遊戯王GX イレギュラー・シンクロン   作:埜中 歌音

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書き方を変えてみました。


信じる者は瞳の先に勝利を見る

「マスター・オブ・OZ(オージー)で《剣闘獣(グラディアルビースト)ガイザレス》に攻撃! 『エアーズ・ロッキー』!」

 

「うんにゃ、その攻撃は通さんば!リバースカード、オープン! 速攻魔法、《収縮》! こんで《マスター・オブ・OZ》の攻撃力は2100、《ガイザレス》の2400は超えられない(超えながらん)!」

 

「まだだ! 俺もリバースカードオープンなんだな! 罠カード、《野生解放》! この効果で《マスター・オブ・OZ》の攻撃力に守備力を加算して7900、その後に《収縮》の効果で攻撃力半分、攻撃力は……3450! 《ガイザレス》の攻撃力を上回ってるんだな!」

 

「ぬぅ…………っ! たかがこん程度のダメージ、痛とも痒いもないわ! (おい)のライフはまだ1750、残っちょる!」」

 

「まだ、俺のバトルフェイズは終了してないんだな!」

 

()だと!」

 

「 速攻魔法、《融合解除》! 《マスター・オブ・OZ》をエクストラデッキに戻し、融合素材の《ビッグ・コアラ》と《デス・カンガルー》を特殊召喚するんだな!!」

 

「……2体の攻撃力の合計は……4200!」

 

「まだだ! 手札から速攻魔法、《瞬間融合》! フィールドの《ビッグ・コアラ》と《デス・カンガルー》を融合して……《マスター・オブ・OZ》をもう一度融合召喚なんだな!」

 

「こいづは……」

 

「《瞬間融合》はバトルフェイズにも発動可能、《マスター・オブ・OZ》には攻撃権があるんだな! 《マスター・オブ・OZ》で、親父にダイレクトアタック!『エアーズ……ロッキー』!!!」

 

「ぐう……………おああああああああああああああああ!!!」

 

前田熊蔵LP1750→0

winner 前田隼人

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

十代と翔の運命を決める制裁デュエル前日、隼人父の襲来によって突発的に始まった、隼人の退学をかけた前田親子のデュエルの決着から数十秒。

少しの間、武道場の畳に倒れていた隼人の父ーー熊蔵は、立ち上がって衣服の汚れを払った。

約束(やっじょ)は約束《やっじょ》だ、隼人……もう一年だけ許しちゃる。……お前、強よか男になったばい」

 

「いいや、俺だけの力じゃないんだ。皆からもらったカードがないと勝てなかったし、それに三沢からは考えることの意味を、遊海か

らは挑戦することの意味、十代からは楽しむことの意味……そして遊奈には、デッキを信じることの大切さを教えてもらったんだな」

 

その言葉に、隼人の後ろに控えていた面々は一様に笑いながら、それぞれの反応を示す。

 

「最後の決めかたはよかったぞ、隼人。ルールの指導をした甲斐があった」

 

「不可能なんてないのさ! 何事もチャレンジだよっ、隼人!」

 

「ガッチャ! すっげー燃えるデュエルだったぜ!」

 

「君のデッキもきっと喜んでるよ。もっと君と戦える、って」

 

その様子を見た熊蔵が笑みをこぼした。

 

「よか友達(どし)ができたな、隼人……大切に(てせち)しろよ」

 

「隼人の父ちゃん! 俺とデュエルしようぜ!」

 

バッ! と一歩前に出る十代。熊蔵は驚いた顔をしながらディスクを構えた。

その間に大徳寺が割って入る。

 

「待つにゃ、十代君。もう一限が始まる時間ですよ? そんなことでは隼人君じゃなく十代君が留年してしまうにゃ」

 

「えー! でも隼人の父ちゃん、すぐ帰っちまうんだろ……」

 

「はっはっは!」

 

唇を突き出す十代に対して、熊蔵は大声で笑った。

 

「隼人、次の正月休みか夏休みに、友達(どし)連れて帰ってこい(もどっこい)! 空いちょる部屋に泊めてやるばい! 十代君、そん時にいくらでも(どしこでん)相手してやるから(相手しちゃるじゃっで)、今はきばって勉強しなさい(やんせ)!」

 

「親父……いいのか?」

 

「そんなにイキイキした目のお前を見るのは(っのは)しぶり(しかぶり)だがよ。本当に(わっぜ)、よか友達(どし)みたいだから(じゃっで)、父ちゃんはお礼せなならん。……そんじゃ先生、ご迷惑おかけしました(しもした)(おい)これで(こんで)帰ります(もどりもす)。どうか、隼人をよろしくお願いします(もす)

 

「あ、ああ、遠路はるばるありがとうございました、お父様。港まで案内させていただきますにゃ。……それじゃ君たちは一限に出席しなさい。くれぐれもサボりはダメにゃー」

 

熊蔵と大徳寺は武道場を出て行った。

 

「みんな、ありがとう」

 

大人2人を見送ってから、隼人がかしこまって頭を下げる。

 

「本当に、みんなのおかげなんだな。遊奈がくれた《死なばもろとも》がなければ必要なカードは揃ってなかったし、遊海がくれた《融合解除》と三沢がくれた《野生解放》、十代がくれた《デス・カンガルー》…なにより、翔の《マスター・オブ・OZ》が、俺に勝利をもたらしてくれたんだな。ありがとう、翔」

 

