世の中、理不尽だと思うことなんて多々ある。社会の闇によって自殺に追い込まれ、死んだと思っていたら子供になっていて、それでその子供が、あの『うずまきナルト』で、今現在、里の大人たちから冷たい視線を向けられている。
「あぁ、世の中、不公平だってばよ」
アパートの一室、布団から見る朝日を見ながらぼーっと呟く。何をする気力も起こらず、着替える気力もわかない。
「アカデミーは……今日は休みか」
別に通いたくはないし、通ったところで俺なんかが忍になることを、だれも歓迎しないだろう。それに、
「あぁ、懐も寂しいってばよ」
愛用のがま口財布を開けば、そこには殆んどお金がないもうこんな生活が
「三代目のじいちゃんは仕事で他里に行ってるみたいだし、こんなこと言えるわけないってばよ……」
いつもなら二週間前のあの日、何時ものように三代目のじいちゃんが生活費を振り込んでくれて、普通に生活できていた。が、どういうわけかお金が振り込まれておらず、確認しようにもじいちゃんはいま、里にはいない。
仕方なく手持ちのお金をどうにかこうにかやりくりし、酷いときには茶碗一杯の米とふりかけだけで過ごしたこともあったが、それももう限界だった。
「はぁ……来月には卒業試験だってのに、こんなんじゃまともに術も発動できねぇってばよ」
空腹でまともな考えも浮かばず、家にいたところで何にも解決策があるわけでもなし、仕方なく気だるげに着替えたオレは、当て所なく外にでる。
とはいっても、外にでたところでいい気持ちにはなれない。原作のナルトと違っていたずらはほとんどまったくやってなかったとはいえ、周りの大人たちからの視線は冷たく、スーパーに入っただけで暴力的に追い出されることもよくあることだ。
(ま、金がないんだからスーパーにも入れねぇし、食料を手に入れる手段も、釣りぐらいか)
里にある演習場近くの川にたどり着くと、オレは慣れた手付きでちょうど良い長さの木の枝に自家製の毛鉤付きの釣糸を取り付けて川に放る。前世と違って川釣りしても遊漁券が要らないというのは少しだけありがたかったが、釣れるかどうかは魚次第だ。
案の定、数十分放っても釣竿にはピクリとも当たりが来ない。
「……」
釣りをしながらチャクラを練る。とはいえできるだけ小さく、小さく、圧縮するようにチャクラを練る練習であり、原作のナルト同様に人より大きいチャクラを、可能な限り鍛えるこの修行は、ただでさえ動かないでいい釣りをしている最中には最適だった。
が、そうも簡単に行かないのが、このNARUTOの世界というわけで、どこからか石が投げつけられるのを振り返らずに掴んで投げ返す。
案の定、まさか投げ返されるとは思ってなかった犯人の顔面に直撃したようで、ひっくり返ってのたうち回る音が聞こえてきた。
「こっちは釣りの最中だってばよ……騒ぐならどっか行ってくれ」
その一言に面白くなかった連中が襲ってこようとしてきたので、オレはため息と共に圧縮していたチャクラを解放した。
チャクラというのはエネルギーのようなものだ、それがいきなり何もないところから巨大なものが現れれば、その威圧感はチャクラ感知ができる忍には恐怖そのものだ。
案の定、連中の一人が感知タイプだったようで、そのあふれでるチャクラのエネルギーに腰を抜かした。
「はぁ、これやると魚も逃げちまうから、意味なくなっちまったってばよ」
仕方なく枝から釣糸を回収してポケットにしまうと、オレは今日何度目かわからないため息を吐きながらその場から離れる。
もはや食料の確保も諦め、仕方なく家路に戻ろうと商店街の裏手を通る。通りを歩いたら大人たちからのリンチや冷たい視線を食らうのは分かりきっているからだ。
「あ……やば……」
が、裏道を歩いてる途中、突然鳴り響く頭痛と目眩に立っていられなくなった。
仕方なく壁を背に座り込むが、それでも目眩は収まらず、さらには動悸と息切れで目が霞んでいく。
そして少しの時間も経たないうちに、オレは意識を喪失した。
目が覚めた俺が真っ先に見たのは、少なくとも病院じゃないどこかの家の天井だった。
「あ、気がついたんだ」
と、まるで示し合わせたようにドアが開き、聞こえた声に顔を向ければ、
「えっと……山中いの、だっけ?」
木の葉の猪鹿蝶の猪、情報伝達のプロの山中家の直系の娘であり、同じアカデミーのクラスだった山中いのだった。
「そうよ。アンタ、うちの裏側に倒れてたんだから。たまたま、私が通り掛からなかったら一夜明かして凍死してたわよ」
「……そっか、そうだったんだ」
「はぁ、で、なんであんなところで倒れてたわけ?」
いのの問いに答えようと口を開く前に、お腹が音を立てて答えた。
「……まさか、なにも食べてないの?」
「……食料を確保しようと釣りしてたら、邪魔されて釣りどころじゃなかった」
「釣りってあんた……そんなことする前にスーパーかなんかでご飯を買いなさいよ」
いのの呆れたような答えに、オレは無性に腹が立った。
「……無いんだってばよ」
「は?なにが」
「だから、金が無いんだってばよ!!保護者の三代目のじいちゃんから、二週間前にいつものように振り込まれてなくて!!残ったお金でなんとかやりくりして!!それでも2日前に食料も金も全部すっからかんに消えちまったんだってばよ!!」
声を荒らげ、どうにもならない現実を怒りに任せて理不尽に彼女にぶつけてしまったことを、口にだしてようやく気付いた。
「……ごめんってばよ」
「え、その、私の方こそごめん……軽はずみに言う言葉じゃなかったわ」
「謝らないでくれってばよ……余計空しくなるから」
お互いに気まずい空気にいたたまれなくなり、オレは見かねて咳払いを1つする。
「あー、それで、どうかしたってばよ」
「うん、起きたのならとりあえず熱を計るようにって」
そういって差し出した体温計で軽く計ってみれば
「39度……完全に熱ね」
「……悪いってばよ。移したらまずいし、直ぐに帰る……」
ってばよ、と良いながら立ち上がろうとするが、体は言うことを聞かずに倒れ込み、それを慌てていのが止めてくれた。
「無理しないの。アンタ、一人暮らしなんでしょ?帰ったところでマトモに食事もないんでしょ?」
「けど、オレがここにいたら、山中家にも迷惑が」
「それで道中倒れて病院に運ばれたなんて聞かれる方が目覚めが悪いわよ。とにかく、病人はさっさと寝る!!」
布団に押し倒され、無理矢理横にさせられたオレは、「お母さんにお粥作って貰ってくるから、安静にしてなさい。逃げるんじゃないわよ」というお言葉を聞く他がなく、熱による疲労から意識が混濁してきた。
(あ、やば、これ眠……)
そして彼女が帰ってくるのを待つ間もなく、俺の意識は完全に眠りに落ちてしまった。