「サスケ、助けてくれ」
卒業試験から二日、演習場の片付けとか班決めとか色々な事があると五日の休みを貰えたというのに、俺は本当なら来たくないが背に腹は変えられず目の前の男の家に上がり込んでいた。
「助けろってお前、その前にその顔はどうした」
サスケがドン引きしながら言うその台詞は予想できるものだ。
「なんていうか、全身真っ白に燃え尽きた感じで、それで病人みたいな隈とげっそりと痩せこけた頬って、まるで死人だぞ」
普通なら絶対に帰れと追い返すはずのサスケが、俺の顔を見た瞬間ドン引きしながらも家の中に入れるという異常事態を引き起こすほど、今の俺はヤバかった。
「いったい何があった?」
ストックしていたであろう麦茶を差し出され、一口含んだ瞬間に安堵して気絶しそうになるのをなんとか堪える。
「……サスケ、お前フウのことは当然知ってるよな?」
「あ、あぁ、たしかあの卒業試験の霧と幻術をやっていたやつだな。しかも俺達二人と同じ班になるとかいう」
「……アイツが俺の家で暮らし始めた」
その一言にサスケの表情が呆れたようなものに変わるが、
「それでこの二日、風呂にトイレに寝る時に、ずっとついて来て貞操を脅かされそうになって、寝れてない」
「……本気か?」
流石のサスケもその意味に気付き、頬をひきつらせて同情していた。
「本気だよ。しかも厄介なことにどういうわけか母ちゃんに何故か気に入られてるんだよ」
「……お前、たしかいのとヒナタからも好意受けてたよな?」
「二人からのフウの態度の追求も辛い……俺自身が何かしたわけじゃないのに、ただ敵として倒そうとしただけなのに」
当然いのとヒナタも母ちゃんから気に入られてるわけだが、なんていうか、フウに対してのそれは普通のそれとは少し違うように見えた。
「いのはまだ普通に問い詰めてくれるからいいんだよ。けどヒナタは……なんていうか、こっちの不手際なのに自分が悪いんだって自虐する感じで、こう、居たたまれないというか」
「そ、そうか……」
「なぁサスケ、俺、もうどうしたらいいのか分かんなくなってきたってばよ」
もう思考が悪い方悪い方に向かっていってる気がするが、どうしてもどうすればいいのかまったく考え付かない。
「……とりあえず寝て思考を戻せ」
「……寝たらどこからかフウが現れたりしないよな?」
「安心しろ、ちゃんと追い返す」
そう言ってどこからか客用の布団を取り出しては俺を無理矢理に寝させ、あっという間に意識が落ちていった。
「たく、面倒をやりやがって」
目の前でナルトが意識を睡眠に落としたのを確認しながら、俺は呆れともなんとも分からない感情と共にため息を漏らす。
「……こいつが同じ班になる、か」
そう言いながら思い出すのは卒業試験のあの時、ナルト達とあの霧を対処する際の事だ。
あの時、俺はナルト達が巻物を回収するための囮側に配置されたが、正直言えば、俺がナルトの代わりにそちら側に行きたいと思っていたくらいだ。
(とはいえ、ナルト以外のメンバーとのことを考えたらナルトに任せるのが適任だったのも否定はできないが)
少なくともあの四人が、俺かナルトかどちらが連携を取りやすいかと聞かれればまず間違いなくナルトと答えるのは分かっていたし、ナルトにリーダーとしての素質があるのは俺としても理解できる。
だから表向き文句は言わなかった。言ったところで我が儘、作戦前に雰囲気を悪くするのは論外だとは理解していたからだ。
(だが、ナルトはそこも理解してやがった)
作戦直前、ナルトは俺に話かけてきて、俺が本当は巻物のほうに行きたいと思っていた事を看破していた。
俺もその事を否定はしなかったが、不満げな表情が出ていると自覚したうえで役割だと理解しているとは言った。が、しかしナルトはそんな俺に頭を下げた。