翔を除く4人は再び顔を綻ばせたが、

 

「……………おめでとう、隼人くん」

 

翔は、心ここにあらずといった様子でそう呟いただけだった。

ここ数日間、翔はずっとこの調子だ。

3,4日前まではまだ笑顔を見せることはあったのだが、一昨日からは四六時中、何かを思いつめたような顔でため息をついている。

おそらくは彼の心に、明日に控えた制裁デュエルが重くのしかかっているのだろう。

 

「……さて、皆……そろそろ授業に向かおう」

 

少し重量を増した空気を吹き飛ばすように、三沢がパンと手を叩いた。一同は武道場を出てそれぞれの教室に向かうが、その途中で隼人が遊奈を引き止めた。

 

「遊奈」

 

「お、何?」

 

「……本当に、ありがとう。俺がさっきの戦いで勝てたのは、遊奈の言葉があったからだ」

 

「……いや、前田が自分のデッキを信じたからさ。びっくりしたよ、《強欲な壺》、《貪欲な壺》、《死なばもろとも》の3連続は……それで、《マスター・オブ・OZ》の素材と、《ガイザレス》の攻撃をかわすための《速攻のかかし》を揃えたのも凄かった。並のデュエリストはああはいかないよ」

 

「そうやってデッキを信じることを教えてくれたのは、遊奈なんだな」

 

いつも通りの困ったような笑みで、遊奈は昨晩のことを思い出す。

夜中の1時まで、三沢や遊海、十代、翔を交えて隼人のデッキを構築し、数十回に及ぶ調整デュエルでプレイングを指導した。時間が時間だということで夜会は解散になったが、遊奈が遊海を女子寮まで送ってからレッド寮に戻ったとき、隼人はレッド寮の裏の崖に腰掛けていた。

話を聞くと、やはり自信が湧かないらしい。

うつむいたまま途切れ途切れの言葉を紡ぐ隼人の話を聞いているうちに、遊奈は見てしまったーー隼人の背にしがみついて不安そうな顔をする、デス・コアラの精霊を。

隼人の《デス・コアラ》には精霊が宿っている。しかもデス・コアラは隼人にかなり懐いているようだ。

隼人は自分のデッキを愛しているし、隼人のデッキも隼人を主人として認めている。その様子を感じ取った遊奈は、隼人を励ますつもりで言ったのだ。

『デッキを信じれば、必ずデッキは答えてくれる』と。

事実、危ない戦いではあったものの隼人は勝利を収めた。ちなみに、デュエル中ずっと、デスコアラが見守っていたことを隼人は知らない。

 

「遊奈……俺を励ましてくれたように、翔を励ましてやってほしいんだな」

 

隼人の申し出に、遊奈は難しい顔をした。

 

「……励ますくらいなら、ここ2,3日ずっとやってきたよ……でも、丸藤には効果がなかったじゃないか。何か、別方向からのアプローチができればいいんだけど、俺はそっち方面は苦手だしなあ……午前の授業で三沢と相談してみるよ。昼休み、灯台の下にでも集まって、丸藤を元気付ける方法を考えようぜ」

 

「ああ、わかったんだな」

 

軽く手を振って隼人と別れると、遊奈は授業に遅れないように少し早足になった。

 

(……励ます、か……)

 

いつも通りの、消えない独り言を紡ぎながら。

 

(……やっぱ苦手だなあ、人付き合い……どうにかならないものか……)

 

否、

 

(君は、どうすればいいと思う?)

 

遊奈の問いに、傍らのジェット・シンクロンは困った顔をして首をひねった。頭にあたる部分から煙が出ているところを見ると、一生懸命に考えているらしい。

だが、ついには「ボフッ!」という音とともに大量の黒煙を吐き出して首を振った。

 

(はは、難しい質問だったか……ごめんな、話振って)

 

力になれなくて悔しい、とでも言いたげな顔で肩(?)を落とすジェット・シンクロン。

その頭を軽く叩きながら、遊奈は教室へ向かった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「この面子(めんつ)は珍しいな。……それと遊奈、君は今日もカレーか…」

 

昼休み、波止場に腰掛けた3人は、それぞれ持ち込んだ昼食を片手に一休みしていた。

 

「そういう三沢はサンドイッチか。三沢、昼メシはけっこう軽めに済ませるよな。その分晩メシで補ってる感じ?」

 

「ああ。昼食を摂りすぎると、午後の授業が眠くなるからな。それよりも意外なのは隼人の昼食だ。……なんというか、それで足りるのか?」

 

「俺は元々ベジタリアンなんだな。ただ、小さい頃に親父に、ひたすら肉を食わされたからこんな体型に…………」

 

「「なるほど」」

 

隼人が持っているのはボウル一杯のサラダだ。色鮮やかな野菜たちをフォークで口に運んでいた。

 

「……で、とりあえず3人で集まってみたはいいけど……」

 

と、カレーにスプーンを突き刺しつつ呟く遊奈。

 

「……やっぱり励ましじゃ効果ないんじゃないかなあ……丸藤、けっこう心にキてるみたいだしさ……」

 

「しかし、このまま明日を迎えると確実にデュエルに負けるぞ……せめて、十代の足を引っ張らない程度には立ち直ってもらわないと…」

 

「三沢どうにかできない?俺、人生初の友達できてからまだ2ヶ月だからそこんとこよくわからないんだ」

 

「ぶほっ!?」

 

