穢土転生した……された?母クシナと会ったその晩、オレは久しぶりに戻った自分のアパートの屋上で物思いに耽っていた。
母ちゃんはなんでも三代目のじいちゃんやダンゾウとお話があると、それはそれはとても素晴らしい笑顔で火影屋敷に残った。おそらく明日の朝刊は荒れることになるだろうという予感があった。
『どうしたナルト、お前らしくもなく悩んでいそうだな』
「どういう意味だってばよ、九喇嘛」
生まれてからの付き合いの相棒の言葉に苦言で返す。
「いやさ、これからどうしようかな、って思ってさ」
正直、オレがうずまきナルトだからといって、必ずしも忍になる必要があるのかと、そんな馬鹿らしいことも考えた。
人柱力として自衛のためにチャクラの使い方を学ぶとかはわかる。けど、今の腫れ物を扱うような木の葉の里の中で忍になったとして、それで原作のナルトのように報われるかと聞かれたら分からないとしか言うしかない。
「別に、火影になりたいとも思ってないしさ、正直、忍ほど報われない世界はないだろ?」
『……確かにな、ある意味忍ほど、進んで不幸になりに行く生き様はねぇだろうな』
「けどさ、別になりたくないっても思えないし、里を抜けて一人で自由気ままに、なんてのも、今は少しだけ違う」
いのやイルカ先生、そして母ちゃんのように、オレの事を繋いでくれている存在がいるからだろ
もしあの日、いのに助けられてなかったら、多分オレはどっかで里を抜け出して一人で逃げていただろう。
『オイ、ナルト、結局お前は何に悩んでるんだ』
「何がやりたいのか、分からないってことだってばよ。九喇嘛にはねぇのか、やりたいこと?」
『……聞かれてみれば、なんも思い付かんな。とはいえ、やりたいことはなくても、やりたくないことはある』
「へぇ、どんな?」
『戦い、つまりは戦争よ』
意外な答えにオレは眼を丸くした。
「意外な答えだってばよ、九喇嘛はてっきり、憎い人間は皆殺しにしてやる~とか考えてるのかと」
『人をなんだと思っていやがる。オレは基本的に戦うのも戦わされるのも大嫌いだ、つか、正確には悪意を向けられる行為だが、九尾であるワシに悪意を向けるのなんざ、戦いぐらいなもんだろう』
「ごもっとも……」
たしかに、九喇嘛という化け物に進んで悪意を向けるのは、それこそ『暁』のようなテロ集団か、もしくは九喇嘛を戦争兵器のように扱ったかのどちらかだろう。
「なら、オレに力を貸すのもあんまりだったりするのか?」
『アホか、認めた奴に力を貸すのと、勝手に兵器みたいに扱わされるのじゃ話が全く違うだろうが』
「こりゃまたごもっともだ」
今日は本当に色々とあった、いや、ありすぎた。母ちゃんに二代目と会ったり、こうして九喇嘛に正論突きつけられたり。
『ナルト、こいつはお前なんかよりずっと長生きしてるワシからの忠告だ』
「忠告?」
『あぁ、全てを自分一人で決めるな。あのうちはマダラも、ワシを使って柱間と暴れたのも、誰にも何も相談せずに一人で決めた、だから世間からはマダラが暴走したと言われている。が、真実は少し違う』
その言葉はどこか懐かしいものを見るような、そんな雰囲気を感じた。
『マダラにとって転機となったうちはの石碑、そこになんと書かれていたのかはワシも知らんし、既に壊されて無くなったから真実を知るものはもはやおらん。が、マダラにとって本当に必要だったのは、自分のことを真に信用し、隣で支えてくれる同胞……うちはの者だ』
「そうなのか?」
『あぁ、当時のマダラはワシから見てもうちはの中では頭一つどころか幾つも抜きん出てる存在だった。それと真に横に立てる人間は、奴の弟ぐらいだったろうな。里を作る前に二代目が討ち取ったと聞くが』
そこら辺は当人に聞け、と相棒は言って話を戻す。
