あの日から数日経って、俺の状況はかなり大きく変わった。
オレが四代目の実子だということが公表され、そして産まれた直後に実の息子に封印するしかなかったという事実は、それまでなぜ九尾をオレに封印したのかと疑問視していた里の人間を、これ以上ない形で納得させるものになったようで、里の人々からの冷たい視線が少しだけ緩くなったような気がした。
「はい、王手だってばよ」
「なぬ!?」
シカクさんの趣味である将棋をしながら、そんなことを想いながら詰めれば、うんうん唸ってしばらくしたのちに参った、と頭を下げるシカクさんに少しだけ嬉しくなる。
「たく、素人だと思って油断したな」
「へっへぇ、油断大敵って言葉、文字通りになったってばよ」
「まったく、殆ど将棋を指したことのないって言っておきながら、穴熊四間飛車からの
ナルトになってからは本当に初の将棋だったが、前世でも友人の趣味でやっていたからそこそこ程度にはやれるのだ。
ちなみにシカクさんもシカマルも将棋を指す時は基本居飛車で、オレは基本的に振り飛車であるが、別段それで喧嘩したりなどはしていないし、これもしっかりとした修行である。
「で、『影分身』の維持は問題なさそうだな」
「ウッス。本体から離れて一時間近く維持できてるなら、多分戦闘でも使えるってばよ」
今から一時間前、オレは三代目のじいちゃんから直接『影分身』の修行を見てやると言われ、本体は今現在、火影屋敷すぐ側にある修練場で『影分身』を利用した組手をしている。
「ナルト、分かってるかもしれないが、お前のチャクラ量は比較的多いほうだ。『影分身』が禁術として指定されている、その分身を数十人単位で作り出す『多重影分身』によるチャクラの消費量もほとんど関係ないくらいにはな」
新しく試合を始めながらシカクさんがそう言った。
「たしかに、こうして影分身を長時間維持できてることからも、そうだって言えるってばよ」
流石に油断が一切なくなったシカクさんの守りを崩すのは難しく、一手打つ度に悩むようになった。
「あぁ、だが、どんなにチャクラが多かろうが一時間も分身を維持できるチャクラを保持し続けるなんてことは、普通は無理だ。それこそ、
そしてオレのミスを狙ってたかのような鋭い一撃が指される。
「ナルト、ぶっちゃけ聞くぞ……お前、『九尾』を手懐けてるだろ」
「……やっぱり、バレた?」
「あぁ、この前の迫害されてるところを見たとき、ふと疑問に思ってな、こんな状況に置かれているというのに、九尾からしたら暴走しててもおかしくない状況なのに、それが一切起きてないってのは、いくらミナトとクシナの封印が強固とはいえあり得ないことだろうと」
たしかに、九尾に限らず尾獣が暴走する原因の1つにもなる迫害、それを生まれてからほぼ毎日のようにうけ、精神的に追い詰められているのに一切尾獣化して暴走しないというのは、どう考えても不自然なことだ。
「シカクさんの言う通りだってばよ。オレは九喇嘛……九尾とは数年前に友人……みたいな関係になってるってばよ」
「数年前って……そんな前からか」
「まぁ言葉は悪いけど、実際話してみたらなんていうか、素直っていうかなんていうか……で、『鍵』が無いから封印から出てないだけで、本人としても出るつもりはないけど、チャクラだけは自由に使わせてくれてるってばよ」
まぁ最初の頃は恨みだなんだと物騒な言葉を投げてきた九喇嘛だったが、喋れる人間が殆どいないオレが毎日のように九喇嘛とお喋りしていたら、四代目のことや母ちゃんのことを話してくれて、今では友人というか、ひねくれた兄のような存在になっていた。
「まぁ実際のところ、毎回毎回暴れてやろうかなんて言ってたけど、ありゃ絶対保護者的な動きだったってばよ」