遊奈のカミングアウトに三沢がむせた。

 

「に、2ヶ月前ってここに入学する直前じゃないか!君は一体どんな生活を送っていたんだ!」

 

「若気の至りってやつさ……」

 

「OKわかった理解した、触れないでおこう」

 

閑話休題、と三沢は話題を戻す。

 

「遊奈の言うとおり、翔は優しい言葉や励ましを素直に受け止められるタイプではないようだな……かといって、過激な発破は僕としてはオススメできないかな。丸藤先輩を前にしたときの彼の反応を鑑みると、焚きつけすぎて爆発してしまうかもしれない」

 

「それか、焼き切れて再起不能だね」

 

「「「………………………」」」

 

一同は3人して黙り込んだ。スプーンがカレーに刺さる音、フォークがサラダに刺さる音だけが断続的にあるだけだ。

やがて、サンドイッチの最後の一口を飲み込んだ三沢が呟いた。

 

「……《魔封じの芳香》×《ダーク・シムルグ》か、《魔法族の里》×《王宮のお触れ》か……」

 

「《魔封じダムルグ》にプラスで《Bloo-d《ブルーディー》》と《クリスティア》に《ソウルルドレイン》だね……ダメ押しの《生け贄封じ》に《メンタルドレイン》まで? ここまで揃えられるデッキなんて見当も付かないけど」

 

「やめてくれ遊奈、そこまで行くと本当に突破できないだろう……ん、《ブルーディー》?」

 

「失言失言、忘れてくれ」

 

ひらひらとスプーンを振りつつ、遊奈は素知らぬ顔であさっての方向を見る。

 

(《D》のほうはまだこっちにはないんだったな……《ダイヤモンド逆転クイズ》とか《D-END》とか組みたかったけど……残念)

「でもやっぱりさー、励ましが効かないなら発破するしかなくない? それか、丸藤のデッキを全部汎用魔法罠と妨害モンスターにして、遊城のデッキを魔改造するとか」

 

ニヤニヤと嫌らしい顔を浮かべながら、遊奈はデッキケースを三沢に渡した。

 

「試作型だけど《外道カウンター》。最初は《ライオウ》軸にしようかと思ったんだけど、遊城のサーチまで潰すのはマズいから《カウンターラクーダ》寄りにした」

 

「遊奈、君は……なんというか、毎回毎回()()()()()デッキを組むな……」

 

《外道カウンター》デッキを眺める三沢。その肩越しに隼人もデッキを見て、顔を青くした。

 

「《神の宣告》《神の警告》に始まり、《天罰》《奈落の落とし穴》《強制脱出装置》《因果切断》《くず鉄のかかし》《ブレイクスルー・スキル》………そうそうたるラインナップだな……何気に《サイクロン》と《ギャラクシー・サイクロン》も3積みか……」

 

「タッグパートナーにモンスター用意してもらえるから、無理にモンスター入れる必要もないしねー」

 

「…………『外道』の文字通り、相手を縛りつけて一方的に殴るようなデッキだな……こんなデッキを使って、他の生徒や教師からどれだけのブーイングを喰らうか……」

 

デッキをケースに収めつつ、しかし、と三沢は続ける。

 

「勝ちに行くために最も堅実な方法といえば、これ以上のものはないだろう。まさか相手のデッキも《メタビート》寄りとは思えないし、単純な構築ゆえにプレイミスの可能性も低い。問題は………」

 

「遊城と丸藤が、このデッキを受け入れるか……だろ?」

 

三沢からデッキケースを受け取った遊奈が引き継いだ。

 

「遊城は言わずもがな、相手の邪魔ばかりして自分は一方的に殴り続けるようなデュエルを望んではいないだろうし……それに丸藤だって自分のデッキは好きだろうさ。このデッキを使うってことは、自分のデッキに『お前じゃ勝てない』って宣告するようなものだしね……これは、明日の昼休み、八方塞がったときの最終手段ってことで」

 

頷いてから、三沢は肩を落として言う。

 

「……振り出し、か」

 

「そもそも進んですらない気もするけどね」

 

わずかに残ったカレーをかきこみ、遊奈は波打つ水面を見つめる。

 

「……イチかバチか、発破かけてみる?」

「おいおい遊奈、それはリスクが高いと言わなかったか?」

 

「いやなんか……なんか、いけそうな気がするんだよな……俺、丸藤はそこまで弱い人間じゃないと思う……」

 

「……根拠はあるのか?」

 

「まっっっっっっったく、無い。100%完パーフェクトリー、勘」

 

「君な……」

 

「いや、なんてーかさ、うーん、……やっぱ無理がある……?」

困ったような笑顔を浮かべる遊奈。その背中を押したのは、今まで黙りこくっていた隼人だった。

 

「俺は……遊奈に賛成なんだな」

 

「隼人!?」

 

「三沢、たしかに三沢みたいなできる人間から見たら、翔が弱い人間に見えるのは仕方が無いと思うんだな」

 

「いや、僕はそんなつもりは……」

 

「……いや、実際翔は……それに俺も、人間として弱いんだな……三沢や十代とは、違って……弱いから、自分に自信が持てなくなる。自分に自信が持てないから、もっと弱くなる……だけどみんな、その悪循環から抜け出したいと思ってるんだな……自分の背中を強く押してくれる、誰かを……」

 

空になったボウルを風呂敷に包みなおして、隼人は居住まいを正す。

 

