参っていて、高橋の気安い招きに対して、あまり抵抗せずに聞き入れ、付いていくことにした。
彼の住まうアパートは、コンビニが面する道路沿いにあり、しずくは、高橋たちとコンビニで買い物した後、いっしょになって向かった。しずくは一番安い、よく分からないメーカーのペットボトルのお茶を買い、高橋たちは、ポテトチップスや総菜弁当などの食品を買った。
高橋の住処であり、彼の仲間のたまり場であるアパートは、全体が水色で、窓枠やベランダなどが白の、洋風のアパートだった。出入口付近の壁に、『入居者募集』の看板が掲示されており、横長の建物の中央の辺の、段になっているその角には、錆びるなどしてボロボロの子供用の小さい自転車が倒れていた。古臭く、また雑草が伸び放題になっていたり、アスファルトの地面がひび割れていたりし、趣きは、あまり垢抜けたものではなく、だからこそ、高橋たちのような、荒れた若者が生活する環境としては、似つかわしいようだった。
道中度々あくびし、眠いことを露呈させていたしずくは、高橋の仲間の、坊主頭の巨漢におぶわれて、その背中で寝ていた。小さいしずくと巨漢の対比は、著しいもので、高校生の彼に対してしずくは、中学生なのに、小学生に見えた。
高橋たちには、彼等なりの流儀や思想があるようで、好ましい人間と好ましくない人間がくっきり分かれており、しずくは彼等にとって、ほとんど直感的だったが、深夜徘徊していたことや、くたびれたジャージをだらしなく着ていることや、暗い表情などから、好ましい人間と判断され、比較的円滑に受け入れられたようだった。
アパートの高橋が借りている部屋は、ひどくゴチャゴチャしていた。床には弁当の空き容器や、空のペットボトルが置きっぱなしになっており、クチャクチャの布団が、四角の部屋に対していがんで敷かれており、コタツテーブルの上の灰皿は、煙草の吸殻でいっぱいだった。
しずくはそのクチャクチャの布団に寝かされ、彼女は一瞬起き、ぼんやりした目を開けたが、すぐに閉じた。
高橋とその仲間は、全員で五人であり、その内三人は、床に座って煙草を吸ったり、買ってきたお菓子を食べたり、飲料を飲んだりしだしたが、残りの二人(一人はしずくを背負った巨漢)は、下っ端なのか、高橋に顎で指示され、キッチンのシンクにたまっている食器を洗ったり、ゴミ拾いをしたりしだした。
「そういえば」、と高橋。「コイツの名前、聞いてなかった」
「しずくって言ってたよ」、と金髪で化粧の濃い女子が、キーホルダーがどっさり付いたスマホをいじりながら答えた。「来る時に聞いた」
「しずくか」、と高橋は確認するように呟いた。
「うん」
「散歩って言ってたけど」
そう言って高橋は紫煙を上げた。部屋では、相変わらず子分の二人が孜々と片付けをしていた。一つの手狭な空間に、落ち着いて話をする者たちと、せわしなく動き回る者たちが併存しており、部屋の模様は奇妙だった。
「よっぽどの変人か、嘘つきか、どっちかだね」、と金髪の女子。
「十中八九、嘘だろ。変人にはまず見えないし」
「深夜徘徊してたのに」
「何か事情があったんだろ」
「この子をどうするつもり?」
「こうして恩を売ってやったんだ。お返しして貰うつもりさ」
高橋がそう言うと、女子はスマホより顔を上げ、彼をじっと見た。
「仲間にするってこと?」
「コイツが望むなら」
「ウチらのこと、怖がって嫌がると思うけど」
「行く当てがあるなら断るだろうが、さて」
そう言って、高橋は短くなった煙草を灰皿に捨てようとしたが、一杯なのを見、「おい」、と居丈高にひと声巨漢にかけると、彼はその巨躯に似合わず、畏まった態度で灰皿にたまった煙草を取っ手ゴミ袋にひっくり返して空にし、元に戻した。
しずくはスヤスヤと寝息を立て、安眠しているようだった。
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