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ひとは変化に際会すると、順応しようと試みる。個々人によって順応の早さは違い、すんなり行くものがいれば、いつまでたっても停頓しているものがいる。
しずくの場合、特に早いわけでもなく、心の中に疑惑が常に渦巻いていたけど、高橋たちの笑い声に囲まれている内に、段々と1Kの部屋の居心地がよくなってきた。最初はぎこちなくて不備のあった掃除なども、慣れてクレームや小言の入ることがなくなり、しずくは、高橋たちと遊ぶようになった。彼はまだ十七歳で車の免許が取得できないものの、二輪の免許は取得でき、125CCのスクーターを所持しており、しずくは買い物の手伝いとして後席に二人乗りさせられることがあったし、ただ少し涼しい夏の夕べを夕涼みに走るためだけに走ることもあった。
要するに、しずくは、割合うまく順応したのだった。
大きい満月の見える蒸し暑い晩、しずくは高橋たちに誘われて、川辺まで行き、そこで手持ち花火に興じた。袋入りの花火が用意されたが、火の粉が激しく噴き出すすすき花火が人気で、線香花火などは辛気臭いとして余りがちだった。
河川敷の一隅に、しずくたちはおり、そこだけ花火の火でポッと明るく、また煙くさかった。たまに散歩などで通りすがる人たちは、高橋たちの様子を見て、どこか訝るようであり、迷惑がるようだった。
高橋やあきらが思う様、次々と花火に火を付けて歓声を上げて楽しむ傍らで、しずくはいささか遠慮がちにしゃがんでおり、彼女は、余った線香花火を手に、先端のつぶらに膨らむ火を見つめて、しっぽりした気分だった。(彼女の隣では、過日彼女を背負った体躯の大きい男が、同じようにその大きい体に相応しい大きい手で、線香花火を摘まんでいたが、あるいは彼は、しずくに対して好意を持っていたのかも知れない。)
「しずく」、と高橋が不意に呼び、しゃがんでいるしずくは顔を上げ、その瞬間に、線香花火の火が落ちて消えた。
「線香花火ばっかりやってないで、これやれよ」
高橋はそう言って、しずくにすすき花火を差し出し、彼女は受け取った。彼はライターで花火の先端を炙り、するとその内、シューと火花が噴き出した。
激しい火花に、しずくの驚いた顔が照らし出され、彼女は上半身だけ、慣れない花火のために退いていた。
高橋はしずくのその背中を笑顔で押してやり、しずくは、何だかドキドキしてくるようだった。
「すっかりおれたちに慣れたなぁ、お前」、と高橋。
「そう、ですか?」、としずくは目だけで振り返り、返した。
「居心地、悪かったりしない?」
あきらがしずくのそばに来、二人の間に割って入った。
「悪くは、ないです」、としずく。
「そう、よかった」
「何か困ったことがあれば、おれに言えよ。多分、助けてやれると思うからさ」
不良たちの温かい言葉が、しずくには沁みた。彼女はその時初めて、ひとと一緒にいることの充実を、人間関係が懇ろであることの安らぎと喜びを、実感するようだった。
彼女はたしかに幸せなのだと自信と共に感じたが、同時に、この感情が、みわことの家庭に、また、ゆうきやかやこのいる菊花学園にずっとあれば、離れることにならずによかったのに、と遺憾に思ったのだった。
けれど、しずくのその時の幸福感、充実感が、明るい衣となってそういった負の感情を覆い隠し、彼女は端的に愉快だった。
しずくのことを好いているらしい巨漢が、兄貴分の高橋に遠慮して少し離れ、孤影悄然として、線香花火を大きい手の指から吊るしていた。
しずくの持っているすすき花火の赤い火花がやがて弱まり、消えた時、しずくは寂しさと安堵感のいりまじった感情になったが、同時に、異変を感じてハッとした。
「ちょっといいかな?」
聞き慣れない男の声が聞こえた。
高橋、あきら、その他の仲間たちはじっと押し黙り、また、険しい表情になって、訪問者を険悪に迎えていた。
濃い青の帽子、ズボンと、ライトブルーのシャツ。帽子には、金色の花の刺繍があるようだった。彼は複数人と共におり、懐中電灯で高橋たちを照らしていた。
警察官だった。
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