「三沢、遊奈、今日の夜にもう一度、翔を励ましてやってほしいんだな。今までより強く……きっと、きっと翔は折れない……折れずに勇気を出してくれるはずなんだな。俺は翔を、信じる……根拠は、ないけど……」

 

「…………わかった、隼人。そこまで言うなら、僕も彼を信じよう」

 

フ、と微笑んで三沢は立ち上がった。

 

「ところで皆、そろそろ昼休みが終わるぞ。遊奈、次は体育だったはずだが、スポーツウェアはちゃんと持ってきたのか?」

 

「……やっべ、寮のロッカーに入れっぱだ! そんじゃ隼人、放課後部屋行くからそんときに翔を元気づけてやろうな!」

 

隼人の返答を聞かずに立ち去る遊奈。その姿にため息を漏らした三沢が言った。

 

「……方針が決まったのだから、この集まりも無意味ではなかったかな。では僕も失敬するよ。スポーツウェアは持っているが、のんびり歩いていると着替える時間がなくなるからね」

 

「あ、ああ……ありがとう、三沢」

 

言いつつ隼人も立ち上がり、カバンを持つ。

 

「俺はこっちだから、また夜になんだな」

 

「ああ。夜に、また」

 

2人はそれぞれの方向に歩いて行った。波止場に静寂が戻り、波の音だけが響いている。

 

 

 

 

 

 

3人があれこれと議論を交わしていた昼休みの、そこからあまり遠くない、灯台の下。

そこでも、3人の生徒が輪を作っていた。

 

「……それで、ツァンに雪乃、『彼ら』は帰ってきたのか?」

 

唯一の男子生徒ーー丸藤亮は、デュエルアカデミアのロゴが入った袋の封を切る。中から出てきたパンにかじりついて数秒、端正な顔が少しだけ綻んだ。

 

「……卵パン?」

 

かたわらの女子生徒、ツァン・ディレが亮の顔を覗く。亮は首を振って答えた。

 

「残念だが、カツ丼パンのようだ。しかしこれはこれで美味いな。卵パンほどではないにせよ」

 

スーパーレア(スレア)だもんね……はぁ、ボク亮クンがノーマル以下のパン引き当てるところ見たことない……ボクのは……うん、普通のジャムかあ……」

 

はぐ、と噛み切ったパンを飲み込んでから、ツァンは亮がした最初の質問に答える。

 

「帰ってきたことには帰ってきたわよ、またなにかやらかしたみたいで、舎弟が増えてたけどね……結論から言うと……成果ナシ。『あっち』にも手がかりは少なそうね……」

 

「……私のハニー達は気になることを言っていたわ、お姉様」

 

2人と同じ包装紙に入ったパンを食べながら、残る1人の人物……藤原雪乃が割り込む。

 

「そもそも私たちは、自分が『忘れてしまったもの』を探しているでしょう……? けれど、お姉様も亮クンも気づいているはずよ。少しでも油断すれば、その記憶の『存在』すら抜け落ちそうになっていることに」

 

「……『あっち』の連中が『忘れた』ことすら忘れてるって言いたいの?」

 

「現に私たちもそうなりつつあるわ。だからハニー達に歴史書や碑文を調べるように言ったのだけれど……成果は得られなかったわね……」

 

「……『こっち』を調べていた俺のほうも2人とあまり変わらないな……すまないな、雪乃……入学早々、俺たちのことを手伝わせてしまって……」

 

頭を下げる亮に、「気にしないで」と雪乃は微笑む。

 

「それに、お姉様と亮クンが失った『記憶』は、おそらく私が失った『記憶』とも関係しているし……私にもメリットがあるから協力しているのよ」

 

「ありがとう、雪乃。『彼』の治療はどうだ?」

 

亮が言った『彼』の言葉に、雪乃の目が暗い色を帯びた。

 

「……現状維持が限界、ね……カードとしてプレイすることはできるけれど、精霊化は無理。なんとか命だけは繋いでいるわ」

 

「……そうか……『彼』から何か、話を聞けたらいいんだが……」

 

「亮クン、明日香のほうはどうなってるの? 吹雪クンの手がかりは見つかった?」

 

ツァンが言った。亮は顔を伏せて首を振る。

 

「こちらも目立った進展は無し、だ……」

 

「そう……明日香も苦しいでしょうね。吹雪クンが行方不明になってもう半年、あの子ああ見えてお兄ちゃんっ子だったから、見た目より堪えてるはずよ」

 

「俺も早く、彼と戦いたいものだ……ん、そろそろ5限が始まるな。今日はこれで解散にしよう」

 

亮はそう言うと灯台を後にした。雪乃も立ち去ろうとするが、彼女はツァンが立ち止まっていることに気づいた。

 

「……お姉様?」

 

「……………! なんでもないわ、行きましょう」

 

「でも、」

 

「うるさいッッッ!!」

 

ビク、と肩を跳ねさせる雪乃。2,3秒してツァンは自分の顔がまるで般若のように歪んでいることに気づき、気まずそうに目を背ける。

 

「……大丈夫、大丈夫だから気にしないで。…………大丈夫だから」

 

逃げるように、ツァンはその場を去った。怯えた表情のまま立ち尽くす雪乃だけが、灯台の下に残された。

 

「お姉様………」

 

雪乃は見逃していなかった。

ツァンが悲痛な顔で、まるで子供のように自らの肩を抱いていたことを。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「……だいたいこんなもん、かなあ……」

