***
未明に眠ったしずくが目覚めた時、空はもうすっかり明るく、時間はお昼に近かった。
周りがゴミなどで散らかっていることや、普段彼女がほとんど嗅がない煙たい煙草のにおいの漂っていることに違和感を覚えながら、しずくは重たい目蓋を開け、低い唸り声と共に起きたが、自分がまるで見知らぬ場所にいることに気付くまで、少し待たないといけなかった。
「起きた?」、という女の声がした。しずくの聞き覚えのない声だった。
横たわるしずくは、低い視点から、一人のあぐらをかいている女子学生の姿を見上げた。
彼女の髪は金色で、耳はピアスが複数空いていた。鋭い目付きの目の縁は黒く、しかしそれはクマなどではなく、メイクのようだった。ドクロが大きくデザインされたTシャツに、ジーンズという恰好の彼女は、『あきら』という名だった。あきらの隣には、彼女と似た風貌の女子がいたが、ずっとスマホをいじくっていた。
しずくは体を起こし、布団の上に座り、あきらたちと対面した。よく見えるようになったしずくの視界では、彼女が昨夜買ったお茶のペットボトルが、まだ中身が残った状態で転がっており、部屋の隅で、昨夜おんぶしてくれた巨漢と、彼と共に部屋の片付けをしていた小柄な男が仰向けに寝ており、いびきがよく聞こえた。
「あの人は?」、としずく。
「あぁ、高橋? アイツは仕事」、とあきら。
「仕事? けどあの人、寝てないんじゃ」
しずくは昨夜コンビニで高橋たちがたむろしているところを回想した。高橋が徹夜で仕事に行ったのかと思うと、しずくには奇異だった。
「あぁ、ショートスリーパーってやつ? キャハハ」
あきらは言い、カラカラと笑ったが、「嘘」と続けた。「ちゃんと寝てるよ。心配すんなって」
しずくはうまく同調出来ず、ぎこちなく口角を上げると、転がっているお茶を拾い上げ、一口飲んだ。
あきら曰く、高橋は土木工事の現場作業員として働いているそうで、昨日は、夕方仕事より帰宅した後、サッと食事して寝、夜中に起き出して、あきらたちと遊んだそうだ。彼等は同じ高校の仲良し同士で、高橋が中退して働くようになった一方で、あきらたちはまだ在学しており、彼等においては、互いに集まって遊ぶためのすり合わせが面倒のようだった。
納得が行ったしずくに対し、「アタシらは」、とあきらは言った。「基本、いつも一緒で、ここが――高橋の部屋なんだけど――アタシらのたまり場」
「これ見て、可愛い~」
しずくとあきらの対話など知らないといった風に、あきらの隣の女子がスマホを見せてきた。しずくとあきらに見えるように差し出されたその画面には、動画投稿サイトの動画が流れており、あきらたちと同齢くらいの女子が、平成の頃のギャルを模倣し、学校の制服の上に袖がダブつくほど長いカーディガンを着たり、薄褐色の髪を盛ったりしていた。
あきらは即応的に共鳴し、二人して興奮して「ヤバい」を連呼したが、しずくは溶け込めずにポカンとしていた。
しばらくして彼女等のやり取りが一段落した時、あきらはしずくの方に向き直り、「それで」、と落ち着いた口調で言った。「しずく、だっけ? これからどうする?」
「……」
しずくは、半ば意識的に遠ざけて考えないようにしていた疑問を提示され、答えに窮した。
「行くところがあるのなら、わざわざ引き留めないけどさ、行くところがなくて困ってるのなら、仲間に入れてやってもいいよ。高橋も、アンタがこれからどうするか気にしてたし」
しずくには奇妙だった。一人で生きていこうと思って単身出てきたはずなのに、すでに誰かのもとに転がり込んでしまっている。高橋たちに付いていっていいものかさほど迷うこともなく、ただ夜半の重い眠たさにやられて、無意識に随行してしまったのだった。しずくは、意志の強さもなければ、警戒心も薄い自分に嫌気が差すようだったが、致し方ないと諦念する部分があった。
高橋たちは、しずくにとって、今まであまり接したことのない類の人種であり、いわゆる社会のエリートとか学校の優等生とは違う界隈の者たちであるように直覚され、彼等のパンキッシュで気ままなルックスは、刺激的過ぎていささか怖かったが、不思議と打ち解けられるように、彼女には思われた。
だから彼女は、全幅の同意はないけれど、仲間に入ってみたいという風に、あきらに対して回答したのだった。
***