『マダラは言っていた、腸を見せ合うことなどできやしない、とな。事実ではあるが、同時にそれは自分一人で全てを決め、他の誰をも必要としないということ。それでは真の望みなどは手に入るまい』
「九喇嘛、意外とマダラのこと気に入ってたのか?」
『誰が、儂のことを操って暴れまわった大天災野郎のことを気に入るか!!ふざけたこと抜かすと暴れ散らかすぞ!!』
本気の本気で激怒する九喇嘛に、いったい何をやらかしたらここまで言われるようになるのか逆に気になった。
『ともかく、だ、折角今、お前には相談できる相手が居るんだ。扉間の阿呆だろうが、メスゴリラのクシナだろうが、最近お前に付きまとっとる小娘だろうが、相談してみれば良かろうが』
「……サンキュー、九喇嘛」
素直に礼を言うと、九喇嘛はフン、一つ鼻息を鳴らして眠りに入った。
「で、あのバカ狐の忠告を受け入れて、私に相談した、と」
「か、母ちゃん……落ち着いて、落ち着いて」
翌朝、いつの間に帰ってきていた母ちゃんに九喇嘛の言うとおり相談したところ、九喇嘛の『メスゴリラ』発言を聞いたことによってそれはもう大変素晴らしい笑顔でぶちギレていた。
なお穢土転生特有のひび割れとかは変化の術を使うことで生前とほぼ同じになっていて、遠目からでは絶対にそれだと気付けない完成度だった。
「ふぅ、まぁ、ナルトがそう思うのも無理はない、か」
お茶を一口飲み、少し考えながら答える。
「まず大前提として、私はあくまでも死んでる人間、だからナルトに対してああしろ、こうしろって、事細かに言うつもりはない。けど、母親としての一般論としての言葉を言うと」
「言うと?」
「別に忍にならなくても良いんじゃない、ってこと」
なんともあっけらかんと宣う母ちゃんに目が点になる。
「あら、意外かしら?」
「意外っていうか、てっきり父ちゃんも母ちゃんも忍やってるんだから、やれっていうものかと」
「言わない言わない、いや、ナルトが本気で忍をやるっていうのなら応援はするってばね。けど、別にあんな血生臭くて、息が詰まる仕事、やらなくて良いのならそれに越したことはないってば」
母ちゃんはそう言って笑いながら続ける。
「私は元々九尾の人柱力としてこの里に来たし、ミナトもミナトで火影になるって目標があったから忍の道を選んだだけで、そうじゃなかったら、ミナトはホント、忍向きの性格じゃないからね」
「そうだったのか?」
「そうだったのよ。どちらかと言えば学者とか研究者側の人間よ、ミナトは。まぁ、自来也様に鍛えてもらったお陰で、若くして四代目火影になってたけど、ミナトの研究資料を見たら分かるけど、どれもこれも専門の学者か、っていうくらいに緻密に細かく研究してたわ。それこそ、抜け忍になる前の大蛇丸様とも、一時期は考古学関連で共同研究をしてたぐらいだし」
まさか過ぎる繋がりに唖然としたくなるが、それすらも母ちゃんにとっては懐かしく面白いものだったのだろう。先ほどまでとは別の、優しい華やかな笑みを浮かべている。
「私も昔、ミナトと良く遺跡調査に向かったっけ。まぁ、その後に戦争になって、調査に行けたのはそれっきりだったけど」
「……大切な思い出なんだ」
「そうね。だからナルト、貴方が本当にやりたいことをやっていいの。それが忍でも、忍じゃなくても、里に居ても里を飛び出しても、人柱力にもやりたいことを叶える自由はあるはずよ」
私がそうだったんだから、とウィンクしながらそう答える母ちゃんは、どこか楽しげで、オレの親だってのに少しだけときめいてしまった。
「あ、ナルト、照れてるでしょ~ほら、ほらほら~」
「ちょ、やめ、母ちゃん……」
そう悪戯してくる母ちゃんから逃げながら、少しだけ前に向かうきっかけができたような気がした。