 

「展開は十代が、いざというときの打点は翔が、それぞれ担当でいこう」

 

遊奈と三沢が、デッキを十代と翔に手渡した。

 

「概ね、完成だよ。あとはこいつが、遊城と丸藤の手に馴染むかだね。ラストの調整は自分たちでやってくれ。……さて、プレイングとコンボの確認をしようか。笹嶋さん、俺か三沢と代わってくれ。できるだけ色んなタイプのデッキとの戦いを見たい」

 

遊奈はそう言ってコーヒーを一口含んだ。

十代の部屋でちゃぶ台を囲んでいるのは主人である十代、翔、隼人、さらに客として遊奈、三沢、遊海の6人。時計の針はすでに夜9時を回り、先ほどから遊海と十代はしきりに欠伸を繰り返している(とはいえ、2人ともデュエル中に見せる表情は真面目そのもので、欠伸をしているのは三沢と遊奈が構築について話し合っているときくらいだが)。眠いのは遊奈と三沢、それに隼人や翔も同じようで、コーヒーの消費ペースが普段の倍になっていた。

それもそのはず、6人はここ1週間夜更かし続きだったのだ。毎日床につくのは夜中の1時か2時、しかし翌朝の7時には起きて1限の授業を受けなければならない。

 

「……あ、うん、じゃあ私も新しいデッキを使ってみようかなー……大地、ちょっとそこ代わって」

 

「了解した。マッチ1つで交代にしようか。遊奈、どうだ?」

 

「オッケー。とりあえず笹嶋さん、デッキ見せて」

 

「ほいほい、これだよ」

 

三沢が立った座布団に座り、遊海はデッキを遊奈に差し出す。受け取った遊奈は内容を細かく眺めて、

 

「……………よしわかった、俺はサポートに回るよ。ちょっと軸変える」

 

デッキとエスクトラデッキのカードを数枚入れ替えた。

 

サイドチェンジ(サイチェン)の許容範囲は完全にオーバーしてるけど、許してくれよ。マッチ始まる前だし」

 

「大丈夫だ。よし、やろうぜ!」

 

十代は勢いよくデッキをシャッフルし、遊海の前に置いた。同時に遊海のデッキも十代の前に置かれ、2人はお互いのデッキを手早くカットする。デュエリストが卓上デュエル直前に行う信頼の儀式だ。

遊奈も、自分の向かいに座る翔にデッキを差し出した。だが、翔はデッキを受け取ろうとしない。

 

「……どうした? 丸藤」

 

遊奈は翔の顔を覗き込む。

丸眼鏡のレンズを越えて、遊奈の視線が翔の目を射抜く。

最初は虚ろだった翔の目に、どんどん涙がたまってゆく。

 

「丸藤?」

 

翔の口がぱくぱくと動いた。

 

「僕には………無理だよ………」

 

小さな(ひび)が、巨大な亀裂になるように、

消え入りそうな声が引き金だったかのように、翔の怒号が決壊した。

 

「ダメなんだ、ダメなんだ……っ、僕はダメダメなんだ!!! アニキのパートナーなんてできるはずがないんだ!! 運も実力もないし勇気も根性もないし、結局アニキの足を引っ張って負けるだけなんだ!!」

 

「翔、それは違う!! 俺にはお前が必要だ!!」

 

「違わないよ!!!」

 

十代の叫びを、それ以上の勢いで跳ね飛ばす翔。

 

「アニキは強いから……僕の気持ちがわかるわけがない!! 遊奈くんも、三沢くんも、遊海さんも……隼人くんだって、強い人には僕みたいな弱者の気持ちはわからないんだ!! どれだけ頑張っても、結果に結びつかない弱者の気持ちは………!!!」

 

一度決壊してしまった以上、翔の感情はとめどなく溢れることになる。

 

「『その思い込みがお前を弱者たらしめている』!? 思い込みなんかじゃない! 何をしたって僕は人並み以下なんだ!! 『その思い込みから抜け出さない限りお前は弱者のままだ』!? どうせ抜け出せないんだ! 頑張って頑張って頑張って頑張って、それでも結果が出せなければ『まだ努力が足りない』で僕の頑張りは認められない! 『ならば一生弱者でいろ』!? 元から僕にはそれしか許されてないんだよ!! そもそも弱虫の僕がアニキや遊奈くんや三沢くんといっしょにいること自体、許されないことだったんだ!!」

 

「待て丸藤、明日の制裁デュエルは『タッグ』デュエルだ。今さら……いや、今まで交渉してきてダメだったようにパートナーの変更なんてできないだろうし、君がいないと遊城は2対1っていう圧倒的に不利な状況で戦うことになる。それ以前に、制裁デュエル自体が無効になって問答無用で退学ってこともありえる」

 

遊奈が翔をなだめようとする。

しかし、

 

「アニキは強い! 強いから、たとえ1人でもデュエルに勝てる……少なくとも僕と2人で戦うよりは……だって僕は、絶対に足手まといになる! 3対1よりは2対1のほうがマシだよ!! こんな僕じゃ………こんなデッキじゃ……………」

 

「丸藤ッッッ!!!!」

 

 

 

 

先ほどの翔の叫びよりもさらに痛烈な怒号が、レッド寮の一室を引き裂いた。

その剣幕に度肝を抜かれたのか、その場の全員が息を呑んで黙りこくっていた。

遊奈も例に漏れず、急に何だよびっくりするじゃないか……と辺りを見回す。

 