何を、と俺はナルトに驚き聞き返せば、奴は俺が本当は不満に思ってること、しかし囮メンバーの中で一番強く、実力的に頼れるのが俺しかいないこと、もっと言えばハンデのある先生達とはいえ、中忍である彼らに食い下がれる実力があるのは俺か自分しかいないし、元とはいえ里の嫌われものである自分を、他のクラスの連中が心から信頼はしてないだろうと伝えてきた。
(あいつは、俺以上に孤独だった)
アカデミーに入学した直後から、俺はナルトのことを見てきた。俺と同じく一人でいることを好み、ほとんど誰とも会話せず、他人と積極的に関わろうとせず、しかしうちはである俺以上に里の全員から嫌われていた。
ある時、俺はアイツが他のクラスの、それも学年が上の連中に絡まれているところを、いや、理不尽に暴力を振られているのに、一切抵抗もなにもしないで受け入れてるところを目撃した。
流石にムカついたので追い払えば、ナルトの表情は空虚でなにも映しておらず、復讐相手である兄以上に冷たく恐ろしい眼をしていたことに恐怖した。
俺はなぜ無抵抗に殴られていたのかと聞いた。アカデミーでの組手で互角にやりあったこともあるナルトが、複数人相手とはいえ殴り返さないのにわけが分からなかったからだ。
『殴り返したら回りから余計に冷たく見られて生きづらくなる。だったらなにもせずに殴られ続ければ、里の人間達からの溜飲は下がるし、最低限、今と同じ生活ができるから』
そう当たり前のように返すナルトに、俺は何も言えなかった。同時に、今の最低な環境を受け入れてるナルトに苛立ちを覚えた。
だが同時に気づいた。あのナルトは、もう一人の自分だということに。うちはであるという腫れ物のように扱われる俺、どういうわけか里そのものの悪意の象徴として扱われるナルト、その違いはほとんどないということに。
(それがまさか、四代目火影の息子で、四代目火影が死ぬ原因だった九尾を封印されていたからだったなんてな)
最近になって知ることになったそれによって、ナルトがどうしてあんなに普段、ほとんどやられてもなにもしないし仕返さないのか疑問に思っていた理由に納得し、そしてナルト自身がそれを受け入れるしかなかったのだと理解した。
言われてみればナルトの態度は、まるで
うちはの遺児である自分以上に、奴の進む道も、背後にも闇がびっしりとしがみついていて、逃げ出すことも振り払うこともできないくらいに雁字搦めになっていた。
(俺と違って、復讐する相手も、成し遂げる目標も何もなかった)
だからナルトが少しだけ実力を身に付けようとしてるのを目撃したとき、俺は驚きよりも何故か嬉しさがあった。
卒業試験前の組手をしてるときは特に心が踊った。今までまるで義務感のように、機械のように戦っていたのに五分五分だったのが、初めて、奴自身が本気で自分の意志を乗せた拳で戦ってきたことに、負けはしたが充実した実感があった。
だから、ナルトが卒業試験で頭を下げて頼んだとき、文句も何も言わずに囮メンバーとして戦った。
(まぁ結果としては一人じゃ勝てなかったが)
兄と比べれば劣る相手とはいえ中忍二人相手に一人じゃ全く通用せず、なんとか俺の火遁とシカマルの影の術を組み合わせてギリギリ拘束できたという感じだったが、それでも今までにはない高揚感があった。
そう思ったとき、インターホンが鳴り俺は扉を開けて確認すれば、そこには紅い髪の女性が一人、ニコリと笑って立っていた。
「うちはサスケくん、でいいかしら?」
「……誰だ、アンタ?」
俺の問いに女性は答え、俺は少しだけ驚いた。
「私はうずまきクシナ、多分こっちに来てるナルトの母親で、サスケくんのお母さんであるミコトの親友だった人間よ」
ナルト班のメンバーは
-
原作通り
-
オリジナル