『研究レポート『穢土転生』
まずこの術の存在を知ったのは、大蛇丸さんが過去の戦争にて二代目火影である千手扉間様が開発した、死者すら利用する忍術が存在するという話だった。
火影就任後、火影屋敷に保管されていた禁術を確認したところ、たしかにその存在を確認し、その非人道的な術の内容に禁術指定されるのに相応しい理由と、それと同時に、ある意味で平和利用に繋がるかもしれないと考えた
『禁術・穢土転生』は調べたところ、いわゆる死者を蘇らせる蘇生・転生系の忍術ではなく、厳密には生者の肉体を媒介に死者の魂を浄土……死者の世界から穢土……現世へと呼び出す口寄せ系の時空間忍術に近い性質を持つ術式だ。特殊な命令札を組み込むことで自在に死者を操ることができ、呼び出された死者も無尽蔵のチャクラを有するうえに、術者が死んでも解除されない不死の肉体を持つ。
一見強力無比な術に見えるが、同時に弱点も多い。命令を複雑にすればするほど、術者の技量や精度次第では呼び出した存在が十全に力を発揮できなくなり、またかといって力を発揮させるために精度をあげすぎてしまうと、術者の制御に置けずに謀反を起こされてしまう可能性がある。また扉間様の資料によれば、穢土転生解除時に、解除の印を知ってる人間を穢土転生させてしまった場合には完全に制御不能の不死の肉体を持つ、文字通りの災害が産まれてしまう危険性があるという。
ここまで調べた限り、たしかにこの術式は絶対的な禁術として扱うに相応しい術式なのは間違いない。だが同時に、里の戦力・防衛力・そして将来的な理由から、その存在を忘却してはならない術でもあると感じた。
第一に戦力、これは文字通りの意味だ。穢土転生を倒すには基本的に封印術で召喚された存在を封印しなければならない。が、戦争時でも封印術が使える忍が前線に出てくることは殆ど存在せず、同時に封印術を使える人間の戦力としての能力はさほど高くない。例外を除けば基本的に医療忍者に毛が生えた程度だろう。そう言う観点から、常に使うことそのものは危険視せざるをえないが、文字通りの切り札としての運用であればあるいは使えるかもしれない。
第二に防衛力、当然ながら防衛戦力としての意味合いもあるが、これは逆に相手側に『穢土転生』を使用された場合の話だ。基本的に穢土転生で同じ人間を二人召喚することはできない。これは死者とはいえ魂を分割することはできないからだ(ただし、膨大なチャクラを持つ尾獣のような存在を封印する場合、そのチャクラを『陰』と『陽』の性質に分けて封印することは可能だとクシナから助言を受けている)。
これによって強大な戦力を相手側に奪われないようにすると同時に、
防衛的な観点からすれば、もし穢土転生しようとした対象ができなかった場合、それはつまり穢土転生の対象が何らかの理由によって封印されている、もしくは他の人間によってすでに穢土転生されているという状況を確認できるということになる。
これは大きな意味を持ち、戦争になった場合、相手に穢土転生の対象が存在する可能性を考慮できるということになり、使われたとしてもその対処を事前に準備できるということに他ならない。そうでなかったとしても、万が一の備えを準備できるというのはだいぶ事が変わるだろう。
そして将来性、これは穢土転生した存在から術について学ぶことができるだけでなく、失われた秘術や禁術についての情報を得られるということに他ならない。
現に俺自身が扱う『飛雷身の術』を、二代目火影であり、術の開発者であった扉間様から教わることができていれば、その術の完成度や移動可能な距離が大きく飛躍し、教え子であったうちはオビトを助けることや、のはらリンを救うこともできたかもしれない。
後悔しても悔やみきれないが、だからこそ、後の世代の子供たちにはこのような経験をしてほしくないからこそ、偉大なる先達を呼び出し、手解きを受けることで結果的に彼らの飛躍と成長の機会が生まれるかもしれない。それは里の将来の可能性を広げる良い手段になるだろう』
「……ミナト、そのようなことを考えていたのか」
ワシはナルトとシカクによってもたらされた、かつての孫弟子であり後継の火影が残したこの研究内用を読んで後悔していた。
「まさか、あのミナトがこのようなことを考えていたとは、人とは一面だけではないことがよく分かる」