そして彼は、恐怖に満ちた眼差しが5人分、自分に向いていることに気づいた。

 

そういえばそうだ。この場で翔を「丸藤」と呼ぶ人物は遊奈以外には誰もいない。怒号が遊奈のものだったという事実はギリギリ遊奈にも受け入れられるものだーーーーが、

 

同時に彼は、ちゃぶ台を越えて翔の胸ぐらを掴んでいた。

 

サー……と、遊奈の顔から血の気が引いていく。遊奈自身も、自分の頭が冷たくなっていくことがわかるほどに。

 

(どうすればいい…………)

 

完全に失敗した。少なくとも『翔を勇気付ける』計画は大きく狂ってしまったと言わざるを得ない。それどころかこれは、後々遊奈の人間関係に絶大な悪影響を及ぼす可能性がある。できるだけこの場を、平和に収めなければ………

 

(………………)

 

5秒ほどの沈黙を経て、遊奈はとある答えを導き出した。

…………否、答えを出すことを諦めた。

引いていった血の気が、どんどんと遊奈に満ちてゆく。

 

「今、何言った…………」

 

胸ぐらを掴んだまま、翔をさらに引き寄せる。自身もちゃぶ台に足を乗せて身を乗り出した。

 

「今何言った!! もう一度言ってみろ!! 丸藤お前、自分が何を言ったかわかってるのか!!? 自分の言葉の意味をわかって言ってるのか!!? もしわかって言ってるなら許さない!! 知らずに言ってるなら取り消せ!! 取り消さないなら許さない!!」

 

 

「遊奈待て、落ち着け! 君らしくーー」

 

「大地」

 

割り込もうとする三沢を、遊海が肩を引っ張って止めた。

 

「遊海くん……」

 

「…………遊奈の気持ち、わかる。ごめん、私もちょっと、翔に腹が立ってる」

 

「どうなんだ丸藤!! 取り消すか、今の言葉を!! 」

 

「取り消さないよ!! こんな僕じゃアニキの足手まといにしかならない!! 遊奈くんには関係ないだろう!!? 僕が僕のことを悪く言って何が悪いんだよ!!」

 

「ああ知ったこっちゃねえよ!! お前がお前をどれだけ罵しろうが知ったこっちゃねえよ!!」

 

「じゃあほっといてよ!! 離してよ!!」

 

「だがお前は自分のデッキを侮辱した!!」

 

「…………!!!」

 

「自分のデッキを……自分のカードを侮辱した!! …………それだけじゃない!! このデッキはここ一週間、俺や三沢や遊城や笹嶋さんや前田が、毎日話し合って組み上げたデッキだ!! 俺たちの『想い』の結晶だ!! それだけは侮辱させない!! それを侮辱したお前を、俺は許さない!!! 今すぐ取り消せ!!!」

 

「……………自由だろ!! 僕のデッキを僕が何と言おうと!! 」

 

「……………そうかい、じゃあこのデッキは俺がもらう」

 

「…………なっ!!?」

 

「「「「遊奈!?」」」」

 

翔だけではない。この場にいる全員が遊奈の言葉に目を見開いた。

 

「丸藤先輩も言ってたな。丸藤、お前にデッキを持つ資格はない。俺ならそのデッキを愛してやれる。そのデッキもそのほうが幸せなはずだ」

 

「それは……」

 

「『こんなデッキ』なんだろう? 丸藤、お前にしてみれば。ならお前ももっと強いデッキを組んでみろよ。そのデッキ全部、俺がお前のデッキ(このデッキ)で倒してやるよ。言っとくがその時になって『返してくれ』なんて聞かないぞ?」

 

「ま、待ってよ!! まだ渡すとは言ってない!」

 

「ならデュエルだ。俺がデュエルに勝ったら、そのデッキをもらう」

 

「ま、待つんだな! アンティデュエルは校則で禁止されてるんだな!」

 

「知るか」

 

隼人の制止を一蹴し、遊奈は自身のデッキのカードを数枚入れ替えた。

 

「言っとくが俺は本気だぞ。構築も7軸デッキのサポート用じゃなく、本来の《ジャンクドッペル》に戻した」

 

シャッフルを終えたデッキを翔の前に置く遊奈。

 

「カットしろよ……それとも、場所を変えてディスクでやるか?」

 

「…………………………ッ…」

 

「お、おい翔!?」

 

自分のデッキを遊奈の前に差し出した翔を見て、十代が身を乗り出した。

 

「…………………………カットしてよ」

 

「OK、楽しくなってきた」

 

翔は遊奈を睨みながら、遊奈のデッキをカットする。遊奈もニタリと笑いながら翔のデッキを軽くシャッフルし、相手に返した。

 

「俺が売ったケンカをお前が買った……で、いいな? 丸藤」

 

「……それでいいよ」

 

「遊奈待て考え直せ、君こそ自分がーー」

「翔、ちょっと頭を冷やせ!お前ーー」

 

「「外野は黙れ!!」」

 

「「……………………」」

 

どうやら両者ともに火がついてしまったようだ。遊奈も翔も、対戦相手を親の仇のような目で睨みつけている。

 

「いっちょブチかましてやる!」

 

「かかってこい!」

 

「「デュエル!!!」」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「俺の先攻」

 

ダイスロールの結果、先攻は遊奈に決まった。

 