「物騒な保護者だな、まったく」
「たしかに、でも、オレが毎日のように傷だらけで耐えてたことを、九喇嘛はすぐに気づいてたってばよ。そんで自分のチャクラで怪我を治してくれて……まるで医療忍術でもやってくれてるみたいに丁寧に」
ぶつくさと文句は言ってたけど、あれは絶対に照れ隠しだ。本人には絶対に言わないが。
「ん?……あぁ、え?」
「?どうしたナルト」
「九喇嘛が、シカクのおっちゃんと話したいって……人格変わるけど、驚かないでくれってばよ」
オレはそう言うと意識を九喇嘛に渡した。
『やれやれ、裏から聞いてれば余計なことばかり喋りやがって』
「九尾……いや、九喇嘛と呼んだほうがいいか?」
『好きに呼べ。その程度のことで目くじらを立てるほど狭量ではない』
九喇嘛はそう言うとシカクさんの顔を真っ直ぐ見る。
『シカクとか言ったな、お前、ナルトのことをどう思う』
「……質問の意図がわからないんだが」
『なに、単純なことよ。あの日の小娘同様、お前はナルトとワシを同一視してるような視線はなかった。故の問いだ、ナルトのことを一人の人間としてどう思う?』
そう言って九喇嘛は視線を空へと見上げる。
『コイツの生まれは特殊だ、特殊ゆえにワシが中にいることを物心ついた頃には理解しており、そしてその環境ゆえにワシの考えにも半分は同意していた』
「九尾の考えだと?」
『人など、結局誰かを絶対的な悪として見たがる者だということだ。憎悪や嫌悪と言った悪の感情こそが人間の本質の1つだとな』
その言葉にシカクさんは何も言わない。
『そう言う環境に、ナルトは慣れすぎている。それを助長したのは、間違いなくこの里の負の側面だ。この里は、強すぎる存在に対して敵対する意識が強すぎる、ワシにも、そしてうちはにも』
「……驚いたな、まさか九尾からうちはの名前が出るとはな」
『フン、マダラという例外はさておき、うちはの血を、力を危険視した結果が、反乱の未遂であり、一人のうちはに押し付けるとは世も末だな。あぁ、なぜそれを知ってるのかなんて分かりきった問いには答えるつもりはねぇぞ』
どうやらシカクさんもその内容自体は知っていたようで、頭を抱えていた。
「ったく、あとでナルトには機密書類は読むなとお説教だな」
『そうしてやれ。それがせめてもの大人の役割というものだろう』
「だが、先の質問に答えを返すのなら、ナルトはただのナルトだ、人柱力でも化け狐でもない、ただ親の温もりや優しさを知らずに、それでも他人を気遣う優しさを持って産まれた、ただの子供さ」
そうか、と九喇嘛は興味を失ったような声で頷いた。
『ケッ、悪意もなんもなく言えるってんなら、今のナルトにはありがたい宝になるだろうな』
「そうだと良いんだがな」
『……なら、1つだけ教えておくことにしよう。ミナトの研究内容、そのうちの1つをすぐに見つけ出せ。そうすれば、もしかすればこの里を守る事に繋がるかもしれん』
九尾の言葉にシカクさんが胡乱な目を向ける。
「どういうことだ?」
『ワシもクシナにいた頃に少しだけ聞いた話だ、あのお優しい四代目の研究内容にしては、そもそもが非人道的すぎる術であり、悪辣な一手にもなりえるものだった。まぁもともとは禁術の平和利用の研究ではあったんだが。
ゆえに破棄しているかもしれん。が、もしそれが残っているのならば、それは里を守る手段となりえ、警戒の一手にもなり、そして里を強化する一手にもなり得る』
そうして話した九喇嘛の一言に、シカクさんも、そして裏から聞いていたオレも耳を疑った。
『『穢土転生』の研究を探せ、そこに里を守る一手があるかもしれん』
まさか過ぎる内容は、木の葉を本来の歴史から解離させるに充分な分岐点だった。