再び目を覚ましたオレが見たのは、ベッドの横に椅子で座ったいのと、その父親らしき優しげなイケオジといった感じの大人だった。
「ナルトくん、だね。」
「えっと、アンタは」
「オレは山中いのいち、ここにいるいのの父親だ。そして、木の葉の忍として情報部に所属している」
情報部、その一言にオレはゆっくりと起き上がり、視線を正面に向けた。
「情報部の人間が、オレみたいな里の嫌われものに何のようだってばよ」
「ちょっとナルト」
「いや、良いんだいの。ナルトくんの反応は正しい。普段から自分に冷たい視線を向けてくる大人が、そのなかでも里の全てを調べる情報部の人間が目の前にいるんだ、警戒しないのが無理がある」
オレの鋭い視線を仕方ないと受け入れる目の前の男に、オレは少しだけ毛羽立った気持ちが収まるのを感じた。
「……それは、俺の父ちゃんを死なせた後悔からかってばの」
「ナルト?」
「……そうか、君は知っているんだね。自分の父親が誰かを」
俺はコクりと頷く。
「四代目火影……波風ミナトとうずまきクシナ、だろ?」
「え?」
まさかの俺の言葉に、いのは思わず驚いた声をだした。
「よく調べたね」
「たまたま、三代目のじいちゃんの書庫のアルバムを見つけて、そんで火影屋敷の書庫で過去二十年ぐらいに所属していた忍の一覧で、うずまきの名前を持つ人はうずまきクシナって人だけだったってばよ。そんで、その人の記録を調べたら四代目と一緒の日に亡くなってて、その日はオレが産まれた日で、過去に九尾ってやつが暴れた日でもあった」
「いやはや、そこまで調べたのか」
まるで驚いたように答えるいのいちに、いのはオレと父親に視線を交互に向けていた。
「たしかに後悔がなかったと言えば嘘になる。オレたち……シカクもチョウザもミナトとクシナの同期に当たるし、少なくともオレはミナトのことを親友だと思ってた」
「……そっか」
「だからうずまきの名字と、その特徴的な口癖ですぐに気付いたよ。君がミナトとクシナの子供だってことにはね。けど、里の決定もあって、君を他の大人達から守ることはできなかった」
諦めにも似たようなその言葉と共に、いのいちさんはオレにすまなかった、と頭を下げた。
「……別に、いのいちさんが悪いわけじゃないってばよ」
「そうかもしれない。だがこれは、親友の息子を今の今まで助けられなかった、不甲斐ない大人としての謝罪だ……受け取っては貰えないだろうか」
「……分かったってばよ」
不器用そうに頭を下げるいのいちさんに、オレは何も言えなかった。
「いのから少しだけ話は聞いたよ。その事についてはあとでゆっくりと話を聞かせて貰うとして、とりあえず、お腹が空いただろう?熱もあるというし、お粥を作ったんだ、食べられるかな」
その問いの答えはお腹が鳴る音で証明され、オレは気恥ずかしさに顔を埋め、そしてどうしてか溢れる涙を堪えきれなかった。
「ナルト……アンタ」
いのの言葉に何も返せず、それを見たいのいちさんが、まるであやすように優しく頭をポンと撫でた。
「え、その、……ありがとう、ございますってばよ」
ナルトとして生きるようになって、三代目のじいちゃん以外から初めて優しくして貰えて、それが、少しだけ嬉しかった。
ナルトくんといのが眠りにつき、それを優しげな表情で眺めながら、山中いのいちは内心怒りでどうにかなりそうだった。
お粥を食べ、彼にここ二週間の事を軽く聞き、そしてその内容は明らかに大人でもおかしいとわかる内容だった。
(あの三代目様が、ナルトくんの口座にお金を入れ忘れて他里に向かうなどありえない)
情報部の人間として、一人の忍として、三代目様とは交流が深いし、三代目様がナルトくんの保護者をしていることは公然の秘密のようなものだ。
ナルトくんの口座に入金しているお金は、そもそも彼の父親である四代目の遺産であり、三代目はそれを成人するまで代わりに生活費として入金しているだけに過ぎない。
それも一月程度なら余裕で暮らせるほどの金額であり、そもナルトくんはあまり無駄遣いをしないため、一ヶ月半ほど保っていたが、それにしたっておかしいのは事実である。
(たしか今夜には三代目様は里に戻っていらっしゃるはず)
本来ならお疲れのところにこんな話をするべきではないのかもしれないが、事はそんなことを言っていられる場合ではない。
そう思い火影屋敷の執務室へと向かえば、ちょうど良く三代目様と、そして同期であり相棒の一人である奈良シカクがその場に居た。
「失礼します三代目様」
「いのいちか、どうしたんじゃこんな時間に」
「おまえ、今日は珍しく早上がりだって聞いたんだが、どうしてこんなところに?」
二人は不思議がって首を傾げていたが、俺が報告した内容にその表情をそろって怒りのマークが出そうなほどに不機嫌になっていた。
「なるほど、儂がナルトに入金してる金が、何者かによって着服されていると」
「どうやら、とんだナメた野郎がいるようだな」
「シカク、直ちに調べて貰えるな?これは儂や四代目に対する背任行為に等しい所業だ」
「分かりました。ところで、ナルトが自分の両親について知ったということは、九尾についても」
そういってシカクがこちらに視線を向ければ、
「おそらく気付いてるだろうな。あえて口にしなかったところをみると、その事も配慮してくれてるんだろうな」
「まったく、下手な大人よりも大人な対応をしやがる」
「そうじゃのう……いのいち」
三代目様はそう言うと俺の名前を呼んだ。
「可能であればしばらく山中家でナルトを保護してくれ。名目は……病人を勝手に自宅に戻して悪化されては困るし、なにより今回の入金横領の件で下手するとナルト自身に刃が向かうかもしれないからの、諸々含めての保護ということじゃ」
「わかりました」
「それから……ナルトから聞かれたらでいい、ミナトやクシナがどんな人間だったか、おまえから見た二人について、教えてやってくれ」
その言葉に俺は深く頷き、そのまま部屋から去っていく。
「しかし、ナルトくんがあの二人の子供、か……」
あの優しく、モテて、それでいてかなりのイケメンで、忍術に関しても天才というに他ならない才能を持つミナトと、その狂暴さと苛烈さで、同期の男子達をそろって物理的に血祭りにあげたクシナの息子が、まさかあんな大人しい少年になるのだから、血は似なかったのだとつくづく思う。
「ちょうど良いし、少しだけナルトくんのことを試してみるか」