「《手札抹殺》。お互いに手札を全て捨て、捨てた枚数分カードをドローする」

 

遊奈の初動は、いきなりの大幅な手札交換。墓地アドバンテージを重視する遊奈のデッキではかなり好調なスタートと言えるだろう。

 

「手札を1枚捨てて《クイック・シンクロン》を特殊召喚。さらにコストで墓地に送られた《ダンディライオン》の効果でトークンを2体特殊召喚する。レベル1、《綿毛トークン》2体にレベル5、《クイック・シンクロン》をチューニング! レベル7、《ニトロ・ウォリアー》をシンクロ召喚!」

 

エクストラデッキから白枠のモンスターを出し、ちゃぶ台の上に置く。

 

「《ニトロ・ウォリアー》のレベルを1つ下げ、墓地の《レベル・スティーラー》を特殊召喚。俺はこのターンまだ通常召喚権を残しているので、《ジェット・シンクロン》を通常召喚。レベル6扱いの《ニトロ・ウォリアー》にレベル1《ジェット・シンクロン》をチューニング!《月華龍ブラック・ローズ》をシンクロ召喚! 《ジェット・シンクロン》がシンクロ素材として墓地に送られたから、デッキから《ジャンク》モンスター1体を手札に加える。……俺は《ジャンク・シンクロン》を手札に加える。先攻は最初のターンに攻撃できないから、ターンエンド」

 

 

東雲遊奈 LP4000 手札2

月華龍ブラック・ローズ Atk2400

レベル・スティーラー Def0

 

 

 

「僕のターン、ドロー!」

 

ターンが回って、翔のターン。

遊奈のプレイングに手加減は見えない。本気で翔のデッキを奪いにきているのだろう。

 

(失いたくない…………)

 

先ほどは『こんなデッキ』と呼んだが、翔にとってこのデッキは、今までの人生の大半を共にしてきた存在だ。自身のデッキを『魂』や『半身』と呼ぶデュエリストも少なくはないが、その感覚は少なからず翔にも共感できるものがあった。

 

(失いたく、ない!!)

 

「魔法カード、《死者蘇生》を発動! 墓地の《レスキューロイド》を特殊召喚する!」

 

「《レスキューロイド》はレベル6モンスター……《月華龍ブラック・ローズ》の効果を発動。《レスキューロイド》を手札に戻す(バウンスする)

 

ノーコストで墓地のモンスターを特殊召喚する強力カード、《死者蘇生》。ただし、特殊召喚したモンスターは《月華龍ブラック・ローズ》の効果によって翔の手札に戻ってしまった。

しかし、苦しそうな顔をしているのは翔ではなく、遊奈のほうだ。

《レスキューロイド》単体に《月華龍ブラック・ローズ》を倒す力はない。遊奈としても、1ターンに1度限りの《ブラック・ローズ》の効果は翔の『本命』まで温存しておきたかっただろう。

《ブラック・ローズ》の効果は『相手がレベル5以上のモンスターを特殊召喚した時』に()()()に発動する。《死者蘇生》を失ったとはいえ翔の手札消費はゼロ、《ブラック・ローズ》の効果は実質、不発に終わったーー

 

ーー否、それどころではない。

 

「手札から魔法カード、《融合徴兵》を発動! エクストラデッキの《レスキューキューロイド》を相手に見せて、このカードに記されている融合素材モンスター、《キューキューロイド》を手札に加える! ただし僕はこのターン、《キューキューロイド》を召喚、特殊召喚できず効果は発動できない!」

 

遊奈の顔が、わずかにだが歪む。

逆手に取られた。翔は相手のカードを、自身のキーパーツを揃えるための駒の1つに利用したのだ。

 

「手札から《沼地の魔神王》を捨てて効果を発動! デッキから《融合》を手札に加える!」

 

素材2枚と、《融合》カード……翔の手に、ピースが全て揃った。

 

「魔法カード、《融合》! 手札の《レスキューロイド》と《キューキューロイド》を融合して、《レスキューキューロイド》を融合召喚! バトル!」

 

召喚された《レスキューキューロイド》の攻撃力は2300、《月華龍ブラック・ローズ》に僅かに及ばない。

しかし、

 

「《レスキューキューロイド》で《月華龍ブラック・ローズ》を攻撃! 攻撃宣言時、手札から速攻魔法《決闘融合ーバトル・フュージョンー》を発動! 《レスキューキューロイド》の攻撃力を《ブラック・ローズ》の攻撃力分アップする!!」

 

攻撃力4700にまで達した《レスキューキューロイド》に、いよいよ遊奈のかおに焦りが浮かび始める。

 

「何もなければダメージステップ、《リミッター解除》を発動! 自分フィールドの機械族モンスターの攻撃力を倍にする!!」

 

「!!!」

 

「《レスキューキューロイド》の攻撃力は9400、7000ポイントのダメージだ!!」

 

大火力の、一撃。

“帝王”には敵わないものの、遊奈のライフポイントを削りきるには充分すぎる威力だった。

 

 

遊奈LP4000→0

winner 丸藤翔

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「…………GG、丸藤。なんだ、強いじゃないか」

 

気まずそうに頭をかきながら、遊奈が笑った。

翔はちゃぶ台と遊奈を交互に見て、

 

「…………僕が、遊奈くんに勝った……?」

 

