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はっきりした意志でなく、迷いや気後れと共に、あきらに対し、仲間に入ると伝えたしずくだが、彼女は高橋の部屋でぼんやりと過ごしながら、何かむなしい感じや違和感を覚えていた。彼女には行く当てがなかったし、くたびれていて、たまたま漂着する格好で来たけれど、この狭い雑然と、また殺伐とした部屋が自分の人生の軸になるとはあまり思えなかった。だが、ひょっとすると、まだ慣れていないというだけで、その内馴染んでいくのかも知れないと予想はできた。ここに根を張って伸びていく可能性は否めなかった。
しかし早くもしずくにおいては、今頃施設ではどういうことになっているのだろうと、その状況が気になっていた。すでに時間はお昼であり、しずくがいなくなったことはきっと発覚し、施設中にあまねく知られているだろう。職員たちは再三に渡る違反行為にうんざりし、児童たちは、ゆうきなどの一部の親しいものを除いて、愚劣と蔑んで冷笑していることだろう。かやこが心配してため息する姿が、ゆうきの優しい心痛が、ひびきの嘲笑が、まざまざとしずくの目に浮かぶようだった。
しずくのこのイメージには、郷愁の色合いが濃く滲んでいた。彼女は、まだ地続きで見えている近い背景を、乞うように甘えた、また、罪悪の負い目に染まった眼差しで、感傷的に振り返っているのである。
「家出したって言ったけどさ」、とあきら。「母親は心配しないの?」
しずくは彼女に、彷徨してきた事情を話したのだった。
「しないです」、としずく。「あの人、自分のことで手一杯なので」
部屋でしずくはあぐらをかいて座り、あきらは寝そべっていた。後の者は、アルバイトのために出払っており、窮屈だった1Kの部屋は、その時はすっきりしていた。
「言っとくけど、アタシらは居所をシェアしてやるっていうだけで、食事の面倒とかは見れないよ」
「お金、ですよね」
シリアスなことに言及するのにふさわしい厳粛な調子でしずくが呟いた。しずくの手持ちの金銭は、施設のお小遣いをチマチマ貯えた、雀の涙ほどのものだった。つかさの恋人の男の拾ったリュウゼンコウという代物が、見た目は不格好なのに、何十万円の札束と交換される骨董品買取店での模様が回想され、しずくは、都合のいい妄想を膨らませはするけど、そういう宝物探しのために冒険に出る勇気も知識も胆力も欠いていた。
「中学生だとバイトは無理だしね」、とあきら。
「……」
しずくは困り果て、苦虫を噛み潰したような面持ちで下唇を噛んだ。
「使いっ走りでもいいと思うけど、とりあえずは高橋に相談してみなよ。夕方には帰ってくるだろうからさ」
あきらに提案され、納得したしずくにおいて、すでに高橋のイメージはおぼろげになっていた。彼女が彼を見たのは深夜のコンビニの店舗前が最後で、以後は眠気に負けて寝てしまっていたのである。彼については、怖いイメージがあるようだった。十代半ばですでに働いているというそのことが、彼の像をひどく大人びたものにし、しずくは、彼我の間の激しいギャップに引け目を感じているのだった。
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