呼び出したダンゾウも、この研究内用については感嘆としており、また同じく側にいるシカクも嘆息していた。
「ミナトにとって、彼らは数少ない教え子でしたからね。それぞれ気にかけていた場面をよく見てましたよ」
「……それが今では、一人は仲間を守って英雄となり、一人は木の葉を守るために自らの命を捨て、そしてミナトも里を守るために九尾を半分自らと一緒に封印してこの世から去った……か」
ダンゾウのその言葉に鋭い視線を向ける。
「勘違いするなヒルゼン、彼らは間違いなく、その場でできる最善を尽くした。それそのものを否定はしないが、だからこそ、このレポートの内用は考慮するに値する内容だとハッキリと断言できる」
「じゃが……これは死者を冒涜する行為だ!!そのようなことを」
「何を寝ぼけたことを宣っているヒルゼン!!確かに、その考え方は否定せん。儂とてむやみやたらに死者を呼び出すことそのものは危険であり、冒涜的である。だが、だからこそ、他人に利用される前にこれを利用しない手はない!!」
ダンゾウは強硬的にでも使うべきだと主張した。
「並みの忍が穢土転生されるだけならば、最悪数を使って封印するなりすれば良いだろう。だが、万が一にでも初代柱間様や二代目の扉間様が穢土転生され操られでもしろ!!それを止める手段など殆ど無いに等しい!!」
「それは……だがかといって生きた人間を使う穢土転生を簡単に行うことは……」
「それこそ死刑囚といった、死ぬことが定められた犯罪者を使えば済むことだ!!死すべし犯罪者一人の命で、里を守れるのであれば、それは安い犠牲というやつだ」
その一言にワシはダンゾウの襟元を掴んだ。
「ダンゾウ、貴様……!!」
「ヒルゼン、お前の行いは善に寄りすぎている。いや、二代目の扉間様を除き、火影となった人間は大概善に寄りすぎている。それそのものを否定はせん。里のトップである人間が悪に寄った里の末路など、『血霧の里』が証明している。内戦とクーデターばかりよ。
だからこそ、こういった表に出せないことは儂に回せ。儂ら『根』は結局のところ暗部であり、木の葉を裏の闇をから守るための牙だ。表に出せない仕事を、表の忍に代わって行うことこそ至上命題だ」
そう言ってダンゾウはワシの手を外すと、その着物を正してワシに視線を向ける。
「だから、お前はワシに命令しろ。お前はこの里を纏める三代目火影だ、清も濁も併せ呑み、里の表の舵を取ることこそお前の役割であろう。
それとも、儂にはそんなことを命令してもやりきれる筈がないと思っているのか?プロフェッサーと呼ばれたお前と長年コンビを組んできた儂には、そんな力がないと、貴様はそう言いたいのか!!」
普段は開かないその左目を開きながらのその問は、いつもの冷血な暗部の長でも、上昇志向の強すぎる強硬派としての顔でもなく、ただただ木の葉の里を支える一人の忍としての覚悟からの問だった。
「……良かろう。だがしかし、絶対に『うちはマダラ』だけは『穢土転生』することは許さん。マダラは『穢土転生』の解放印を知ってる、万が一にでも使われて自由になればどうなるかなど、考えたくもない」
「良いだろう、とはいえ『穢土転生』を行うための術式理解と、生け贄となる死刑囚を連れてくるのにどうしても時間が掛かる。最低でも二週間は待つことになるだろう」
「そうか……ん?ダンゾウ、まさかお主がやるのか?」
「当然だ、禁術中の大禁術だぞ?おいそれと他人に使わせるわけにもいかんし、なにより、儂にはこれがあるからな」
そういってダンゾウは包帯巻きの右腕を見せ、その中身を知ってるがゆえにワシはイヤな顔をする。
「あまり多用してもらっては困るのだがな」
「安心しろ、うちはの遺児にはバレないようにしておる。まぁバレた時は、その時が儂の命の最後というだけよ」
「……転生対象は、言わずとも分かっておるな?」
「ふん、この里で、もっとも穢土転生されてほしくない人間など、二人しか存在せんわ。万が一の事もあるから、ヒルゼンお前が説明役をしろ」
そう売り言葉に買い言葉のように去っていくダンゾウに、ワシは頭を抱えて空を見上げる。
「……ナルトとの錆落としの時間、もう少し増やすとするか」
どこぞの血継淘汰の同年代爺ほどではないが、多少は万全を期す準備ぐらいはしとこうと、年甲斐にもなく思った。