「完敗だよ……俺のデッキは事故を起こしてたわけでもないし、回ってなかったわけでもない。手札に《エフェクト・ヴェーラー》もあったし、ワンキルはないとタカをくくってたんたが……取り消すよ、さっきの言葉。やっぱりそのデッキの持ち主は君だ」

 

だけど、と遊奈はさらに続ける。

 

「君も取り消してくれ。そのデッキは決して弱くはない。そもそもそのデッキが弱いなら、手も足も出ずに完封された俺のデッキ(こいつら)の立場がない」

 

「でも…………もし明日、今日みたいに回ってくれなかったら……」

 

「その時はその時だぜ、翔。俺がついてる。だけど俺がピンチになったときは頼むぜ!」

 

バシン! と十代が翔の背を叩いた。

 

「アニキ…………」

 

「さぁ、明日のためにデュエルだ、遊奈と遊海、相手頼む!」

 

「……望むところだよ、十代! 遊奈、早く早く!」

 

「ちょっ……ちょっと待ってまだ入れ替え終わってない!!」

 

 

その夜、レッド寮の一室は0時を少し回るまで明かりが消えなかった。

その間、終始楽しそうな笑い声が響いていたという。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

デュエルルームの観覧席は、大勢の生徒でほとんどが埋まっていた。それだけ『遊城十代』の注目度が高いということだろうか。見回せば上級生もかなり見ているようだ。

 

「さて、ついに始まるわけですか……」

 

遊奈の呟きに、答える声が2つあがった。

 

「ああ、長いようであっという間だったな….…1週間」

 

と、三沢。

 

「読者の皆様は3ヶ月待たされてるみたいだけど、文字数的にデュエルは次回に回されそうだよ? さらに何ヶ月待たせるつもりなのかなー?」

 

と、遊海。

 

「笹嶋さん、メタいメタい!!」

 

「あ、始まるみたいだよ!」

 

「聞いてよ………」

 

げんなりとうなだれる遊奈。呆れをため息といっしょに吐き出してか顔を上げると、デュエルフィールドに立つ2人の姿があった。

笑顔の十代と、緊張した面持ちの翔だ。

ここで、マイクのスイッチ音が響く。デュエルフィールドの脇でマイクを握るクロノスは、十代達とは逆サイドのフィールドを指し示した。

 

『それデーハ、オシリス・レッドの『ドロップアウトボーイズ』、シニョール遊城十代とシニョール丸藤翔の制裁タッグデュエルを始めるノーネ!! カモーン、『イクリプス・カップル』!!』

 

クロノスの発言、『イクリプス・カップル』に場内がざわついた。

『イクリプス・カップル』。遊奈は知らないが、それが十代達の相手で間違いはないだろう。

 

そして会場の照明が一斉に消え、一拍遅れて2つのスポットライトが『彼ら』を照らした。

 

片方は、小柄な男。140センチ少しの翔と同じくらいだろうか。大きく縁の太いメガネをかけ、そばかすのある頬を恥ずかしそうに赤く染めている。

もう片方は、華奢な女。スタイルがいいというよりはもはや病的な痩せかたで、血の気が全く感じられない肌と合わせてその姿はとても不気味だが……しかし、同時に繊細なガラス細工のように可憐な印象を与える。腰ほどまである黒い長髪で左目が隠れていた。

そして、2人ともデュエルアカデミア本校指定の制服を着ていた。

飾りボタンの色は、3年を表す緑。

 

「…………………ッ………」

 

遊奈は彼らのことを知っている。

……いや、そもそもこの学園にして彼らを知らない者のほうが少ないだろう。

 

『学園最強』の名声を受ける7人の戦士、

七星の守人(セブン・アークス)』。

 

第七席、『屍冥姫(ナイトメア)』泉谷玲。

 

第三席、『聖光王(ライトロード)』空城成功。

 

 

共に、『帝王(カイザー)』丸藤亮に並ぶ実力者だ。




……九州言葉にフランス訛り、変な喋りかたって難しいなあ……クロノス先生が「カモーン!」ってなんだか違和感……この後、ペガサス語とか使いこなせるのか……

お久しぶりです、埜中です。
ええーと……何から謝るべきか……←とりあえず、お待たせいたしました。2ヶ月ですね、2ヶ月……この1話に夏休み全部かけたんですよね……
それも、夏休みを全て使った挙句、隼人VS前田パパのデュエルはラストしか描けないっていう……言い訳は山ほどあるのですが、本当に申し訳ありませんでした。次はないように……と言いたいところなのですが、これから来年の4月まで、投稿がかなり滞ることがあるかもしれません……ご容赦ください。
一応今回は遊奈VS翔、《ジャンクドッペル》VS《ビークロイド》の卓上デュエルとなっておりますが、2ターンで終わってしまいました。たぶん内部時間でも2,3分経つかどうかだと思います。しかし、やっぱり機械族・融合のカテゴリはだいたい脳筋になってしまうんですかね……やはり『丸藤』の血は争えないようです。
次回は制裁タッグデュエルですが……三席さんのデッキはいいとして七席さんのデッキ、まあ、わかっちゃう人もいると思いますが、あえて伏せておくことにします。あ、シャドールとかじゃないですよ!
では、最後になりましたが、こんな駄文を読んでくださった皆様に感謝しつつ、筆を置きたいと思います。皆様にささやかな幸せがありますように。

2015年8月某日 埜中 歌音

質問、アドバイス、デュエルミス等あれば是非是非コメントへお願いします。キャラやデッキのリクエストも受け付けております。
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